第56話:連携―Delight―
ホウセンカを襲うバイオスフォトンの粒子砲を避けつつもキノナリとニーア、ユカリが率いるミスティアの部隊は海上を滑りながらも、ディスプレイに映る敵影を確認する。バイオスフォトンの粒子砲が続く間、分断されてしまったホウセンカ組とミスティア部隊は、それぞれで会敵し戦闘をしなければならない。ミスティア部隊は合計四機なので不安は少ないが、ホウセンカ組はキノナリとニーアの二人だ。ヒューマがバリアーを展開中、グレイはキノナリ達の応援のための狙撃が行えない。
正直、辛い状況ではあるが、キノナリはそれでも冷静に前線指揮者としてニーアに命令をする。
「バリアー展開終了まで、こちらも作戦通りいくよ」
「了解です!」
キノナリの命令通り、ニーアは砲撃機でありながらも彼女の盾のように前方に出る。近接戦闘を行えないわけではないが、ただでさえ武装が多く取り回しも厄介な現状である。
だが彼は自分から不利な近接戦闘を行うために前に出るわけではない。ましてやキノナリを庇うわけでもなく――――
「発射!」
脚部に取り付けられたヒューマが使用していたグレネードランチャーを使い、敵が進むであろう海面にグレネードを撃ち出した。攻撃に警戒心を抱く海賊は、その爆発の被害を受けないようにそのスピードを抑えて攻撃に備えるために左腕に装着していたシールドを構える。
だが、海面にぶつかり爆発するはずであったグレネード弾は、確かにその中身をばら撒いたが、現れたのは予想に反して威力の欠片もない煙であった。スモークグレネード。殺傷性は皆無だが、並のギアスーツならば視界的影響を与える事が出来る。
だがそれはニーア達も同じだ。ギアスーツは熱源サーチもエネルギーサーチも標準で使用できるが、スモークグレネードの煙はそのギアスーツのサーチを尽く邪魔をするように、バイオスフォトンを少量混ぜ込んであり、熱量も有している。ギアスーツという条件下であれば、このスモークの先を見通す事は不可能だ。それが未改造であれば――――
「ニーア。送るよ!」
キノナリは背部のレドームを展開させ稼働させる。キノナリのタイガートパーズは電子戦に秀でている。それは同時に如何に状況判断が難しい戦場でも確実なる状況分析が行えるようになっている事だ。たとえそれが海中でも。たとえそれが光学迷彩で隠れていようとも。たとえそれがスモークの先にいる敵を把握するためにも、その能力はいかんなく発揮される。
キノナリが得た動きを止めた海賊の配置情報を受け取ったニーアは、それに従って両腕のガトリングガンと両手のアサルトライフルを構え、カーソルをその目で見定め引き金を引く。放たれる銃弾の木枯し。一発の威力は低い銃弾でも、相手が何をしようとしているかも解らない海賊にとってそれは脅威で、何機かがニーアの銃撃に声を上げてその命を散らす。
仲間の死に攻撃の正体に気づいた海賊はスモークの中を進み突破しようとするが、その間にもキノナリの高性能センサーから伝ってくる生の情報を基にニーアは銃を乱射し続ける。だが、やはりそれで仕留めきれるわけがなく、数機がスモークを突破してくる。
「なッ!?」
だが、それぐらいの計算はキノナリだってできていた。ニーアが取り逃がした海賊に目がけて、威力の高い銃撃が喰らわせられる。見事なヘッドショット。その撃ち放った主はキノナリだ。キノナリのボルトアクションライフルで一発ずつだが確実に敵を仕留めていく。
順調にも見える現状。しかし、現実はそこまで甘くはない。
「ニーア、一度退避!」
「キノナリさんこそっ!」
二人が同時にその攻撃に気づく。乱雑に放たれた上空からの攻撃。数発によるグレネード弾だ。おおよそ、スモークの突破が難解であると解釈したのだろう。味方がいてもおかしくはないというのに、海賊はグレネードを投げ込んできたのだ。この状況下でそれがスモークグレネードなわけがなく、ニーアが盾になるようにキノナリを庇いつつも一度後退をする。
爆発するグレネード弾。同時に発せられた爆風でスモークは掻き消される。これで一発限りの煙幕のカーテンはひっぺ返されたわけだ。ニーアとキノナリはほんの少しの焦りを覚えた。
――――その一発の銃弾が、グレネードから現れた爆炎を貫くまでは。
