第24話:近接戦闘適正―Sense―

 再び海上へ戻ったニーアであったが、今度手渡されたのはいつも使用している二振りのヒートソードであった。しかし、ディスプレイはそれをヒートソードと認識せず、代わりに演習用ソードというニーアが見た事もない表示をしていた。

 困惑しているニーアに、大型のヒートブレイドを外して海上までやってきたヒューマはヘルメットの中で微笑んだ。


「軍の演習用のヒートソードもどきだ。点火機能もないし、装甲を切り裂けるほどの威力もない。多少軽いだろうが、使うには違和感がないはずだ」

「これでどうするんですか?」

「俺と戦う」


 そう言ってヒューマは二振りのヒートソードもどきを構えた。どうにも慣れていないらしく、必ずしもその姿が似合っているとは言えないが、あの使い辛い大型のヒートブレイドで当て辛いであろうギアスーツを切り裂ける実力の持ち主だ。ニーアはそこに油断を持たずに、小さく意識的に息を吐いた。


「カルゴのOSにも決闘モードがインストールされているはずだ。それを起動すれば、OSが自動的に判断し、殺し合いに近い演習が行える」

「それをこの紛い物でやる、と?」

「そうだ。それで俺に勝ってみろ」


 軽い挑発だ。ニーアだってそれは理解しているし、ヒューマがあの武器に慣れていないのは解る。だがそれは舐めているのではなく、ニーアに勝機を作っているのだ。

 ニーアに近接戦闘の、特にヒートソードの適性があるのならばあのヒューマにも一矢報いる事が出来るはずなのだ。ヒューマのその挑戦状に、ニーアは応えるためにカルゴのOSに決闘モードを音声認識で検索させ発動させた。

 ディスプレイにはいつもの戦闘時のターゲットロックなどがあるが、その右横に身体のラインが描かれ、至る所に数値のメーターがある。体力ゲージ、もしくは装甲ゲージというべきか。これを削り取られたら負けらしい。


「お互いの武器が壊れる、もしくは無くなった場合は引き分け。戦闘時間は十分間。その間に相手の装甲ゲージを削り取り、そこに一打を与えれば勝ちだ。こっちはオリジナル機でそっちは量産機。性能差はあるが、こっちは幾らかハンデを負っているし内蔵武器などは使うつもりはない」

「正々堂々、になるように祈りますよ」

「そこは信頼してくれ。それでは、三十メートル離れてから決闘を開始する」


 そう言ってヒューマが後方へ下がったので、ニーアも下がった。ディスプレイに映る相手の距離のメーターが三十メートル前後になったところでストップし、そして決闘モードに常設されたタイマーが十秒を映し出した。

 レイン・カザフとの戦闘で決闘を行ったが、あの時は負けてしまった。だが、今回は違う。あの決闘に意味はなかったがこの決闘には、ヒューマに認めてもらうという大切な意味がある。

 その時、肉声が聞こえないはずのヒューマの声がヘルメットのスピーカーから聞こえた。


「いくぞ? ヒューマ・シナプス、ブロード・レイド――――」


 それは、ヒューマがニーアと相対して敵対するという姿勢の表れであった。ここから先は容赦しないぞ、という意志の表れでもある。

 これは遊びではない。殺し合いでもない。決闘。その意味を理解したニーアは、カウントダウンが始まった瞬間に、その通信に応答した。


「ニーア・ネルソン、カルゴ――――」


 その声を聞いたヒューマは、ふっと笑った気がした。その息の流れをニーアは確信を得ないまま感じた。

 カウントダウンが終わる。ゼロを表示するその瞬間、お互いはお互いの意気込みを発し前に出た。


「――――演習を開始するッ!!」

「――――行きますッ!!」



     ◇◇◇◇



 海面に飛沫を飛ばすほどに勢いよく駆け出したニーアとヒューマ。持ち手の武器は互角の性能。機体の性能差はあれど、ヒューマは慣れない武器を慣れない重心で使用し、ニーアは使い慣れた武器を使い慣れた二刀流で挑む。

 文字にした条件では互角か。ならば、そこから先は未知数であり、使用者の経験とセンスが問われる。

 お互いがお互いの攻撃範囲に入る。一歩進み斬りつければ装甲に攻撃が当たる範囲まで近づき、ヒューマとニーアは剣を打ち合う。


「たぁぁぁあああああッ!!」


 最初に攻め込んだのはニーアであった。慣れ親しんだ武装、その紛い物であっても使い慣れないヒューマよりも先に攻撃を仕掛けるのは必然か。勢いのまま、無謀に、されど無垢に振り被ったその右手の剣による一撃。

