第2話・ギャルとオタクの距離が縮まるとどうなる? →怪しい人達が増える
小ぎれいな二階建ての家。
昨日ひび割れた空の一部は、いつの間にか大きな白い雲で覆われている。
タクト、リビングのテーブルでそれを眺めながらトーストを食べていると、ズルっと上に載っていたトマトが皿に落ちる。
妹、ため息をついてフォークでそれを刺して兄の口元に運ぶ。
新聞がテーブルの端に置かれている。
・主人公の妹 太田川 伊万里(おおたがわ いまり)
14歳、中学二年。
黒髪、長めの後ろ髪を二つ結んで垂らしている。
前髪はぱっつん。
絶望的に不器用な世話焼き。
伊万里「なにボーっとしてんですか、お兄様。あ~~ん」
トマト、タクトの頬に直撃。
タクト(上着のない白シャツの制服姿。フォークを奪って)「やめろ、伊万里。自分でやるから。……ちょっと昨日、色々あってね」
伊万里「どーせ、ガラの悪い男子に絡まれたとか、女子に珍しく話しかけられたとかくらいじゃないですか?」
タクト「……よくわかったな」
伊万里「お友達がいないお兄様も、たまには現実の人間と触れあうべきです。だいたい、猫耳巨乳メイドみたいな非現実的なフェチはどうかと思うんですよ」
タクト「PCの隠しフォルダを勝手に見るなっ!!」
伊万里「まあ、仮にお兄様が社会に絶望して引きこもっても、世界を敵に回しても、この伊万里が地下室でかくまって守ってあげますので安心してください。……監禁してでも」
タクト「監禁すんな。ってか、家に地下室なんかないだろ」
伊万里、目をそらす。
タクト「え、あるのかよっ?!」
伊万里「それより、上着っ!! 昨日どこで失くして来たんですか?」
タクト(怪人と出会って、変身したギャル子さんに貸したままとは言えない……!!)
タクト「あー、ニュース、どうなってるかな?」
テレビをつけると、昨日の怪人事件が起きた駅で、電車の設備トラブルがあったというニュース。
トラブルがあった駅は本日中は使えない、とのこと。
タクト「設備トラブル……?」
タクト(空のことも、怪人もニュースになってない。防護服が言ってたように、秘密にすべきことなのかな?)
タクト、立ち上がる。
タクト「あー、バスで行けば間に合うかな……。それより、伊万里こそキツめの性格少しは直さないと嫁の行き場所がない……ぐえっ」
伊万里(タクトのネクタイをきつく絞めながら笑う)「あら、お兄様。ネクタイが曲がっていましてよ。……そういうことは、彼女は無理でも女性の友達を一人くらい作ってから言ってくださいね」
教室に着く。他にいるのはピアスとマッチョだけ。
二人はタクトに近づき、乱暴に肩を抱く。
ピアス「おい、オタクてめー……ちょっと話があんだけどよ」
タクト「は、はい……?」
マッチョ(キラキラ目で)「昨日は助けてくれてありがとね」
ピアス「オレ様からも礼言っとくわ。その……昨日のこと、誰にも言ってないよな?」
タクト「ああ、漏らしたことですか?」
ピアス「それもだけど、ちげーわっ!! か、怪人と、ギャル子が変身したことだよ……!!」
マッチョ「オレら防護服の連中に口止めされてるけど、お前になら話していいかなって」
タクト「いえ……。それより、ギャル子さんのことが心配で」
ギャル子(教室に入ってきて)「あーしがどうかした?」
制服姿のギャル子、笑って現れる。
ただし、右腕は包帯を厳重に巻いて吊っている。
それ以外では、足とおでこに絆創膏、それ以外に異常は見えない。
ピアス&マッチョ(抱き合って涙目)「ひ、ひぃいいいいっ!!!!」
ギャル子「はぁ~、そんな怯えんなし」
タクト「その……右腕、大丈夫ですか?」
ギャル子「うん、へーきへーき。昨日駅の設備トラブルで、軽くパニックに巻き込まれたっしょ? そんとき転んじゃってね~。みんなはケガなかった?」
タクト「僕らは大丈夫ですが、あの、入院とか……」
ギャル子「も~~、大げさすぎるしぃ~。あーしは一日も学校を休むわけにはいかないのだっ!! こんなの一週間もすりゃ治るって」
タクト(一週間……腕を切断されて?)
