第39話:抵抗―Frantic―

 ヒューマの雄叫びが戦艦から海上、そしてある男の元へ届く。男はその声の主を肉眼で確認し、そして盛大に笑い、そしてその名を口にした。


「きたかァッ!! ヒューマ・シナプスッ!!」

「はぁぁぁぁあああああああッ!!」


 全速力で海上を駆け抜けるヒューマは、右腕の大剣、ルベーノを構えその男に刃を向ける。ギアアーマーを運用していた男、赤と黒のカルゴタイプでそれすらも魔改造を施し、剣を大量に肉体から生やしたかのような姿をしているガルトラと呼称されるその機体は、その特攻に応じてかギアアーマーからその肉体を分離させた。そしてまるで魔王のように、その異様な姿でヒューマの刃を受け止めた。

 ガルトラが魔王であれば、ヒューマのブロード・レイドはさながら一人で立ち向かう勇者か。同じようなカラーリングであるのに、そのあり方はあまりにも違う。


「生きていたとはナァッ!!」

「お前が、なぜそんな兵器をッ!」

「スポンサーからの提供ってやつさ! 世界機構の議員のバックアップだからなァッ!!」


 アカルト議員が用意した物であれば、確かにあのような重大機密の兵器を戦場に持ち込む事は容易だろう。軍事的にも世界機構は優位だ。多少の交渉で自分の物にできてもおかしくはない。

 だが、その核となるギアスーツが分離した事によってエネルギーのチャージは終了する。少なくとも、トロイド博士が完成させたギアアーマーはそういうシステムで構築されていた。

 しかし――――


「チャージが、止まらない!?」


 それはあくまで十年前の話であり、尚且つトロイド博士が兵器の運用に際して加えた意図的な欠点であった。ギアスーツをコアにする事で、遠隔操作で悪用されないように付け加えた制限装置。

 もし、ギアアーマー自体にエネルギーのチャージを行えるほどのOSを搭載していると仮定したら不可能ではないのだ。発射の際は、ギアアーマーの支えとしてギアスーツが乗り込まないとならなくても、それまではギアスーツに攻撃を仕掛けてくる敵に対応できる。

 ツバキはそんなギアアーマーの状況を確認し、ホウセンカのブリッジに直結しているマイクを片手に、ブリッジに走って戻りながらもホウセンカに乗艦する全員に指示を出していた。


「ホウセンカに乗艦しているクルー全員に告げる。状況は最悪であるが、私達は抵抗する! そのために、技術者、パイロットを除く戦艦のクルーは全員、操舵ブリッジまでに移動して!」


 ツバキの指示はホウセンカの各所に備え付けてあるスピーカーを介してクルー全員に伝わる。なぜ個室や海賊の拠点である島ではなく、中央の操舵ブリッジなのか。それは単純にヒューマを信頼している事と、一応の保険のためであった。

 この段階に至り、絶体絶命の状況を回避するためには、あのギアアーマーを破壊するか、敵ギアスーツを殺すしかない。だが、もしそれが成功しなかったら。そういう可能性のために、そして最大限の配慮を持ってクルーを一か所に集める。操舵ブリッジはホウセンカの中央にあり、外部に露出こそしているが、極めて外面からの攻撃には対応できるようになっている。個室は外面側にあり、エネルギーの余波に曝されてしまう。だが、操舵ブリッジならば上手くいけば生き残る可能性も出てくる。

 勿論、一番はホウセンカを破壊しようとするあの要因の破壊である。ツバキは息を荒げながらもハッキリとパイロット達に指示する。


『グレイ、ニーアはホウセンカから右方へ進んで、敵戦艦を突破し、ギアアーマーを攻撃! キノナリはホウセンカの中でギアアーマーのエネルギー発射時間の計測を!』

「オーケィ!」

「いくぞ」

「っはい!」


 ギアスーツのデッキで待機していたパイロット達は各々の返事をし、グレイとニーアは海上へ出て、キノナリは計測を始める。

 グレイを先頭にニーアはホウセンカから右方へ突き進む。だがその前にはラフレシアの様な色をしている敵戦艦が待ち構えている。グレイはそのポルポ級戦艦を、手に持つ狙撃銃、ヴァルポ・フォートで戦艦のブリッジを動きながらも狙撃する。

