低級なる自己像幻視

「自己像幻視」

「なんだまた唐突に」

「さっき言った今回の依頼の内容だよ」

 電車での移動中、ひとねはまた唐突に切り出した。

「簡単に言ってしまえばドッペルゲンガーだ」

「ドッペルゲンガー?」

 確かもう一人の自分を見る現象だったよな……

「ドッペルゲンガーにも色々あってね、今回のドッペルゲンガーは『ぺんたちころおやし』という妖怪が引き起こした物と、私は予測しているよ」

「それは……厄介なのか?」

 ひとねは首を横に振る。

「ドッペルゲンガーとしても妖怪としても低級だね、対処も簡単だ」

「え?」

「目の前に現れたドッペルゲンガーに質問をするんだ。彼らは記憶までは真似できない、その矛盾を指摘してやるんだ」

 つまりは……

「自分が本物だという事を証明すればいいのか?」

「まあ、そういう事だね」

「なら……」

 俺の言葉にかぶせるようにひとねが声を出す

「ならば、私がわざわざ行く必要は無いのではないか。そう言いたいのだろう?」

「……まあ、そうだけどさ」

 そこまで「わざわざ」を強調しなくてもいいんじゃ……

 俺が小さくため息をつくと、ひとねは俺の肩を勝手に支えにしながら立ち上がった。

「さ、ここで降りるよ」

「ちょ、荷物降ろさなきゃ」

「早くしないと置いていくぞ」

 そう言ってひとねはずんずんと歩いていく。足取りは以前より軽くはなったが……

「うわっと……危ない」

 何もないところでつまづく頻度はまだ多い。

「早くしないと置いていくぞ」

 何事も無かったかのように姿勢を戻したひとねがそう言って進んでいく。

「……はあ」

 全く、自分勝手なものだ。

 俺はまた小さくため息をついた。

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