冒険者さんたち、ごめんなさい。

 恥ずかしいステータスを見られて、俺はたたまれなくなり、そそくさと冒険者ギルドを去ろうとした。


 ところが……


 ギルドの待合室にいたチンピラ冒険者の一人が急に俺の前に立ちふさがって、通せんぼをした。


「へっへっへっ」


 気持ち悪い笑い声をあげるが、目は笑っていなかった。

 巨漢だった。

 この異惑星の単位がどうなっているかは分からないが、地球の単位で言えば、パッと見、身長2メートル、体重150キロ近くありそうだ。


「兄ちゃん、見慣れねぇ顔だな。この辺の人間じゃねぇだろ。まあ、それは、ともかく、だ」


 ここで巨漢のチンピラ冒険者は、さらにニタリと笑った。


「さっき、その奇妙な銀ギラ銀の服のポッケに入れた不思議な輝きの合金製のコイン、俺様に寄こしな」


 き、来た! やっぱりこういう展開か!


 俺は黙って巨漢の横を通り抜けようとしたが、右サイドをキツネ顔でヒョロッとしたチンピラ冒険者にふさがれ、右サイドを小太りのブタみたいなチンピラ冒険者にふさがれた。


 気がついたら前後左右、チンピラ冒険者たちに囲まれていた。


「へっへっへっ」


 どいつもこいつも、判で押したようにゲスな顔で笑っている。


 チッ、しょうがねぇな。


 俺は心の中で舌打ちすると、完全密閉の銀色のツナギ型サウナスーツのファスナーに手をかけた。


 一気に腰までファスナーを引き下げる。


 その時、堂々とした中年の男の声がギルドの待合室に響き渡った。


「待ちたまえ!」


 声の方を見ると、いかにもギルド長といった感じのダンディな中年男ふう冒険者が、こっちを見ていた。

 なんか、物わかりの良さそうな、正義の味方っぽいギルド長だった。


 でも、もう遅かった。


 俺は、その時、すでにファスナーを腰まで下げ、ツナギ型サウナスーツを上半身だけ脱いでいた。


「ジェノーッサイドゥゥゥ・ワッキィィガッ・スプレッッッダーァアアアア」


 俺は叫んだ。


 冒険者ギルドの建物じゅうの人間が、全員、悶絶してHP0ヒットポイント・ゼロになった。


 どうやら、建物内のような閉鎖空間では、俺の「ジェノサイド・ワキガ・スプレッダー」は威力が増すらしい。


「そうか……ジェノサイド・ワキガ・スプレッダーは、閉鎖空間の中で使うと、においが充満して、何倍もの威力になるのか……」


 こうして「冒険者の町」の「冒険者ギルド」は、俺一人の力によって、壊滅してしまった。


 そろーり、そろーりと、パッと見、正義の味方っぽかったダンディ中年ギルド長の所に行ってみる。


 そのパッと見、正義の味方っぽかったダンディ中年ギルド長も、悶絶してHP0ヒットポイント・ゼロだった。


「やべぇ、俺、今、すげぇ極悪犯罪者になっちまったんじゃねぇか」


 サウナスーツのファスナーを閉めながら、俺はガタガタと震え出した。


「逃げなきゃ」


 このままでは、冒険者ギルド大量HP0ヒットポイント・ゼロの犯人にされてしまう。

 誰かに発見される前に、この冒険者ギルドから逃げよう。


 俺は、そろーり、そろーりとき足、し足で冒険者ギルドの事務所を通った。

 関係ない事務所の人間も、全員、HP0ヒットポイント・ゼロになっていた。

 事務所を抜けて、裏口から建物の外に出た。


 俺は全速力で町から逃げた。


 町を出ると、すぐに道が三本に分かれていた。

 道には立て看板があり、それぞれ「初心者の森」「中級冒険者の森」「上級冒険者の森」と書いてあった。


 俺は迷わず「初心者の森」への道を進んだ。


 森の中へ入った。


 しばらく歩いていると、木の枝から何かがポトッ、と落ちてきた。


 緑色の半透明のドロドロした物体だった。しかも動いている。


「スライムだ」


 俺は思った。


 スライムは徐々に俺の方へ近づいてくる。


「やべぇ、逃げよう」


 うしろを向くと、そこにはゴブリンが立っていた。鉄の短剣を持っている。


「ぐるるる……」


 怖そうなうなり声を上げている。


 チッ、仕方がねぇ……アレをやるか……


「ジェノーッサイドゥゥゥ・ワッキィィガッ・スプレッッッダーァアアアア」


 ゴブリンとスライムは、同時に悶絶してHP0ヒットポイント・ゼロになった。

 しかも、HP0ヒットポイント・ゼロになった瞬間「ちゃり~ん」という音がして、ゴブリンの体もスライムの体も消滅してしまった。


(そうか……冒険者の森では、HP0ヒットポイント・ゼロになると『ちゃり~ん』という音がして体が消滅するのか)


