第31話:破壊―Gear Armour―

 時間は数分遡る。ヒューマは海賊の拠点内に潜り込んでいた。ギアスーツ、ブロード・レイドでも通れるサイズの通路が多く、確実にギアスーツの運用を見越して建てられた建物である事が解る。しかし、不気味なのは人が一人もいない事だ。


「子供どころか海賊もいないとはな……」


 索敵モードで反応を調べても生命体の反応は少ない。いるとしてもネズミだったり、そういう小動物ばかりだ。海賊がいれば尋問すれば情報を得られるので、そのつもりであったがいないのであれば計画が狂う。

 考えられるのは、海賊がこの拠点を捨てたという事だが、それでは前線で戦った海賊が一体何なのか。残された者達にしては皆、必死に戦っていた。降伏するという選択肢がないように。


「どちらにせよ――――ん?」


 急がなければ、と言葉が続く前にモニターに反応が出た事に気が付く。複数の人間の生体反応。およそ三十人ほどのその反応は、その反応の大きさからして恐らく子供のものであった。

 ヒューマはその反応の場所へ向かうために加速した。加速しつつも、拠点の内部の暗さに反吐を覚える。こんなところでは子供達もまともに育てきらないだろう。不衛生な場所だ。

 海賊の拠点の居心地の悪さに悪態を吐きつつも、ヒューマはその反応がある部屋の扉の前まで辿り着く。ヒューマは、咄嗟に何かしらの動きで回避できるように警戒心を強め、部屋の扉にノックした。


「ッ!?」


 その音に、確かな反応が聞こえた。息をさっと静める音。まるで気づかれないように、と気配を隠そうと努力するかの如く。動作で音が聞こえたので、手遅れであるのだが。

 そんな事で苦笑を口の中で潜めながら、ヒューマは反応の様子見のために声をかける。


「そこに人はいるか?」


 あくまで優しく、問いかけるように。警戒心を抱かれている現状、少しでも警戒心を溶かせるために。

 反応は、彼らのざわめきであった。少なくとも、海賊とは違うという事は察したらしい。三十人がそれぞれ、どうする? と話し合っている。その問いにどう答えようかと考えているようだが、その反応こそが答えである事に気が付いていないようだ。

 恐らく、そこまでの余裕がないのだろう。それが子供なら尚更だ。

 だがその中で一人、確かにヒューマの問いに答えられる者がいた。


「あなたは、誰?」


 一際警戒心が強く感じる。その凛とした少女の声は、強く何物にも負けない芯があるように感じられた。その彼女の声に、他の反応が収まっていくところを見る限り、彼女がこの子供達のリーダーなのかもしれない。

 扉越しの問いかけに、ヒューマはバイザーを開きつつ肉声で返す。


「ヒューマ・シナプス。ニーア・ネルソンが伝えてくれた、子供達のためにやって来た。目的は君達の救出」

「……ニーア」


 ニーアという言葉を繰り返す少女。対し、その名前に思い当たらないらしい他の子供達の反応。恐らく彼女こそがニーアの語ったマリーという少女なのだろう。ニーアの名前を感慨深く、懐かしむのだから。

 ヒューマはもう一度、こんこんとノックする。


「その名前に思い当たりがあるならば、ここを開けてほしい。彼が喜ぶ」

「ニーアはここにいるの!?」

「いや、君達のために戦ってくれている」


 その言葉に言葉を失う少女の姿が容易に想像できた。事実、その言葉でしばらくの沈黙が続いたのだ。

 だが、ほんの数分でその扉が開かれた。それが彼女達の返答であった。

 開かれたドアの先に武器を持った黒いギアスーツがいた事に驚いた子供達はパニックを起こしかけるが、少女の部屋中に広がる黙って、という声によって皆が皆、動きを止めた。強い少女だ。ニーアが彼女を気に掛ける事も納得がいく。

 ヒューマは武装を解除し、ゆっくりと少女の目の前まで来た。ギアスーツによって身長は明らかにヒューマの方が大きいが、少女の意を決した目と負けじと胸を張る姿は、身長差の中でも精神的に張り合おうとしている。

 少女の外見は髪はボサボサ、肌は土で汚れており、服はボロボロのタンクトップと同じようにボロボロの短パンであった。他の子供達と同じ服装だが、どうにも成長期であるのか、明らかに他の子よりも色々と発達している。


「――――」

「すまん」


 相方の警告に思わず素直に謝ってしまう。緊張するべき場所で変な事を考えかけたヒューマは、我に返り冷静に目の前で明らかな恐怖に挑む少女に声をかける。


「君が、マリー、だね」

「……なんで、私の名前を?」

「ニーアが教えてくれた。彼が教えてくれた情報で君達を助けに来られた」

「……本当?」

「信じるのは難しいだろう。だが、ここで留まっているのは得策ではないと思うが」


 怪訝な表情を浮かべるマリーにヒューマは冷静に提案をする。ニーアがここにいない限り、それを理由に彼女達を救出するのは不可能。だからこそ、あくまで現状の問題定義で彼女達を説得する。


「現在の状況を理解しているか?」

「……知らない。海賊の数が少なくなった事だけは知ってる」

「そうか。恐らく、海賊はこの拠点を捨てた。君達は取り残されたのだ」


 あくまで推測だが、何かしらの要因があってこの拠点を捨てたのだろう。原因としてはやはりニーアがこちらに関わっている事を察し、ニーアが知っているこの場所を捨てたという感じか。そして、子供達を連れて行く事は止めた、というわけだ。

