第54話
――――
――
「え……?」
急に周囲が真っ暗になりましたわ。一体なにが起こっているんですの?
演奏だけは今もなお聞こえているのですが……。
「――やぁっと見つけた」
「!?」
当惑しているわたくしの目の前にいきなり白く光り輝く巨大な穴が出現しましたの。
「やあ、ごきげんよう。クソ女神サマ」
「は? 女神……? あ、あなたは誰です――ぐっ!!」
そのホワイトホールから伸びた血だらけの手がわたくしの喉を掴んできましたわ。
ハッキリしているのは、これはワーストとは違う存在だということですの。
「げほッ!! ぐがッ」
なんて力! く、苦しいですの……。
「六年ぶりだね。女神サマ。停止した世界に残された気持ちはどうだったかな?」
「意味が、わかりません、の……! て、手を離して、くださいまし」
妙な電子音の混ざった耳障りな声。性別不明のそれはわたくしに向かって忌々しげに続けますの。
「なぁに? そのふざけた喋り方は。幼少時代だからか? それとも、こんなガキの頃から私たちの目を欺くために羊の皮を着ていたのか?」
この方、何を言ってるのかまったくワケがわかりませんわ。
ますます力が強くなる手を振り解けずに意識が朦朧としているわたくしに、
「何度も何度も何度も何度も繰り返し、ようやくたった一度だけ奪えた左手……絶対にあんただけは逃がさない」
呪いの言葉を吐きつつ白いホールからもう一本の手――腐敗した左手が伸び、わたくしの額にあてがわれましたの。
「うっ!」
あ、頭の中がグチャグチャとスプーンでかき回されるような。
「……あなた、一体なにをするつもり!?」
「やり直すのさ。あんたに奪われた私とあの子の世界を、取り戻す」
「!?」
そんな馬鹿な。ま、まさか。
誰もがいなくなり演奏もいつしか止まった暗い世界の中、たった一か所だけくぐもった音の鳴り響くホワイトホール。
そこから姿を現したのは白衣を着た――私と瓜二つの顔をした男性だった。
「ひぃ!!」
そいつは鈍く明滅する赤い眼をにんまりと曲げて笑うと、
「……リバイバル」
私をホワイトホールの中へと引きずり込んだ。
《Music Rainbow Online》~わたくしがチート斧を捨てて不人気デバッファーを選んだ理由~ 裏阪さらう/こういうのでいいんだよ委員会 @kakuyomo
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