第10話 誰を信じられるか

「二人だなんて、よく言う」


 小詠が然山寺から出た後、みなとと日陰は二人で話していた。


「事実、今はもう二人、やろ?」


「確かに、彼女は危険だった」


 そう口にする日陰の瞳はどこか納得してはいないような不満を感じた。それもそうだ。日陰の性質からして、ああしてしまったのは認められることではない。とは言えそうせざるを得なかったことには納得している。


「それより、最初の攻撃が失敗したのみなとのせい」


 厳しい口調で みなとを責める。みなとはとぼけたような仕草をするが日陰はさらに問い詰める。


「みなとの殺気バレバレ。あれのせいで導き手コンダクターに察された」


「それは悪かったって。せやけどその後はうまくやれたろ?」


「それは、まあそうだけど」 


 日陰はどこかはぐらかされた気もするが、これ以上追及するつもりもないので黙り込む。


「ところであの魔法少女。いいや、どちらかというと導き手コンダクター、少し妙やないか?」


「うん。魔法少女に協力的すぎる。そのくせ、重要なことは何も教えていない」


 二人が感じた違和感。それはディーモンデリラリェイエスに対してが大きい。彼は、自分らが持つ導き手コンダクターに比べて異質だ。まず、導き手コンダクターはあそこまで魔法少女にべったりとついて回らない。それが二人の共通認識だった。


導き手コンダクターにとって魔法少女は自分の願いを叶えるために必要な存在。だから、魔法少女を守るのは自然かもしれない」


「でも、うちらのはそうやない。あいつらにそんな考えはない」


 二人の導き手コンダクターにとって最優先事項は魔物を見つけることだ。だから普段は魔物の捜索をしている。みなとの導き手コンダクターは鳥なので空から、日陰のは兎なのであちこちを飛び回っている。合流するのは魔物が出現した時くらいだ。


「犬やからわざわざ探し回る必要がないとかか?」


「それなら日陰のルシィラフェルトも同じ。兎は耳も鼻も利く」


 やはりあの導き手コンダクターが特別だということか。むしろ、小詠が知らなかったあのことを含めると、導き手コンダクターが魔法少女の近くにいることは酷く自然だと、日陰は感じる。それは自分たちの導き手コンダクターの方がおかしいと感じるほどに。


「そういや日陰、小詠と戦った時はどうやった? どんな魔法か分かるか?」


「確信はできないけど、だいたいは」


「魔法少女の道具は破壊できない。なのに、彼女の剣は日陰の刀に切り込みを入れてきた」


 一度変身を解いたことで、その破損は既に回復しているので、その傷を実際に見たわけではないが、刀を合わせた時の感触から、それが起きていたことが推測できた。


「恐らく絶対切断」


 破壊不能であるものを斬れるのだからこの魔法であると日陰は推測する。しかし、日陰はそうは思いたくなかった。をもしそうであればなすすべがない。どんな魔法を持っていたとしても、それを斬り捨てられてしまう。まさに最強の魔法だ。


「だとしたらあまりに強すぎるな。日陰みたいに何かリスクはないんか?」


「たぶん、ある。導き手コンダクターが彼女を守ったのが証拠。無敵の魔法なら守る必要がない」


 日陰はディーモンデリラリェイエスが自分の攻撃から守ったことに着目する。もし、小詠の魔法が完璧な絶対切断であればわざわざ守る必要がない。日陰の炎を小詠が斬り捨てればそれで済む話だ。


「連続して使えない、とか」


「回数制限がある、なんてのもありそうやな」


 そのあとも二人は小詠の魔法の欠点について議論を交わすが、確信を持てるものは出てこなく、結局最初に出てきた連続で使えない、回数制限があるのどちらかに絞られた。


「そろそろいい時間やな。じゃあこれで最後にするか。日陰、あんたが小詠をあんなに毛嫌いしたのはなんでや? うちには悪い子には見えへんかったが」


 みなとも疑問に思っていたことだ。確かに最初は殺気を抱いていたものの、話してからはそうではなくなった。だから、日陰があからさまな敵意を向けているのが不思議なのだ。


「……、分からない。でも、何となく、臭い」


「臭い?」


 みなとは困惑する。みなとはそんな臭いは感じることはなかったが、日陰の鼻が特別いいのだろうと思った。


「うちは何も感じなかったで」


「そういう意味の臭いじゃない」


 呆れたようなため息を吐く。


「言い直す。雰囲気、それが気に入らない」


「そうか? うちには分からんかったが」


「みなとには分からない。日陰にしか分からない」


 そう言い切って突き放す。しかし、日陰にはそう思えるだけの確信があった。日陰自身の性質から、それを最も感じ取れるのは日陰だと確信している。


「じゃあ、警戒は必要やな」


 日陰は無言でうなずいて、話は終わったとばかりに立ち去ろうとする。


「ああ! ちょっと待ちいや! 一緒に帰らへんの?」


「日陰は一人で帰る」


 その言葉には明確な敵意が含まれていた。それを受けてみなとは静かに笑う。


「みなととは魔法の相性がいいから協力してるだけ。どうせ最後には、でしょ?」


「……それもそうやな、必要以上に慣れあうことはない」


「その通り」


 少しだけみなとは悲しそうな顔をするが日陰は気にも留めずに立ち去った。


「確かに、そうかもしれへんけど。うちはあんたの願いなら、叶ってもええと思ってるんやで」


 誰もいなくなった然山寺で雫の落ちるような声が響いた。


 

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