interval「刺客たちの午後」

「──お疲れ、クロイツ」


 クロイツは足を止めて振り向いた。

 がらんとした館内に、今の声の出所を捜せば、人けない午後の窓辺に、少し猫背のあの姿があった。


 壁にもたれ、くわえ煙草でながめている。

 人目を引く赤い髪、それと同じ赤褐色の瞳、黒の上下を身にまとい、中の白シャツは着崩している。

 その薄い唇が、笑みの形に吊りあがる。


「" あっち " は確保できたらしいな」


 どうやら、帰りを待っていたらしい。

 クロイツは淡々と応えた。


「どうしたわけか、ガーディアンが出張っていて、大した手間でもなかったがな。もっとも、街で暴動が起きかけたが」

「へえ、住人と遊民の?」


 肩をゆすって、赤髪の男はくつくつ笑う。


「やるじゃん、クロイツ。そんな質の悪りィもん、よくも一人で収めたな」

「俺じゃない。クレストの所の細君だ。遊民にやたらと信頼されている。あんなものがしゃしゃり出てくるとは、まさか俺も思わなかったが」

「──へえ」


 煙草の灰を床に落として、赤髪の男は気のない口振り。

 だが、今、彼は小さく微笑ったろうか。

 蔑みなのか哀れみなのか、相槌を打つ声音には、愉しげな響きが混じっている。

 

 クロイツは旅装の懐をまさぐって、嗜好品を取りだした。

 煙草をくわえて点火する。

 

 午後の娼家の日溜りに、紫煙が気だるく立ち昇った。


 昼食時をいく分すぎた正午すぎ、館内は閑散と寝静まっている。

 ここ商都の大抵の宿は、一階が飲食店を兼ねており、こうした娼家も例外ではない。

 そして、本業が始まる夕刻までの狭間の時間、店は一時、休業となる。

 西日を浴びたカウンターをながめやり、クロイツは淡々と紫煙を吐く。


「クレストの領主もやるものだ。貴族や大商人の娘ではなく、気安い使用人あがりを正妻に据えて、癖のある遊民の支持を取りつけるとは」


 煙草の端をくわえ直して、赤髪の男は口端で微笑った。


「──いや、そんなご大そうな動機もんじゃねえと思うぞ」

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