第26話 あまりにも遅い後悔


 アゾロイドが退却を始めた。…そんな一報が入った時、マサツグとマサキは様々な部署に足を運んで現状報告を聞いていた。そしてすぐに浮かんだのはトウヤの傷付いた後ろ姿。


 マサツグはフロアから見える広い窓辺へと歩いて行き、眼下を見下ろしながら呟く。


「…終わったのか。だがダスト達は――」


 そんなマサツグの呟き声を聴いて、傍に居た部下の一人が苦い顔をして報告して来る。


「下層は見る影も無いと聞きました。多くのダストが下層へ投入されたとも。…トウヤ様の事は、その――。トウヤ様は上位のダストです。ですからきっと――」


 どうにか慰めようとしてくれる部下の様子に、マサツグは寂しげに笑いながら「そうだな」としか返せなかった。どうしても胸騒ぎを鎮める事が出来なかった。嫌な予感がする。


 気のせいだ。そう思いたいのに出来ない。それにあの息子の事だ。おそらくは――。


「あいつは昔から不器用だったからな。もっと簡単な方法を選べばいいのに、何故かそれが出来ない。面倒な方法を選んでは行き詰まる。その繰り返しだ。だからこそ私には――」


 そんな息子が眩しくして仕方なかった。他人を出し抜けない。真っ直ぐな遣り方を選んで生きる息子が眩しかった。そんな息子だからこそ、この場所は相応しくないと思ったのだ。息子にはもっと相応しい場所がある。…そう感じたからこそマサキを後継者に選んだ。


 しかし今となっては、果たしてその選択が良かったのか悪かったのか。


 どれだけ悩んでも時すでに遅い。何もかも過ぎた話だ。しかしと、マサツグは後悔する。


「あれほどにも弱々しく、小さかったのだな。もっと私が歩み寄っていれば、或いは――」


 それだけが心残りだった。傷付いた体で現れたトウヤは記憶の中にある以上に小さくて、今にも消えそうなほど儚かった。あんなにも小さかったなんて。…あんなにもトウヤは。


「いつでも帰って来なさい。そんな言葉すら掛けてやれなんだ。ただ見送る事しか――」


 既に意味を為さない後悔ばかりが胸を突く。何一つしてやれなかった。余りにも遅すぎる後悔を心に秘めて、マサツグは仕事へと戻って行く。まだ自分にはすべき事がある。


 それだけを心の拠り所にして、マサツグは窓辺に背を向けて一人歩いて行くのだった。

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