赤顔酒会

「なんで追い返したんだよ」

 中学生の話を聞いたひとねは、すぐに中学生を家に帰した。

「あの子の言っていた怪奇現象はすでに別の人から依頼されている」

「……なるほど」

 ひとねは目を閉じ、立てた指をくるくると回しながら説明を始めた。

「人にて人ならず、鳥にて鳥ならず、犬にて犬ならず、足手は人、かしらは犬、左右に羽根はえ、飛び歩くもの」

「……いきなり何?」

「平家物語の一文だよ、さて今の妖怪は何でしょう」

 顔が犬で手足が人……?

「……アヌビス?」

「妖怪だと言っただろう、バカか」

 ひとねは溜息をついて机の上にあった書物を俺に投げる。

「七十六ページだ」

「ああ……なるほど」

 開いたページに載っていたのは誰もが知る有名な妖怪。

 赤ら顔でおごり高ぶる慢心の権化……天狗だった。


 *

 

 酒を飲むと天狗になる……か。

「妖怪になるってのは天狗になるって事か、比喩じゃなく?」

「そうだね。赤顔酒会と呼ばれているらしい」

「赤顔酒会?」

「一部で噂になっているらしいよ」

「へえ……って、何処行くんだ?」

 扉に向かったひとねは振り返り、不思議そうな顔をして言う。

「いつもの確認だよ、本当に天狗なのか確かめに行くのさ」

「そりゃあ大変な事で、では頑張……」

「なにをしているんだ、君も行くんだよ」

「…………」

 ですよね。

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