 だがその狙撃に対し、戦艦はその側面に配備されている機関銃で海面を撃ち抜くように反撃をしてきた。狙撃はブリッジに当たったはずだが、攻撃は止まない。


「機械的な反撃……無人艦か」

「中に人がいないという事ですか?」

「そういう事になる。だがむしろ好都合だ」


 グレイは即座に敵戦艦の正体に見切りをつけ狙撃を止める。しばらくすると機関銃での攻撃は止み、まるで虫を待つラフレシアのように沈黙した。

 反撃型のプログラミングがされたのだろう。登録された機体以外の接触、または攻撃をしたら機関銃で応戦をする。もしあの状況で交渉もせずに攻撃を仕掛けたら、それこそホウセンカはハチの巣にされていたのかもしれない。


「テルリ、攻撃するなよ」

『するわけねぇだろ!』

「ニーア。攻撃ポイントを送る。そこへ行って、しばらく待機しろ」

「攻撃はしないんですか?」

「俺が移動するまで待ってくれ。爆発でもされたら俺が死ぬ」


 グレイの指示に納得がいったニーアは了解、と言って送られてきたポイントへ向かうために、別方向へ行くグレイと別れる。グレイのイーゼィスは狙撃機でこそあるが、狙撃に適する重量の確保のためにブースターなどが背部に積まれており、意外であるが高い機動力を有する。グレイがホウセンカにも、自分にも被害が及ばないようにギアアーマーを中心とすると左方へ向かうように動く。

 その間にも砲撃モードでギアアーマーを捉えるニーア。目標物は大きいためにカーソルすらいらないほどだが、しかし嫌な予感がする。


「ヒューマ、さん……」


 ニーアの呼ぶ名を持つ男は、今もなお悪鬼の如き機体と剣の弾きあいを行っていた。ガルトラの両腕部に接続されている、正規仕様のヒートブレイドでルベーノの攻撃を受け止める。一振りに対し二振り。それだけでも厄介であるが、その両手の中にはもう二振りの大剣が握られていた。


「グッ……!?」


 その鉄の盤を無理矢理に剣に仕立て上げたような武器は、ヒューマのルベーノほどの大きさを持つ大剣もどきだ。熱を灯す機構など存在しないが、重量だけでもギアスーツを切り裂くようにされているのだろう。お粗末なそれを剣と呼ぶのは辛いが、それでもヒューマを苦しめる要因である。

 ヒューマを弾き、怯んだその隙にその大剣で攻撃を仕掛けるガルトラ。手数は単純にヒューマの四倍。通常では使いこなすのさえ難しい四刀流を、鉄盤のような剣を交えて行うのだから恐ろしい。


「まだだッ!!」


 だがヒューマだってここで終わるわけにはいかない。たとえどのような卓越した技術の持ち主であっても、戦いにおいてそれはあくまで指標なだけだ。最後まで諦めなければ抵抗できる。

 ヒューマは背部のスラスター、脚部のホバーを上手く使い空中で肉体を強引に動かし、怯んだその態勢のままその大剣を足で受け止める。通常では切り裂かれかねない脚部パーツだがそこには仕込み刃が隠されており、刃の交差の際に展開をしていた。


「そういう物もあったなァッ!!」


 歓喜する男に狂気を感じるヒューマだが、なぜ攻撃を受け止められて喜ぶのか。その疑問は次の瞬間にでも霧散した。

 ガキンっという刃の交差だけでは鳴り響かない音が響く。仕込み刃を折れた。いや、切り裂かれた、か。刃から伝わる大剣の重圧から解放されたヒューマはそれを認識し、ぎりりっと口内から音を出すほど力む。前回の戦いではどうにかなった攻撃さえも破壊された。その状況は絶望的だ。

 だが、まだだ。彼にはまだ手がある。ツバキから託されたブロード・レイドに搭載されている内蔵システムが。


「――――展開ッ!」


 その瞬間、ブロード・レイドの方に位置するパーツがスライドし見えていた円形の物体が露出する。そして胸部に存在する球体状のそれが心臓の鼓動のように瞬き、そしてそこからバイオスフォトンのエネルギーフィールドを形成する。


「バリアーかッ!?」


 流石のガルトラも驚く。当然だ。こればかりは見せてはいない奥の手だったのだから。バリアージェネレーターによって展開されたフィールドは所謂、ブロード・レイドを護るための風の鎧だ。それをほんの少しだけ発生させる。それだけで、ヒューマが態勢を整え直すまでの時間は稼げる。

 どうにかしてガルトラの猛攻を止め、態勢を取り戻したヒューマだったが、キノナリの最悪の通信が入り、戦況は更に過酷となる。


『計測結果……チャージ完了まで、あと五分……』


 その通信はこの海域にいる仲間全員に伝わる。ポイントに到着したグレイは、その通信の最中でも冷静さを忘れずにヴァルポ・フォートを構える。ニーアは焦りを見せながらも砲撃の構えを解かず、ターゲットを睨みつける。

 そして、二方による集中砲撃が始まった。

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