1話:捕食の代償と、仮面のゲームマスター

レイは先ほど獲得した剛力の一撃を、炎の男の顔面に放った。


レイが放った一撃は見事に男の顔面に命中した。


「が、あ……っ!?」


という短い悲鳴とともに、男の身体はまるで砲弾のように吹き飛び、漆黒の結界壁へと激突する。


男の纏っていた業火が霧散し、静寂が訪れる。


ピクリとも動かない。


条件達成。


レイの右手が男の死体に触れた瞬間、脳内に再び冷徹な声が響く。


『――対象を確認。異能:爆炎フレアを捕食します』


凄まじい熱量がレイの体内に流れ込む。


大男の剛力に続き、2つ目の異能。


しかし、その瞬間、レイの右腕の皮膚が赤黒く変色し、まるで鱗のような硬い質感へと変貌し始めた。


(……くっ)

「身体が熱い……! 」


能力強奪の代償――

それは、喰らった異能者の特徴が肉体に強制融合していくというものだった。


激痛に耐え、右腕を抑えて蹲るレイ。


そこへ、パチ、パチ、パチ、と場違いな拍手の音が響く。


どこからともなく、空間に不気味な乾いた拍手の音が響き渡った。


場違いなほど軽快で、背筋が凍るような声が重なる。


「あはは! 素晴らしい! 実に素晴らしいものを見せてもらいました!」


俺は警戒して身構える。


目の前の空間が、まるで黒いインクを流したようにドロリと歪み、そこから一人の奇妙な男が這い出るように現れた。


シルクハットを深く被り、顔には白黒のピエロのような仮面。

タキシードを纏っているが、その影は人間の形をしておらず、無数の虫が蠢いているかのように歪んでいる。


「誰だよ、あんた……!」


俺は鋭く睨みつける。


「おっと、失礼。私はこの美しき『壺』の管理を任されている者。皆様からは『案内人ゲームマスター・パペット』とでもお呼びいただきましょうか」


パペットは恭しく一礼するが、その仮面の奥にある瞳は、完全に狂気に染まっていた。彼は俺の変異した右腕を見つめ、不気味に喉を鳴らす。


「異能を喰らう『捕食者』ですか。イレギュラーも甚だしいですが……ふふ、面白い。ですが、少しゲームの進行が早すぎますねぇ。これでは主催者マスターの退屈が紛れません」


パペットがパチン、と指を鳴らした。すると、壺の中に響き渡るほどの声で


「これ以上の連戦はゲームバランスを崩します。ですので、少しばかりルール(スパイス)を追加しましょう」


パペットは空中を指差す。


そこには、赤黒い文字で新たなペナルティが浮かび上がった。


『追加ルール:【蠱(こ)の刻印】。ここからは2人で1ペア。更に1時間に一回他の異能者ペア達を殺害し、その血液を浴びなければ、自身達の異能が暴走して自滅する。』


「さぁ、天才の皆様、そしてイレギュラーの道化師イーターさん。命のカウントダウンが始まりました。次の1時間、どこのペアを喰らい、どう生き延びるか……。まあ結局の所最後にはそのペアで殺し合いを行ってもらうんですがね…とはいえ私に最高のショーを見せてくださいね?」


パペットは歪んだ笑顔を模した仮面を残し、高笑いと共に黒い霧となって消え去った。


残されたのは、右腕の変異に苦しむ俺と、息を呑む他の参加者。そして、1時間という死のタイムリミットの中で自身のペアを見つけ、他のペアを殺さなければ自分達が死ぬとという絶望だけだった――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る