 この状況で彼らの生き死には彼らに委ねられていた。このまま、ここに隠れて飢え死ぬか、それともヒューマに導かれて未知の希望に期待するか。警戒心の強い彼らだから、しばらくは考えると思っていたヒューマであったが少女は消え入るような声で呟く。


「本当に……ニーアがいる、んですよね?」

「あぁ。必ず再開させる。俺と一緒にここから逃げよう」


 不慣れな敬語を出した少女は、ヒューマの言葉にこくんと頷いた。その目尻には涙が溜まっていた。

 少女の決断に子供達は動く者は少なかった。動いたのは四人の少年少女。彼らはヒューマのギアスーツの腕や足にヒシッとしがみ付く。それ以外はまだヒューマに警戒心を抱いていた。当然であるし仕方がない事だろう。ギアスーツ扱う大人に虐げられてきたに違いない。ならば、ヒューマの事もおめおめと信じるわけにはいかないのだ。

 それぐらいは想定していた。それに一回で全員を救出する事は不可能だ。キノナリに通信をし、作戦の成功を伝えて海賊共を追い払わなければならない。

 そう――――考えていた矢先であった。


「――――」

「何ッ!?」


 相方の警告に目を見開くヒューマは咄嗟にバイザーを閉め、彼女が伝えた方角に向かって身構える。同時に両肩の装甲が展開し、そこにあった円形の部品が浮かび上がってくる。


「皆、俺に近づけッ!!」


 その突然の怒声に反応できたのは、いったい何人であっただろうか。それさえも解らぬまま、その無情なる生命を蝕み殺す波は訪れた。

 ヒューマはその波に対してブロード・レイドに内蔵していた、バリアージェネレーターを起動する。肩部と胸部の発生装置を展開し、自分の周りにバイオスフォトンの膜を張る。ホウセンカと同じそのシステムで、その波に対抗しようとする。

 音が掻き消える。この波はバイオスフォトンの波だ。もしくはビームともいうのかもしれない。粒子砲とも言っても過言ではない、それほど強力な波。それにバイオスフォトンの盾で抵抗するのだから、バイオスフォトンの擦り切れる音が聞こえるようだ。

 視界はモニターになったせいでバイオスフォトンしか検知されず、何も見えない。波のせいでジリジリと押されていく。今のヒューマは、断続的続く津波に対抗してサーフボードを盾に立ち続けているようなものだ。バリアーは、受け止めるだけの力はない。それを無理矢理に受け止め流ししているのだから、ヒューマは唇を噛みながらもその攻撃に耐えるしかない。


「――――」

「解ってるッ!!」


 相方のバリアー展開時間の報告に思わずヒューマは怒鳴る。バリアーは通常であれば最大十分しか使えないが、今回は前線を超えてきたせいで五分しか持たない。それ以上、この波が続くのであれば、しがみ付いている子供達共々、ヒューマも死ぬだろう。

 だが、その波は突然にして終わった。先程まで押されていたヒューマはその反応が無くなった事でバリアーの展開が終了する。約三分の掃射。しかし、それだけで十分だったのかもしれない。


「……ッ!?」


 ヒューマが見た風景は、見慣れてしまった今でも痛みを覚える光景だ。死体。死体。死体。子供達の焼き焦げたかのような死体が、たくさんヒューマの周りにあったのだ。

 腐臭も焦げ付けたかのように感じる。皮膚が溶解している物もあるし、顔も判らない物もある。何よりそれが、先程まで生きていた物とは感じられない。

 そして……少女は叫んだ。


「いやぁぁぁぁぁぁぁああああああああッ!?」


 叫びはまるで糸の切れた人形のようにして、消えた。



     ◇◇◇◇



「……博士」

「……あれは」


 ホウセンカでもその波を放った対象を確認できていた。それは奇怪な姿であった。巨大な砲塔があるのは解るが、それ以外は全てタンクであったのだ。タンクの上から配線がごちゃごちゃになって砲塔と、それに組み込まれるようにいるギアスーツに繋がれている。

 その姿は世界的には馴染のない物であったが、十年前、ある部隊で戦っていたホウセンカの一部の人間には認知できていた。

 戦場を破壊する兵器。ある作戦のために造られた切り札。結果的にある女性を殺した呪われた兵器。

 形容される単語としては、対戦場兵器。


「ギア……アーマー」


 理論上、ギアスーツの上位互換であるとされるが、未だに使用の運びに至っていない兵器がそこにいた。



     ◇◇◇◇



「照射時間、およそ四分か。ポンコツの割には使えるじゃないか」


 赤黒いギアスーツでそのギアアーマーを扱った男は、悪態を吐きながらもその性能に満足していた。四分でも放たれた先の生命は死ぬ。バイオスフォトンはそれほどの危険性を秘めている。

 海賊から提供されたそれに満足した男は、戦闘をしている部隊に撤退の通信を出し、バイザーを開けつつ煙草を吸う。煙が空に舞う。燃え落ちたカスが海の中に沈み霧散する。


「これはいい兵器だ。あの男と戦うにはうってつけだな」


 男は黒いギアスーツ――――RRの系譜であるあの機体の主を思いだし、ぐふふと笑った。その異形なる破壊の兵器は、ただただそこに存在した。

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