新居と家庭菜園
―――今、私達の家で師弟会議が行われている
「私は、グリーナの好きなようにすれば良いと思うわ」
「……部屋はどうするの? リョウが鼻の下伸ばしちゃうんじゃない?」
「失礼ですね。そんな事はしませんよ(する)」
「そうですね。彼女の境遇には同情してます。弟子にしても問題はありません」
「……ムー」
「あらあら、プリシャは弟子が増えるのは嫌なのかしら。フフフ」
「そ、そうじゃないけど、部屋が……」
何やらプリシャが抵抗を見せている。ハリティと面識がないから、警戒しているのかな。ぶっちゃけセドナさんが帰れば、客間を渡して万事解決なんですが、そこには触れないことにする。
「私は、引越しをする選択肢を考えています」
師匠! 一部屋が12畳もありますし、私と師匠の部屋を同じにすれば解決しますよ。そんな事を言いだしそうになったが我慢した。恐らく私の理性が飛んで破門になりかねない。
「お金はあるのかしら?
この際、定住する地を決めて土地ごと買ってはどうかしら」
セドナさんの大胆な意見。しかし悪くない。土地付きの豪邸で家庭菜園をやるのが私の夢だった。しかし、師匠の持ち家であって私は居候の身だ。身の程をわきまえよう。それに師匠に無理にお金を出して欲しくない。ハリティには悪いが、他の師の下へ行ってもらうのも選択肢にあるはずだ。
所で、プリシャがチラチラと私の顔色を伺っているが、なんだろう。
「お金の心配はありません。
……いい機会なので、その事でリョウにもお話があります」
「はい、なんでしょうか」
「討伐隊参加の報奨金の話です」
「報奨金が出るんですね。確かに命懸けですし国として払うのは当然ですね」
「そうですね。それで、リョウの報奨金ですが、騎士団長様からの報告書を元に算出されて、サージマル領の領主から支払われる事が決まり、その報告を頂きました」
「おいくらですか?」
「ゴードレア金貨5枚と大銀貨5枚です」
「……ぶっ!」
下層市民の5年分の給料だった。日本円に直せば1100万円ほどの金額になる、大金だ。討伐隊参加とゴブリン4匹+覚えていない記憶の中で倒した魔物で、ここまでの金額になったらしい。通常、傭兵として雇われる者は危険な仕事なため高給取りが多い。それでも、一ヶ月の平均賃金は大銀貨5枚(100万)程度だ。一ヶ月も掛からなかった討伐隊で、ここまで稼げるのは稀有だった。
「おおー、リョウ! 後で奢ってよ!」
「だめですよプリシャ。これは、リョウが命懸けで稼いだお金です」
「……はぁい」
「ですが、師匠。そんな大金を私が貰っていいんですか?
正直、そこまで働いた記憶がありません」
「いいえ、貴方の働きはそれ以上のものでした。
自信を持って、堂々と受け取ってください」
「いいなー!」
「……分かりました。貯金して大事に使いたいと思います」
「はい。リョウなら使い道を間違ったりしないでしょう。心配していません」
「あらあら、信頼しているのね。妬けてくるわ」
大金だな……何に使おう。師匠に買ってもらった装備品の代金を支払うと言っても師匠は受け取ってくれないだろうし、少し焼け焦げたローブを修理に出そうかな。後は、蓄えておこう。そうしよう。
「では、話を戻します。家を買うお金の件ですがそれも問題はありません」
「なんで!?」
「私に対して支払われる報奨金もあり、家計は大幅な黒字だからです」
「あら、稼いでいるようで羨ましいわ。親孝行はいつするのかしら」
「では、家を購入してハリティを弟子に迎えるという事ですか?」
「私はそう考えています。
ただ、リョウとプリシャの意見を聞いておきたいのです」
「私は、師匠がいいのであれば問題はありません」
「……わ、私も、いいけど」
「良かった! では、決まりですね。ハリティを3番弟子に迎え入れます」
――こうして、師弟会議によってハリティの受け入れが決定し、私達は引っ越すことに決まった。少しプリシャは納得がいってないようで心配だ。そんなに敵視するような相手ではないんだがな。
――後日――
「フフフ、この家なんてどうかしら?」
「お師匠様、さすがに金額が高すぎます」
私達は不動産屋で購入する建物の資料を見ている。この国では土地自体はかなり安く、家屋にさえお金を出せれば立派な豪邸が建てられる。是非とも、庭付きの豪邸に引っ越したいものだ。
「これはどう!? 大きいよ」
「あ、はい。大きいですね。とても購入できる金額ではないですが」
プリシャの相手も疲れる。
「うーん。貴族の私としては、見栄えが良くそこそこ大きいのがいいですわ」
「三番弟子なのに注文が多いですね。誰のためだと思っているのですか」
「ご、ごめんなさい。リョウ」
貴族という人は、やはり見栄えを気にする様だ。身だしなみを整えて、良いスーツに良い時計で営業に行ったりもするし同じ事なのだろう。人には良く見られたいのは当然だ。だが、師匠への厚かましいおねだりは私が許さない。
「ハリティちゃん気にしないでね。意見は言ってくれたほうがいいです」
不動産であれこれ話をして数時間が経ち、ようやく納得できる物件を見つけることができた。新しい我が家は、ラーナ街中央区画の外れにある、貴族などの上流階級が住まう立地だ。
さすがに、大都市の中央区画の土地は安くはない。だが、出せない程でもないのでこの物件に決まった。金額は、金貨100枚で交渉が成立した。中古の物件でもあり師匠達の身分もあってか格安の取引だそうだ。
「ついに家を購入してしまいました。私はラーナで骨を埋めるのですかね」
「師匠、最後まで付いていきます」
「私も! リョウと師匠と一緒に暮らす!」
「あらあら、じゃあ私もここに引っ越そうかしら」
「いいんじゃないかしら、
グリーナ師匠のお師匠様でしたら、私は歓迎いたしますわ」
――1週間後、私達はラーナの街中央区画にある新居へと引っ越した。
ラーナに来てから今まで借りていた思い出の家を見ると、寂寥感はあるが良い思い出として記憶に残ってくれるだろう。新居は広く、家庭菜園とガーデニングを楽しみつつ馬車が数台停められる程の大きい庭に感動を覚えた。片付けが終わり落ち着いたら、師匠の許可を取って家庭菜園を存分に満喫しようと思う。
こうして、私達の新居への引越しは終わり。
また、新しい生活が始まろうとしていた。
その3週間後に認定魔法使い国家試験の受験資格である、国家への功績を証明する賞状が届けられた。どうやら、騎士団長様が約束を守り報告をしてくれたらしい。
今度、お礼のお手紙を送ろうと思う。
これで全てが整った。長いようで短いような日々だった。
次回の認定魔法使い国家試験に向けた、筆記試験と実技試験の勉強に励み対策を練ることにする。それに合格できれば、私は晴れて魔法使いを名乗り行動する事ができるようになる。
――今、試験合格に向けた私の勉強は始まったばかり。
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