「グァ――――」
その死の間際の声は狙撃手の耳には聞こえていない。声が伝播するには海と風が邪魔で聞こえるはずがないのだ。狙撃銃を構え、その男、グレイはキノナリとニーアを認識しつつスコープ越しに敵の頭を狙う。
狙撃の意味。それはホウセンカが無事に守られた事、そして何よりギアアーマーの脅威は去った事を意味する。先程まで分断していた粒子砲も、まるで息で吹き飛ぶ砂のように掻き消える。
ミスティア部隊の隊長、ユカリは実戦経験の少ない部下が存外に善戦しているのを確認すると、ホウセンカ部隊の応援に出る。背中のスラスターに連結するように、エックス状に納まっているヒートブレイドを鞘から引き抜き、キノナリ達に負けじと迫る海賊を横から切り裂いた。
「やらせないっすよ、先輩達をなぁッ!!」
小慣れた動きで海賊を切り裂きながらも、その後ろから現れる別の敵に意識が向かう。アサルトライフルを構え、今にでもユカリを撃ち抜こうと引き金を引こうとしている。
その一瞬、ユカリは乗機であるミスティアのあるシステムを起動させていた。ミスティアを走る黄色のラインが緑色に発光する。
放たれた銃弾は、確かにそのミスティアの銀の装甲を当たったはずであった。しかし、貫通はせずとも傷一つは付くはずの装甲には当った形跡すら残らない。
「ミスティアはァ――――」
ユカリは正常に機能したツバキ仕込みのエネルギー装甲に満足しつつも咆哮する。狙われた敵が慄く中、ユカリはその性能差をありありと見出し宣言する。
「次世代を担う、希望なんっすよッ!!」
両手に持ったヒートブレイドに熱を灯し、アサルトライフルを握っていた海賊の両腕を切断する。痛みと攻撃の反動で肉体が下がる海賊。ユカリはその男の生死など気にもせずに、ヒューマの代わりというようにキノナリ達の前に出た。
ユカリの登場に後方に下がりつつあったキノナリ達は、再び前方へ歩を進める。
「ナイスアシストよ、ユカリ!」
「あざっす! さぁって、ニーア込みの四機連携でも見せるっすかねッ!」
「えっ!? そんなの聞いてないですよ!」
「大丈夫。あれ、言ってるだけだから」
ユカリのいつもの思い付きに焦るニーアをなだめるキノナリを余所に、ユカリはへへっと笑う。新型機の実験のために戦場を離れていたためか、この空気が懐かしく感じるのだ。それは一人の人間としてはあまりいい感覚とは言えないが、戦士としては当然の感覚であった。
戦場を突き進むホウセンカ一行。そして、あの男も当然、その戦場を駆けだしていた――――
◇◇◇◇
決死の攻撃を防がれた男は、抑えきれない感情を暴走させながらも敵戦艦のギアスーツデッキに現れた、ある一つの物体を確認して更なる悦楽を覚えていた。ギアアーマー。その大きさは、現在自分が使用している物と比べれば小さく見えるが、それでも十分に脅威となる兵器。それに、あの黒のギアスーツが乗り込んだのだ。
これは、化け物に乗り込んだ男同士の決死の殺し合いである。宿敵がギアアーマーの攻撃を超えてくると思えば、今度はこちらの切り札であるギアアーマーと同じカテゴリーで勝負をしようとしている。これほど心震わせ、燃え上がる事などありやしない。
「バリアーのエネルギー……カット」
男はギアアーマーを守る盾を捨てた。内蔵していたバリアーシステム。それに使われるエネルギーを全て、ギアアーマーの砲塔に集中させ始める。バリアーのエネルギーは、粒子砲と比べれば確実に少ないが、放てるだけのエネルギーがあれば男は十分であった。
連続的な使用は考慮されていない。元々、一発撃てば戦場を破壊できる兵器。二発目など考えられているはずがない。だが、宿敵と認めた奴が来るのだ。それ相応の出迎えをしなければ、男の燃え上がる心が収まるはずがなかった。
「来いッ――――来いよォッ!!」
男は子供の頃に別れた友人と再会するように、感動に近い歓声を上げながら引き金を引く。焼き付け始めている砲塔を酷使し、そこからエネルギーの光線を放つ。先程よりも威力は格段に低い。だがそれでいい。
接近するヒューマに男は粒子砲を持って歓迎する。二回目のギアアーマー同士の戦いが今始まる――――
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