第七章 アミー 6
6 人類の未来
(1)他種族との融和
「近年においては発展途上種族の著しき発展と星間交流の増大、さらには多様な分離個体の形成技術の普及を受けて、個体群種族の長所も見直されつつあり」
「かかる見直しの背景にはまず、旧帝国時代の融合体至上主義が、さながら惑星文明における全体主義の如く、集権的統治への安住と過信から腐敗と格差、権威主義や集団的利己主義を生み出し、変化への対応や持続的発展を損ないしことへの、反省の気運が存在せん」
「また、そもそも融合体と個体群の間には、相互補完の関係も存在せり。その関係は、惑星文明の情報段階における都市住民と非都市地域住民、あるいは制度的・伝統的な保護・拘束の強き年長世代と、より自由度の高き若年世代の関係に類似せり。融合体が知的種族に高度情報処理能力・社会的信用や人工的環境下の安全性、活動規模の融通性を提供する一方、個体群はそれらに過度に依存せざる活動能力や、現実環境への新たな適応可能性、多数の個体による拡散性や生残性を有せり」
「以上の如き個体群種族の利点を星間社会の全種族に提供すべく、個体形成技術の再評価と普及を進めし者は、永らく個体群種族の支援を行い来たるサタンと、個体群種族としては最高度の発展を極めたるマルコシアスなり。サタンは、途上種族を自ら赴きて支援すべく考案せる各種個体の設計を、分離個体や環境適応個体として他種族にも供与せり。マルコシアスは先述の如く、有為な資質の恩恵を全種族で共有すべく〝生体情報開発普及機構〟を設立せり。〝種族間親和文明〟の実現を目指す彼女達の努力は、かかる〝新型個体〟形成技術の普及によりても、賢明なる種族融合体と活力ある個体群種族を結びつけ、さらにはその他の種族間障壁をも次々と解体しつつあり。その潮流は、近年の地球においても明らかならん」
「
「ゴモリーは絶滅したる指導種族ラジエルへの敬意から、その美しさと触手の如き動作能力を残す銀髪を、自らの基本形態に加えたる種族として有名なり。然しその決定は、決して旧帝国文化への固執を意味するものには非ず。
「彼女が今回サタンの形態を使用せる背景には、かつての敵の技術といえども良きものは偏見に囚われることなく採用せしむべく、旧帝国系の同胞種族を啓発する意図がありたらん。彼女はまた、〝融合体蜂起事件〟における別働艦隊への説得の成功を受けて、旧帝国系の融合体に対し、自由・民主・平和及び人道主義の普及を促すべく、発展途上種族への支援活動のために一定比率の分離個体派出を求める計画を立案せり。現在新帝国内に普及しつつある多様な分離個体の形成技術は、かかる啓発事業の実施にも活用し得るものと期待せられたり」
「ベールにとりてもまた、この出場は格別なる意味を有せり。彼女は液化気体惑星において、浮遊藻類の集合体が巨大なる生物可住領域を形成し、体内において多数の生物種を進化せしめたる後、数種類の知的生物種に対し、情報共有が可能となる神経接続を提供することによりて融合せる、いわば〝天然の種族融合体〟なり。この特性は〝外周星域戦争〟初期の優勢に見られたるが如く、個体群種族には考え得ざる水準の知性と社会的統合を彼女に提供せり。然し、他方でこの有機的結合は、共生体を維持すべき物理的・心理的必要性から、小惑星規模の宇宙船に依らざれば長期間の惑星外活動を困難とし、文明発展に伴う社会の分権化にも不利となる弱点を有せり」
「これを知りたるサタンは、〝大戦〟における彼女の新帝国陣営参加に対する感謝と信頼の証として、外周星域種族に量子頭脳への人格移転及び分離個体形成の技術を提供せり。これによりベール達外周種族の本体及び共生種族は、一定の順応期間を経れば、極めて小型の分離体及び個体・個体群による独立活動も行うことが可能となりたり」
「この能力は星間活動における彼女の利便性及び共生種族の独立性を向上せしめ、外周星域全体の発展を促進せり。またその利点は、〝大戦〟後のゴモリー達との種族間交流はもとより、〝アンドロメダ戦役〟における燃料惑星の効率的運用や〝内乱未遂事件〟における外縁領域への潜入捜査においても、彼女の新帝国に対する貢献を一段と増大せしめたり。さらに、彼女達への無理なき人工融合体化の技術は、人類を初めとする途上種族の部分的融合において、予め量子頭脳内に全個体の人格を複写したる後に随時更新を行い、自然個体の寿命を全うせし者から頭脳内人格を活性化するという手法にも応用せられたり」
「〝大戦〟終結後、サタンはベール達に対し、酸素・炭素系種族型の分離個体の形成技術をも提供せり。この技術提供は、既に同種の技術を有するストラスと同様、従来は酸素・炭素系種族との接触時に映像体や遠隔操作体を使用せる外周星域種族にとりても、かかる生物学的障壁を撤廃する意義を有せり」
「先述の如く、汝等人類は部分的種族融合に続きて複合分離体の形成をも達成し、さらには各種分離個体の形成技術をも習得して、急速に他種族との技術的・文化的
「
「然し、そもそも軍事種族が統治せる旧帝国においては、
「これに対してサタンの肉質の翼は、旧帝国の慣行に従い、宇宙船内の重力制御環境下にて用いるべく、最小限の遺伝子操作によりて造られし質素なものなり。地上においても、彼女は
「近年これらの特性は、彼女による多様な環境への適応実績とも合
(2)建設的な競争
