青ヒヨコ
ミジンコは一人発つ前の晩に、
ケルンルナによると、彼が
早朝から馬を飛ばし、幾らか草の丈高くなるあたりで持参した弁当を食べた。関所の守将が、料理官にこれを用意させたのだった。馬には缶詰や干し肉も幾日分か積んでくれた。
青ヒヨコの群れは見なかったが、まだ雪の強くなる昼過ぎに、一人の男に会った。馬の
「貴殿! 待たれよ」
男は返事もなく馬を止め、
「貴殿、以前私に会わなかったか? バックラー郡の宿で……メラ乃宝石館をお
「さあ……私は貴公に会った覚えはないがな?」
ミジンコは、男の顔までは思い出せなかった。
「では、同じ家に仕える者なのか?」
「我らの仲間は確かに色々な所で雇われているがな。家主は有力な貴族だ。貴公の会った男は仲間の一人かも知れん。皆こんな格好をしている」男は外套の端を上げてそう言った。宝飾された剣の
「では貴殿の仲間をつい先日もこの先の関所で見たな。一体何をしている者だ? 何か、魔術とか錬金術とか、力を持った者に私には見えるのだが」
「まず我々は今、とにかく忙しい。とは言える。それから、ふうむ。確かに何らか力を持った者であるとも言える。しかしたとえば、貴公の力になれるような力だよ。そう……私からすると貴公は、何かを探している者とか、何かを引きずっている者とか、どうにも矛盾したと言うか、引き裂かれた者のように見えるぞ。その引き裂かれたところから、何か恐ろしいものを引き出してしまわぬように気をつけることだ」
「貴殿は、占い師の類か?」
男は何も言わずミジンコと反対の方へ馬を馳せて行ってしまった。立ち止まって話す間に、外套にも雪が積もっていた。
日が暮れ始める頃には、周りに樹木が増えてきて、森の入り口に差し掛かっていることを示していた。気温は山に近づいて一層低くなった。雪に当たらず野宿できる場所を探すうちに、ミジンコは、ケルンルナの話した青ヒヨコの一群れを見たのだった。確かに真っ青な
「しまったな。ともかく、いたのだ。彼らがこの森を通るのは安全なからだろうか。確かに、この森は小さな昆虫がいるだけで動物の気配は少ない」
ミジンコが立ち止まっているとまたすぐに、脇の木の根元を、青いヒヨコの群れが通って行った。
「まただ。さきのとは違う群れだ。これは数がだいぶ多い」
今度は距離が近く、ほとんど足元だった。ヒヨコ達は人間に驚くこともなく、ひょこひょこと、木の根を登ったりくぐったりして進んで行った。頭にかぶる卵の殻が薄く発光し、仄かに青い粉のようなものを振りまいていた。そのおかげで、ある程度の距離なら群れを見失うことがなかった。ミジンコは青ヒヨコを追って、完全に森へと入った。雪はここでもだいぶ積もっていたが、樹木のおかげで激しく降り注ぐようではなかった。木の間隔が狭まり密になってきたので、ミジンコは馬を下りた。夜になってしばらく歩くと、ヒヨコ達はにわかに散らばり、根っこの下や茂みの中へ潜ってしまった。
「どうしたろう? 何か起こったのか」
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