第4話

(……見つけた!)


右斜め前に一歩踏み込んだ位置。

そこにマウスカーソルを当てると、マジシャンの輪郭が薄く浮かび上がる。


(獲った――!)


袈裟懸けに斬りつけるスキル「スラッシュ」を発動したカナタの片手剣は、このままマジシャンをローブごと切り裂くはずだ。

マジシャンを討ち取れば、3対3だ。

グロウもゲンキも腕が立つプレイヤーである。後はどうとでもなるだろう。


そこまで考えたところで。

金属同士がぶつかる様な甲高い音が発生した。


(え……?)


カナタの剣が”何か”に弾かれると同時に「ブラックミスト」の効果時間が終了し、黒い霧が晴れていく。

そして見えたのは、ゆっくりと消えゆく大きな盾。

どうやらその盾がカナタの攻撃を防いだようだ。


(……ッ!)


そこでカナタは失態に気付く。

「サモンシールド」。

近距離から中距離までの好きな位置に物理攻撃を一度だけ防ぐ盾を召喚するスキル。

このスキルで召喚された盾は一度だけならどんな威力の高い物理攻撃でも防ぐことができる。また「ブラックミスト」と同様に「共通スキル」である為どのスキル構成や装備でも使用することができる。

これらの大きな利点があるスキルだがその分デメリットもでかく、発動前の隙と発動後の硬直がとにかく長いという特徴がある。

このスキルで召喚された盾によって、カナタの攻撃は防がれたのだ。


さて、「サモンシールド」を使用した敵だが、果たしてカナタが上空から迫ってくるということを見破ってマジシャンの前に盾を配置したのだろうか。

勿論その可能性もあるが、カナタを見失った理由を単に「カナタが霧の視界の悪さに乗じてソードマン二人の横を通りすぎてマジシャンの居る位置に向かおうとしたから」だと判断した可能性も大いにあり得る。

だが、いずれにせよマジシャンを守るために盾を召喚した敵のプレイヤーは英断だったといえるだろう。

前述のデメリット故に戦場で「サモンシールド」が使われているのを見ることは少なく、カナタは考慮に入れていなかった。

しかし現にこうして使用された以上、カナタの攻撃が防がれたのはその可能性を考えられなかったカナタの失態というべきだろう。


(――ちっくしょぉぉおお!!)


マジシャンの詠唱が終了する。

それと同時に、周囲一帯が眩い光に包まれた。



◇◇◇


「あー、くそぉ。やっぱあの時マジシャン倒せてればなぁ」


進吾は夢中になるあまり前傾姿勢だったのを直し、椅子の背にもたれかかった。

戦闘時間が終了したのだ。

結局、マジシャンの魔法スキルにより三人が全滅して復帰した後も、あまり芳しい戦果は残せなかった。


進吾がプレイしていた戦場のルールは、二つのチームに分かれチームでのキル数を競い合うというもの。

ディスプレイに表示されている戦闘結果画面は、進吾の所属していたチームが敗北したことを示している。


『さて、この悔しさをバネに次も頑張ってこうじゃないか』


ゲンキから次の戦場への誘いのチャットが飛んできた。

進吾は机に置いてある時計をちらりと見る。

時計の短針は「11」を指していた。


「『いや、もうそれなりにいい時間だから寝ることにするよ』……と」


チャットに返信し、ゲンキやグロウ、その他仲の良いプレイヤーに就寝の挨拶を交わした後、進吾はベッドに身を横たえた。


その夜は、思いの外敗北の悔しさが強かったのか、あまり寝付けなかった。

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