「現在オリオン腕の内側宙域においては、〝三種族複合体〟の構成員が、各々の母星系の位置に応じて文明発展上の役割を分担せり。即ち、〝
「今や人類は、部分的種族融合や種族間融合体への参加に加え、様々なる環境適応個体の形成等の技術をも活用し、宙域において重要なる役割を果たすに至れり。〝大戦〟以前には〝地を統べるもの〟、即ち惑星上文明の段階にありし人類が、その優秀なる資質を実証し、自らの信ずるところに従いつつ、かくも大いなる躍進を遂げたることにつき、我は他の理事種族と喜びを共にするところなり」
「然し、新国家内における各種の〝協調的競争〟を促す〝多層均衡政策〟が、本宙域においても適用さるべきことは言を待たず。近年における〝五種族複合体〟、別名〝
「同複合体は周知の如く、当地の文明開発においては〝三種族複合体〟のいわば
「かつてサタンは地球文明支援活動の初期において、アザゼル、シェミハザ、サマエル及びマステマをこの活動に参加せしめたり。これは、文明開発計画の対象種族が先進種族となる前に後続種族への支援業務を経験せしめることにより、彼女達がより良き先進種族となることを期待して為されし配慮なり。然し彼女達は、当時開発途上星域にも侵入せる文明水準至上主義や人道軽視等、旧帝国の悪しき文化風土に影響され、極めて遺憾なる失敗を招来せり」
「アザゼルは遺伝子工学に長じたる種族なりしが、自らの資質を独断にて一部の人類に過剰に与えたる結果、彼女達は人類同胞を家畜の如く支配するに至り、支援計画は中断せり。彼女達はサタンによりて新種族と認定され、リリスと命名されて、他の星系に移住せしめられたり」
「アザゼルの後任者シェミハザは、機械工学の発達せる種族なり。彼女は機械種族を創造して二つの惑星に植民せしめ、サマエル及びマステマと命名せり。サマエルは民生事業、マステマは軍事活動においてシェミハザに協力せり。シェミハザは両者の個体群を人類に装いて派遣し、その発展を支援せり。然しこれらの三種族による、技術支援と経済援助に傾きて社会性の向上を軽視せる支援方針は、人口爆発後の自然災害による大量死から、文明の衰退を招きたり」
「サタンは汝等の祖先から悲劇の記憶を除かんと望みたるも、その教訓を残すべき必要性も存在し、また事件の印象は余りにも強烈なりき。アザゼル及びシェミハザは、人類を助けんとして失敗せる天使達グリゴリの指導者として記憶せられたり。混血によりて人類の資質を高めるべく創られしリリスは、後に人間アダムの妻の座を追われて魔王の妻となりし悪魔リリス、あるいは人類の教化に失敗せる天使達の子
「サタンはかかる結果を生じたることを深く悔いて、彼女達と共に徹底的なる原因の分析及び計画の改善を行いたり。この措置は成功を収め、その教訓は以後の支援活動に生かされしのみならず、五つの種族にも他種族の生命と尊厳の重視を
「先般リリスを中心とせる〝五種族複合体〟は、彼女の人類に対する指導種族たる地位の確認を求め、宙域裁判所に訴訟を提起せり。人類は新帝国との接触に際し、既にこの姉妹種族に関する情報を提供されたるも、かくも
「そもそも現在においては、旧帝国時代の如き指導種族の支配的地位は認められず、かかる主張は実益なきばかりか、逆に彼女が人類の分岐種族なりとして反訴を提起されし場合には、正反対の判決が為される恐れもありしところなり。また後日の報道によれば、五種族及びその複合体が、出訴の時点において既に惑星駆動機関の設置を承認され、先進種族への加入を果たして、旧中心星域への移住と開発参加を決定済みなりしことが判明せり」
「故に現在では、彼女達は過去に苦難を与えたる人類に対する償いとして、その活動地盤たる宙域を、関係種族の反対を抑えたる上で引き継がしむべく、あえて勝算のなき訴えを提起したるものとする見方が一般的なり。この推測は、彼女達が地球侵略の危機をその解決後に知りて後、〝
「先頃、汝等人類もまた銀河系外周星域より惑星駆動機関一式を購入し、防衛・外交・産業上の選択肢を拡大せり。現在の最先進種族認定基準によれば、融合体と個体群の協調あらば完全融合化を要さず、また自星系外における他種族との協働を以て植民に代えることが可能なり。故にこのことは、唯一つ残る惑星移動能力という条件を満たすことにより、人類が遂に、最も若き最先進種族の一員たる地位を獲得したることを意味せり」
「今や全ての種族間障壁を解消しつつある新国家において、中央星域と外周星域を結ぶ宙域に位置し、理事種族との強き絆を有し、融合体の知性と個体群の活力を以て、旧帝国時代からの先進種族やアンドロメダ銀河の種族とも建設的競争を為し得る汝等の可能性は、無限なり。然し汝等は、かつてサタンが、汝等を初めとする発展途上種族の健全なる発展のためにこそ、〝全種族のための文明発展〟を提唱し、帝国史上最悪の反逆者として討たれる危険を冒してまでも、現在に至る道を選択せしことを忘れるべからず。旧帝国種族と融合せるアモンや外周星域に帰化せるアドラメレク、アンドロメダ銀河に移住せる旧帝国系種族ゴモリーもまた、その理念に賛同して同じ道を採りしことを忘れるべからず」
「銀河系において
Lucifer( ルシファー ) 平 一 @tairahajime
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます