介護現場のあまりに生々しい描写と、静寂の中に忍び寄る「真の恐怖」が見事に融合した心理ホラー。
本作の真骨頂は、主人公が出会う老人の言動が「認知症による認識の欠落」なのか、それとも「状況を理解した上での隠蔽」なのか、その境目が最後まで曖昧なまま提示される点にあります。リアルな臭覚・感覚描写によって読者の胃を締め上げつつ、人間の心が壊れていく過程と、壊れたふりをして潜む悪意のどちらとも取れる絶妙な恐怖を描き出しています。
日常の延長線上にある介護ビジネスの歪みと、人間の精神の底知れぬ暗がりを覗き込みたい方におすすめしたい、ゾワッとする短編です。