神凪三月

第11話 ハジメテノアサ

 昨日はなんだかいろいろあった一日だった。悪い夢のようでもあり、いい夢のようでもある。ひょっとしたら夢なんじゃないか? なんて思ったりする。特に武藤さんとの同居生活。

 だけど、それは事実間違いないことだったようで、朝起きてキッチンに向かうと、洗い物なんかをしている武藤さんの姿を目に留めた。

 既に制服姿。俺も、そんなに寝坊はしなかったはずなんだけど、いつの間にか起きて何時の間にやら家事をこなしていてくれたみたい。

 二人の始めての朝だ。一つ屋根の下でともに一夜を過ごした二人。まあ、色気のあるような話ではないんだけどね。

「ヒャッキン、おはよう」

 もちろん、高校生の身分なので化粧っけというか化粧なんてできないんだけど、朝から可愛いね。はつらつとしている。

「ああ、おはよう」

「ヒャッキンが何時に起きてるかわかんなかったから、起こさなかったけど……大丈夫だった?」

「ああ、全然まだ間に合う時間。いつもより早いくらい」

 そうなのだ。二人暮らしが始まってしまっているのだ。

 例えば、朝、布団の中の俺を武藤さんが優しく起こしてくれる。

 例えばその逆で、何時までも寝ている武藤さんを俺が起こす。なんて展開も楽しげではあるが、武藤さんは案外しっかりもののようで寝坊などしなさそうだし。

 俺も、あまり武藤さんに頼ってばかりはいられない。現状で十分すぎる。

「軽くだけど……朝ごはん作ったから……」

 なんて洗い物を中断して、トーストとハムエッグを運んでくれた。さらには、

「お弁当も作っといたから持って行って食べてね。あと、朝食の食器はおいといてね。帰ってきたら洗うから」

 素晴らしき新妻属性。その心配りにやられてしまいそうになる。

 おおっ、ありきたりの目玉焼きのこの上手さ! 人の手でバターが塗られたトーストを食べる喜び。香ばしいコーヒーの香り……。なんて優雅に朝食を食べていると、一旦キッチンから姿を消していた武藤さんが舞い戻ってきた。

「じゃあ、行ってくるね」

「えっ? 学校? もう行くの?」

「だって、歩きだもん!」

「歩きって……」

 自転車でもニ~三十分かかるんだけど?

「歩くの好きだし、早起きも得意だから……」

 う~ん、なんだかいろいろしてもらっておいて、ああそうですかってのも酷いと思って、

「乗っけていこうか?」

 と提案。いや、まあ下心というか出来心というか、ちょっといやらしい期待があったりなかったりね。

 クラスメイトに目撃されて冷やかされて、武藤さんと俺が付き合ってるなんて噂が既成事実になったりなんかして……。

 とか、ちょっとバランスくずした後ろに乗っている武藤さんが俺にしがみついて俺は背中に武藤さんの胸の感触を感じて昇天するとかね。

 後者については言い過ぎた。忘れてくれ。

 だけど却下される。

「だって二人乗りは禁止でしょ? それにヒャッキンに迷惑かけられないよ」

「じゃあ……近々自転車でも買う? なんだったら今日見に行く?」

 なんて、軽いデートのお誘い? みたいな申請も、

「もったいないよ。それにほんとに歩くのすきなの。歩いてるとなんだか落ち着くんだ。だから前の家からも歩いて通学してたの。ここよりちょっと遠いくらいだったんだから」

 そこまで言うんなら仕方ない。

 登校も下校も別々で構わないさ。だって家に帰ったらずっと一緒だもんね。なんだか、武藤さんに骨抜きにされてきている予感。たんに同居しているだけなのにね。

 で、出掛けに武藤さんが

「そうだ、ヒャッキン、今日の放課後なんだけど……」

 なに? ちょっと期待。

「家に友達連れてきてもいい?」

 なんだそういうこと。

「ああ、いいよ。そんな気を使わなくっても。飯も弁当まで作ってくれてるしさ。なんだったら自分の家だと思って好きにしてくれたら……」

「ありがとう! でも、ヒャッキンにも一緒に会って貰いたいんだ。その友達」

「なんで……」

 まさか……。ここで平和で優雅な朝モードから、超能力者の集いモードにシフトチェンジか? 見事に的中。

「えっと、そのこ、ミーちゃん、神凪かんなぎ三月みつきって言うんだけど」

 うんうん、女の子だね。

「ほら、私が昨日まで住まわせてもらってたお家のこで」

 ってことはちっちゃい頃からの幼馴染で……

「もちろん仲よしだし、お世話になってるんだけど……」

 あれなんですね。ちらっと聞いたよ。友達にテレパスがいるとかなんとか……。

「あたしの提唱するえすぱあ集団の5人目のメンバーなの!」

 えっ? 聞いてない。

「ご、五人~!」

 そりゃそうだ。せいぜい武藤さん、それからその友達それくらいだと思ってた。それが5人もいるなんて……。りっぱな集団じゃないか。世界を救えたりするんじゃないかまかり間違ったら。ってことは……。

「てことは俺って実は六人め? いや、その集団に入るって決めたわけじゃないけど……」

 それに俺の能力じゃあ入ったところで役にも立たない。そういう引け目、劣等感もあったりする。

「ヒャッキンは二人目だよ!」

 どういうこと? なんで俺がナンバー2の座に……。

「そのこね、メンバーが四人集まったら入っても良いって言ってくれてるの」

 ってことは

「うん、今のところはあたしのヒャッキンの二人だけ!」

 なんだそういうことね。

「ねえ? いいでしょ? 会ってくれるよね?」

 まあ、暇っちゃ暇だけど……

「すっごい美人だよ!」

 そんな甘言には負けない。

「お嬢様学校、女子高に通ってるの!」

 ブランドにも肩書きにも負けない。

「剣道やってるの!」

 それってセールスポイントか?

「あたしよりは巨乳だよ。スタイルいいよ!」

 武藤さんより巨乳って大概の女性が該当するような気がする。というか、なんで俺ってそんな女好きみたいなイメージなんだよ。

「なんていうのは冗談なんだけど……」

 どこからどこまでが冗談だったんだよ。女子だよな。

「女の子。可愛いのはほんと。でもってとってもいい子なんだよ。ねっ、会ってくれるよね」

「向こうが良いっていうんなら……」

「じゃあ、決まり! まだ二人だけだからメンバーには入ってくれないけど……、ね、いずれはチームメイトになるんだから早いうちから仲良しになっとくに越したことはない! ありがとう!」

 なんのチームだか知らないけど、なんか武藤さんやっぱり楽しそうだ。超能力者にであったり集めたり、引き合わせたり……。

 自分が特別な能力をもっていることで腐らず、かといって自慢もせずポジティブに受け止めてるなぁ。

 ずっとコンプレックスを持って生きてきた俺の胸の闇を晴らせてくれるような……、そんな期待までしてしまう。

 というわけで、そんな約束を取り付けて武藤さんは登校。俺は残りの朝飯を片付けて、しばしくつろいでから、学校へと向かった。

 そして、話は放課後、俺の家……へと舞台を移す。武藤さん曰く、可愛くて性格もいいって女の子。少しは期待していたんだけど……。

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