他の女子、金山桃子が一人教室に入ってくる。
・金山桃子
金色とピンクが好きな派手系ギャル。肌は褐色。
金のアクセを首や腕などにジャラジャラつけている。
ギャル子の友達。
家は金持ち。
桃子(半目で)「ギャル子気を付けな~。……ってか、オタクと話してるの初めて見たんだけど~」
ギャル子「そそ。昨日漫画の話で意気投合しちゃってさぁ~。話してみるとマジ面白いから。もう、アレだよ、マブだよマブ」
タクト(やっぱ、変身とか怪人はなかったことにして欲しいんだな)
ギャル子はウィンク、タクトは頷く。
桃子、眉がぴくりと動く。
桃子「……どうやら、この桃ちゃんを本気で怒らせたようだね、オタクくぅ~~ん」
タクト「ひぇっ?!」
桃子「ギャル子が欲しくば、桃ちゃんを倒してみなさいって言いたいんだけど~!!」
タクト「え、え? いや、その、ちょっと話しただけで、そんな大層な話では……え?」
ギャル子、ずぅ~~んと落ち込む。
ギャル子「昨日、あれだけあって、ちょっと話しただけの関係……?」
桃子「ギャル子ちゃんになにをしたぁ~~~っ?! おい、後ろのデカいモブ男子。なんか知ってることあったら吐きなさいよ~!!」
ピアス「モブッ?! なんも知らねーって!!」
マッチョ、必死に頷く。
桃子(納得しない表情で腕組み)「ふぅ~~ん……」
桃子、タクトを睨みつける。
タクト「ひぃっ?!」
ギャル子(にこにこ)「ホラホラ、威嚇しな~~い。みんな仲良く平和に、ね?」
他の四人(不自然な表情で笑いながら)「はぁ~~い」
ギャル子「てかさぁ……オタク君。その……あーしにはもっとフレンドリーにしてもらって全然っOKだからねっ!! ほら、言葉遣いとかも」
タクト「あ、はい。そうですね……」
ギャル子、しょぼん。
放課後。
学校校舎の玄関で、急に降って来た雨を見てギャル子が左手だけで頭を抱えて「おぅの~~!!」と叫んでいる。
タクト、後ろからそれを発見する。
タクト「どうしました……って、その腕じゃ傘と鞄を両方持つのは難しいですよね。良かったら……あっ」
ギャル子「オタク君には色々お世話になりっぱなしだから、そこまで甘えてられないしっ。じゃーね、また明日っ!!」
ギャル子、雨に打たれながら外へ走り出す。
タクト、急いで傘を差して追う。
ギャル子、ぬかるみに足を滑らせてよろけるが、タクトが後ろから抱き留める。
タクト「あ、危ないですよ、そのケガで……。それに、濡れますから、傘……」
ギャル子(少し頬を染めながら、ちょっとふざけて)「ごっめ~~ん、まーた助けられちゃった。でも、走らなければ大丈夫だし」
タクト、顔を赤らめながら鞄からタオルを出してギャル子に渡す。
ギャル子のブラウスの胸元が濡れて透けて、肌に『02』という小さな刻印が見える。
ギャル子(顔を赤らめ)「うおぁっ?! ……あはは、確かにこれは傘が必要だね~」
タクト「そうです。早く拭いてください」
ギャル子(タオルで胸元を拭きながら)「それじゃさあ、あーしと相合傘してバス停まで送ってくれる? なぁ~んて冗談だ……」
タクト「はい、ご迷惑でなければ」
ギャル子(一瞬呆然とし、赤くなって)「いやいや、冗談のつもりだったんだけど!!」
タクト、しょぼん。
ギャル子「じゃ、じゃあお願いしようかな」
タクト(目を輝かせて)「わかりました!! 喜んでお供しますっ」
ギャル子「ぷっ……あははははっ!!」
タクト「ど、どうしました?」
ギャル子「なんかオタク君、お手伝いしてくれるときって目を輝かせて生き生きしてるよね。なんか健気なワンコみたい」
タクト「犬扱い……まあいいですけど。でも、僕に出来ることがあったらなんでも言ってください」
ギャル子(目を見開いて)「なんでも? 今『なんでも』って言った……?」
タクト「はい、言いましたけど」
二人はバス停について、並んでバスを待つ。
近くにはバス停の屋根の下のベンチで新聞を読む老人がいる。
ギャル子「じゃあ、これから……デートでもする? なーんて、冗談……」
タクト「えっ?! ……なんだ、冗談かぁ」
ギャル子、しょぼんとした表情。
老人が新聞をガサガサさせながら『ゴッホン、ウェッホン!!』と咳払いする。
タクト「えー……せめて家の近くまで送りま……」
