MHASC“せんかく”2022年//05_2016年8月15日
MHASC( エム・ハッシュ )“せんかく”2022年//05_2016年8月15日/暫定治安維持機構
「せんかく艦長_三津原です、皆、楽にして聞いてくださいね。」
「わが先進指揮護衛艦せんかくの処女航海も、いよいよSSTO-01“ちしま”の着艦運用試験を迎えるにあたって、大詰めをむかえつつあります。」
「暫定治安維持機構による国家創建計画は端緒についたばかりで、いまだ、日本国解体主義者による劣化市民革命はとどまるところを知りませんが、
「それはまた、日本国国防の基幹部を担う我がせんかく以下、陸自、空自の各主力部隊、および在野有志の尽力するところにおいても、敵は日本国の外ばか
りではなく、日本国内にもあまた存在する、という事を表しています。
「このことについては、改めて繰り返すまでもないでしょうね。」
「自衛隊国土防衛戦略の先進的戦術部隊である『絶対迎撃圏展開機動群第一グループ』、すなわちAITモビル1の実戦運用試験の第二フェーズが、継原三
佐をはじめとする戦技開発特殊航空団関係各位の尽力によって、この度終了しました。改めて感謝申し上げます。
「人民解放軍、およびロシア極東軍戦略部門の領空侵犯も、第二フェーズ運用試験中に限っては、回数こそ微減ですが、侵犯ルートの大幅な後退が見られた
事は、AITモビル1の戦術的運用が成功裏に進む、という大いなる希望を持たせるものであります。
「F-3“日本鬼子”進空予定直前に一時期あれほど増大した人民解放軍ステルス機『J-20』『J-35』『J-41』による威嚇的な侵犯も、運用試
験が開始されてからはほとんど行われなくなった事は周知の事実であり、国民に“安心の笑み”を保証できた、という事は誠に意義のある取り組み、といえま
す。
「それからレーザーガンポッドの正式名称が決まりました。『草薙の剣』です。ちょっとかっこいいわよね。」
艦長の訓示を聞いている艦内各所の聴衆から拍手があがった。
艦長はより本質的な分析を語る。
「日本人として生まれた事が恥ずかしくてしかたがない左翼自虐史観主義者を多数派とする、いまだ多大なる影響力をもつ社会的集団への警戒は、むしろ地
球圏全域で進行している高次情報戦争である第三次世界大戦の、日本国内におけるきわめて特徴的な局地戦においてその意味をもつというべきでしょう。
「その前線において特殊戦に従事しているここにはいない有志諸君の健闘を、みなさんも含めてまず称えておきたいと思います。」
「異なる価値観をもつ国家間における民族的自己同一性の共存こそが21世紀的民主主義の発展的更新に寄与するものであり、
「私たちがその独善を制御した自由と民主主義を構築する先兵となる準備は整っています。
「独善的な覇権帝国主義国家の価値観は、すべてにおいて警戒せねばならないのはいうまでもありませんが、東シナ海、南シナ海における中国の強行主義に
対抗する事と、日米安保条約の21世紀的時代環境に即した発展的更新作業を遂行する事は、まさに等価であることを述べておきます。
「『絶対迎撃圏展開機動群』による新世代日本国防衛の構築が、その根幹をなす、という事実とそのすべてのコメントは、改めて諸君らとともに共有してお
きたい所です。」
「わが“せんかく”に続く、先進指揮護衛艦2番艦“ふてんま”、および潜水指揮護衛艦“たけしま”の竣工も控えて、我々はまさに歴史の1ページが描か
れる時代に直面している、といってもよいですが、
「これはひとえに、醜悪な観念遊技に凝り固まった、日本国守旧派全体に提供する大いなる希望といえるでしょう。」
「希望を運用するには、鍛えられた意志と実行力が不可欠です。みなさんにはそれが存在しています。」
「妨害勢力の規模、性質は日々変化を重ね、高度化深度化をきわめていますが、それらに対応して抜かりのない戦術戦略の検討、現場に即応した訓練の身体
定着こそ日本国自衛隊の真骨頂といえます。」
「2016年年8月15日の事件を記憶している諸君もおられる事と思います。かつて市ヶ谷にて割腹して果てた憂国の作家_三島由紀夫になぞらえる論評
もあるようですが、
「我々、国を守るものとしては、机の上でまとめられた文学論は、指針ととして伺うものはしっかりとわきまえつつ、生存への実用的な手段として、具体化
してゆく行動力が重ねて求められるものであります。」
「以後、みなさんに期待する所、ひとえに大であります。
「本日までの、せんかく運用試験航海に臨む諸君らの労にまず感謝を述べておきたいと思います。」
先進的国防力を備えた最新システムの最高責任者にしては、いくぶんおっとりに流れた穏やかな話し振りだが、緩急正しく無駄の無い話である事は、すでに
実証済みである。
「2011年の東日本大震災の復興支援を通して立証されたみなさんの国を思う志はいかなるものにも侵される事のない尊いものであります。
「それが、国家創建の展望にうまく合致する行動として完成されてきた現在までの過程には、まさに改めて重ねて深くねぎらいの言葉を送りたいと思いま
す。以上、有り難うございました。」
ぱちぱちぱちぱち…ぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱち…
ぱちぱち…ぱちぱちぱちぱち……ぱちぱちぱちぱち…
艦内放送によって流れた艦長の言葉が一段落するとともに、艦内各所から拍手が巻き起こった。
それは個々の拍手が集まってゆき、やがて遠雷のような響きになる。
艦長は、正面に掲げられた日章旗に軽く一礼して、言葉を区切った。
「艦長、すばらしい訓辞でした、有り難うございます」
“発信管制官3人娘”が、花束と贈り物らしきリボンをかけた袋を持参した。
「お誕生日おめでとうございます!」
3人の声がきれいにそろった。
「え"!」
粋なサプライズだ。
「艦長、今年でおいくつになられたんでしたっけ?」
「やだ、もう…聞かないでよ。」
「1964年生まれですよね…」
「あ~あ、調べればわかっちゃうけどねぇ…」
「あのぉ、艦長?」
「なに?」
「マイクのスイッチ入ったままですけど…」
「あ、ちゃぁ~…」
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