 スライムの消滅した場所に行くとコインが一枚、落ちていた。

 それほど価値のあるコインのようには見えなかったが、何かのしにはなるかもしれない。

 俺は、コインをポケットに入れた。

 今度は、ゴブリンの消滅した場所へ行ってみる。

 コインが2枚落ちていた。それも拾ってポケットに入れる。


(そうか、ゴブリンをHP0ヒットポイント・ゼロにすると、スライムより多くのコインが手に入るのか……たぶん、ゴブリンの方がスライムより強いからだな)


 ゴブリンが落としたものは、それだけではなかった。


 さっきゴブリンが持っていた短剣も、地面に落ちていた。俺は短剣を拾って腰に下げた。


 コイン三枚と、短剣を手に入れ、俺は「初心者の森」を奥へと進んだ。


 しばらく歩くと、また、木の枝からスライムがポトッ、と落ちてきた。

 もう一度スプレッダーを発動しようとサウナスーツのファスナーに手をかけたが、いちいち叫ぶのが面倒めんどうくさくなったし、せっかく手に入れた短剣の切れ味も試してみたかったので、のろのろ迫って来るスライムに短剣で切り付けてみた。


「ちゅう~……げげげ~」


 スライムが情けない声を出した。

 どうやら短剣で切り付けてもダメージがあるらしい。

 もう一回切り付けてみた。


「ちゅう~……げげげ~」


 さらにダメージを受けたようだった。

 三回切り付けると、スライムはHP0ヒットポイント・ゼロになって、さっきと同じように「ちゃり~ん」という音とともに消滅した。

 やっぱりコインが落ちていた。ポケットに入れた。


(ようし……こうやって少しずつ森の奥へ行きながらスライムを倒していけば、少しずつコインがたまっていくのだな)


 俺は森の奥へ、奥へと入って行った。


 しばらく行くと、前方でガサガサッ、という音がした。

 俺は、立ち止まって、しばらく様子を見た。


 ゴブリンが一匹、木のかげから出てきた。


「ぐるるるる……」


 いきなり、ゴブリンが凶暴そうなうなり声を上げて、手に持った短剣で切り付けてきた。

 俺は、先ほど別のゴブリンを倒して手に入れた自分の短剣で、その攻撃を受け止めた。


「ジャキーン」


 短剣と短剣が、音を立てて衝突する。

 地球にいたころは運動不足のヒョロ高校生だった俺も、オヤッサンこと神様の特訓を受けて、どうやら多少の体力と敏捷性は身に付いていたらしい。


 俺は、ゴブリンに反撃のすきを与えずに、第二攻撃を仕掛けた。


「ギェエエエ」


 俺の第二攻撃がゴブリンに当たり、ゴブリンが変な声を上げた。どうやら敵のHPヒットポイントけずれたらしい。


 敵のゴブリンの攻撃を剣で受け止め、自分の攻撃を着実にゴブリンに当てて行く。

 これを5回ほど繰り返すと、最後にゴブリンはHP0ヒットポイント・ゼロになり、「ちゃり~ん」という音をさせて消滅した。


「なるほど……ゴブリンは5回の攻撃でHP0ヒットポイント・ゼロになるのだな……」


 ゴブリンの消滅した場所に行ってみると、先ほどと同じ短剣と、コインが2枚落ちていた。

 コインはポケットに入れたが、短剣をどうしようか迷う。

 捨てておくのも、もったいない。


「まあ、良いか。二刀流でも試してみるか」


 俺は二匹目のゴブリンから手に入れた二本目の短剣も腰から下げた。

 これ以上、何か武器を手に入れても持ち歩くことが出来ない。


(何か、こう『何でも大量に入る魔法の袋』みたいな物が手に入れば良いのだが……)


 そんなことを想いながら森の中を奥へ奥へと進んだ。

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