老人(タクトに向かって『もう一押し、頑張れ』の動作)
タクト(……このおじいさん誰? なんか、凄い無言で主張してくる)
タクト「その、僕で良かったらデート……しますか?」
ギャル子(驚いた顔)「えっ、いいの……? よく考えて、変身して化け物焼き殺す系女子が相手だよ?」
タクト「ギャル子さんは世界を守る魔法少女と同じです。何を気にする必要があるんですか?」
ギャル子「そっかぁ……実はあーしも魔法少女だったんだ!!」
二人は笑う。
ギャル子「それで、オタク君はデートの経験は豊富?」
二人、バスの座席に隣同士で座る。
斜め後ろのさっきの老人、満足した顔で新聞を読み続ける。
タクト(目を輝かせて)「ええ、ギャルゲは十本ほどコンプしました」
ギャル子「現実の女子とは?」
タクト「……妹と」
ギャル子「ギャハハハハハっ!! それで自信満々とかおもしろっ」
タクト(ちょっと不貞腐れて)「そういうギャル子さんは自信たっぷりですね。やはり経験豊富……」
ギャル子「まーね。今日で百回分の経験値になるしー、初めてでも余裕っしょ」
タクト「……え?」
ギャル子「で、どこ行く? 初デートでエッチな場所は禁止ね」
タクト「行きませんよ!! えっと、こういうときの定番……」
ギャル子「ほらほら、ギャルゲマスターがんばれ♪」
タクト「と、とりあえず駅前で降りましょう!!」
ギャル子(ため息をついて)「ま、それは賛成だけどさあ。前にも言ったけど、『ソレ』なんとかなんないかな?」
二人、バスを降りて駅と接続されたショッピングモールを歩く。
タクト「え、えっと……僕なにかしちゃいましたかっ?!」
ギャル子「だから『ソレ』……あ、じゃあこうしよう。ソレに気付いて直してくれたら、今回のデートは合格にしちゃいま~~す」
タクト「え、え、え……その、誠心誠意、直してまいりますので、どうか、ご容赦くださいませ……!!」
ギャル子「あはははっ、悪化しちゃってるぅ~。じゃあ、ヒント!! オタクさん、どちらへ向かいましょうか? 行きたい場所はございますか?」
タクト(渋い顔)「え、そういう口調だと、なんか突き放されたみたいで……あっ!! そういういうこと。わ、わかりました……じゃなくって、わかりま、す?」
ギャル子「は~い、不合格ぅ~。直ってません~」
タクト(苦悶の表情)「……ぐぅっ、慣れない話し方、難しい、ん、だ、です、よ?」
ギャル子「ギャハハハハハ!! その分だとリアル女子を攻略するのは先が長そうですなぁ。まあ、いい機会だからあーしで練習しておきなよ~」
タクト(真面目な顔で)「いや、練習なんかじゃないですよ。もしかすると、今日が人生で唯一のデートかもしれないから」
ギャル子(ニヤニヤ笑って)「あら~、それじゃあーしがオタク君の一生の思い出のひとになったりぃ~?」
タクト「きっとそうなりま、なると思う」
ギャル子(顔を真っ赤にして)「……むぅ。……って、どこ向かってるの?」
タクト「……あ、すみません。話すのに夢中になってて、何も考えてなかった」
ギャル子から『ぎゅるるぅ~』とお腹の音がなってさらに赤くなる。
背景にモール内のファミレス。
タクト「じゃあ、ここ入りましょう……入ろうか」
ギャル子「えへへ……」
ファミレスに入ると、店員二名と客四人がやはり新聞を読んでいる。
二人は横並びに座る。
ギャル子、フルーツパフェを注文する。
ギャル子「食べさせて、あ~~~ん」
タクト「えぇ……」
ギャル子「デートと言ったら甘いもので『あ~~ん』じゃないのぉ?」
タクト「要求のレベルが……高すぎるっ!!」
店員と客達が一斉に新聞をガサガサさせる。
タクト(なんなんだよ今日の新聞読んでる人達は……)
タクト「わかりましたよっ!! はい、あ~ん」
ギャル子「あ~~~~ん」
ギャル子、口の周りが汚れたのでタクトが紙ナプキンで拭いてあげる。
タクト、小さい頃の妹にこうしてあげたことを思い出す。
タクト「……あー、小さい頃の妹もこんな感じだったなあ」
ギャル子「えー、あーしが妹ぉ? ……おにぃちゃ~~~ん!!」
ギャル子、タクトの肩に頭をくっつける。
タクト(赤くなりながら叫ぶ)「違うっ、妹とはもっと禍々しい存在なんだっ!!」
ギャル子「なにそれ~、どんな妹ちゃんなの~?」