 だが――――


「ッ!!」


 ガキン、という金属音が鳴り響く。割れていない。だが受け止められた。いや、受け流された。

 そうニーアが知覚したように、ヒューマはそのニーアの斬撃を同じく右手の剣で受け流していた。ニーアが斜めに大きく振りかぶったに対し、ヒューマはそれを裏拳を繰り出す要領で弾いたのだ。勢いのある攻撃を受け流すために、パワーローダーの反動制御を一瞬のうちに調整したのか。明らかな機体知識の差が、ニーアの攻撃を受け流すために使われた。

 弾かれた斬撃。開かれたニーアの懐。その瞬間を狙わないほどヒューマは甘くない。


「今――――ッ!!」


 左手に持つ剣を矛にし、ニーアの懐へ槍の如く貫こうとする。装甲は破れない一撃だが、確実にこの一撃を喰らえば決闘モードの審判はヒューマを勝者とするだろう。

 幾戦のも戦いをこなしてきたヒューマ。対し、真っ当な戦いはまだ数回であるニーア。経験と技術は圧倒的にヒューマが勝るだろう。それだけを感じれば、その一撃を受け止める事はニーアにはできない。

 だが――――ニーアには本人も無意識で使用している、ヒューマにも勝るとも劣らない絶対的な物がある。


「――――ッ!!」


 それは感性センス。無意識だが確かにある、異常的な閃き。その瞬間的な判断能力。何より、現時点で戦う意志を見い出せたから生まれる、負けたくないという強い意志が彼に行動を起こさせる。

 ギアスーツを浮かせるホバー。それを左脚後方、片方だけを強めたのだ。攻撃を弾かれて体勢を崩し、後方へ倒れかけるその最中、その勢いを無視するのではなく、逆らわずに自然に左脚が上がるように崩れる。

 そしてその左脚は、その貫こうとしたヒューマの左手の剣を受け止めるように動いたのだ。ニーアはそこまでは想定していない。だが、そうなる可能性へと動くために判断したに過ぎない。

 ダメージを与えたのは、懐ではなく、ニーアの左足の装甲。しかも、判定としては踵であり、通常の装甲よりも丈夫に作られているそこへのダメージは少ない。

 通常ならば貫ける可能性のある攻撃だが、模造刀のために貫かずに攻撃は受け止められる。その瞬間をニーアは見逃すわけにはいかなかった。


「――――ダァッ!!」


 攻撃が止まった瞬間、ニーアは背部のウィングスラスターの噴射を強め海面を焼く。同時に、左足のホバーを今度は降ろすように強めた。二つの噴射口から生まれる動きは、疑似的な踵落としというべきか。空中制御を担った反撃。体勢を整えながら、足だけは止まってしまった剣を海中へ叩き落とすために、踏むように体重をかける。

 その行動にヒューマは驚きを覚えてはいたが、動揺はしていなかった。そうするとは考えていなかった。だが、あの攻撃をどうにかするという期待をしていたのだから、彼はそれに応えたに過ぎない。

 だから、ここで負けるわけにはいかない。ここでこのままニーアの攻撃で体勢を崩してしまえば、ニーアはヒューマの背中を斬るのだろう。それでは面白くない。


「ここで終わるのは惜しいな」


 ヒューマは思わず言葉を漏らした。彼とて、傭兵である前に男なのだ。負けたくはないし、それに目の前で想像以上の動きをした少年の戦闘感性バトルセンスをもっと、もっと味わいたい。

 だから多少の被害など目にもしない。見事に決まる踵落とし。だがその剣の持ち手はもういなかった。手放した。剣を失う事に何も思わず、厭わずに。力点を失った剣はニーアの叩きつける攻撃に成す術もなく海中へ落ち込んだ。

 剣を失ったヒューマ。だがニーアの攻撃は止まらない。止まるわけがない。相手が不利になり、何より左足を下に勢いよく降ろし、背部のスラスターで浮上した今。ヒューマよりも上をとったこの瞬間を、逃すわけにはいかない。


「い――――けぇッ!!」


 弾かれた右手の剣で再び縦に大きく振りかぶる。背部のスラスターの向きを変え、海面ではなく空を焼くように向く。地球の重力、そして空を焼く大気を震わせるエネルギーの余波の恩恵を受け、ニーアはヒューマの胸部を狙う。

 そして次の瞬間、たった数分しか経っていないこの激闘は、一撃によって勝敗を分けたのであった。

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