タクト「……昔から不器用で、よく面倒を見てやってたんですが。今では反抗期になって、自分がダメな兄の面倒を見ると主張してる感じ?」
ギャル子「それ反抗期って言うのかなぁ? お兄ちゃん大好きっ子じゃん」
タクト「たまにヤバい気配がするのでそれはどうかと……。頭がいい奴なので余計に怖くて。ギャル子さんにごきょうだいは?」
ギャル子「んー、会ったことがない姉と、妹がいる感じ?」
タクト「な、何か複雑な事情が……すみませんでした」
ギャル子「いや、いいよん。まあ、オタク君も、あーしに何かあったときは会うことになるだろうし」
タクト「……?」
ギャル子「……あっ、溶けたアイスが落ちちゃった。拭いて~」
タクト「はいっ……ってそこは拭けませんよ!!」
ギャル子の胸元に溶けたアイスが落ちていく。
ギャル子「わわわっ、早く、早く!!」
新聞『ガサガサガサっ!!』
タクト「うぐぅっ」
タクト、赤くなりながら拭く。
二人が食べ終わって、タクトがレジ前で財布を取り出すとウェイトレスが首を横に振る。
ギャル子「ごちそ~さまです。美味しかった。……あのね、ママが務めているエデン2016ってグループ系列だから、お金はいいんだって。オタク君の分も」
ウェイトレス、頷く。
タクト「えっと、ご馳走様でした。……お母さんって、社長とか?」
ギャル子「ううん、研究者だって」
タクト「研究者……?」
店の外に出ると、二人はモール内にゲーセンを発見。
ギャル子「ちょっとだけ遊ぼっ!! こういうのずっとやってみたかったんだよね~。色々あって何からしたらいいか……」
タクト「あっ、それじゃ初心者でも楽しみやすいレースとか。あっちのガンシューティングも
おススメ」
ギャル子「両方やるぅ~~!!」
二人はしばらく遊ぶ。ギャル子はゲーセンのUFOキャッチャーの魔法少女パイル☆バンカーに目を輝かせる。
ギャル子「オタク君、あれっ!! ……ん?」
腕時計「午後六時半、帰還時刻です」
ギャル子「ねえ、あとちょっとだけ……」
腕時計「午後六時半、帰還時刻です。門限を越えた場合、あなたの行動制限を強化します」
ギャル子、がっくりとうなだれる。
タクト「……また今度にしよう。ゲーセンはいつでも行けるから」
ギャル子「……はぁい」
モールの外を見ると、雨がやんで、夕焼け空。
二人はモールの外を歩く。
ギャル子「う~~ん、やっぱ晴れは気分いいナ~。じゃあ、オタク君、あーし帰るねっ」
タクト「えっ、家の前まで……」
ギャル子「雨やんでるし、走らなければだいじょぶ。……もしよかったらまたデート、してくれる?」
タクト「えっ……」
周囲のサラリーマンやOL姿の通行人十名、それぞれが新聞を読んだフリをしながらバタバタ音を立てている。
タクト「も、もちろんです!!」
ギャル子「です、じゃなくって?」
タクト「も、もちろん、だ……よ?」
ギャル子、手を振りながら立ち去る。
タクトがギャル子に手を振り返す。
そして周りを見ると、新聞を読んでいた人たちがいなくなっている。
タクト「……あの新聞の人たち、なんだったんだ?」
タクト、家のリビングに戻ると、ソファーで伊万里が新聞を読んでいて、こちらをジロリとにらんできてビビる。
タクト「ただいま……ってなんでお前新聞読んでんだっ?!」
伊万里「そりゃあ、伊万里だって新聞くらい読みますよ。……デートどうでしたか?」
タクト「なんでそのこと……?」
伊万里「香水の匂いがするからわかりますけど。……手をつないだとか、そういう進展はありましたか?」
タクト「……なんの成果も得られませんでした~~~!!!!」
伊万里(新聞をガサガサ振り回す)「お兄様のドアホ~~!!」
タクト「新聞で威嚇するのやめてっ。トラウマになりそう」
タクト、リビングから逃げ出す。
伊万里、ため息をついて新聞を開きながらスマホで通話。
伊万里「……ターゲットO、ターゲットGと接触。計画は順調に進んでいます。引き続き監視と支援を行います」
伊万里の読んでいる新聞の記事の一部に『OとGの関係強化を支援せよ』と書かれている。
伊万里、通話を終えて呟く。
伊万里「運命、動き出しちゃったか……。しっかりしてよね、お兄様」
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