目撃証言 1−1
5.20 Wednesday
目撃日時:5月11日(火)18時35分ごろ
目撃場所:学校図書館 外国文学ジャンルの書架前
目撃者:2年 C 組 永瀬友佳(新聞部所属)
インタビュワー:鮎沢心春(ホラー研究部所属)
永瀬:「いやあのさ、心春。話すのは別に全然かまわないんだけどさ。ボイスメモまで必要?」
鮎沢:「うん、部長の指示。念のためにちゃんと録音してきなさいって」
永瀬:「……そ、そう、信頼されてるのね」
鮎沢:「え、そうかなあ。えー、それほどでもお」
永瀬:「……なんで、モジモジすんの」
鮎沢:「で、トモちゃん。ぶっちゃけ、どうだった? 怖かった?」
永瀬:「そりゃ、相手は幽霊だもん。怖いに決まってるじゃん」
鮎沢:「やっぱそうだよねえ。怖いよねえ。でもさ、私は怖くなくなったよ。最近、鍛えられたっていうかさあ。心霊現象も慣れが肝心っていうかさあ。まあ、トモちゃんもいつかきっと克服できるよ」
永瀬:「いや、あの、変なマウントやめてよ。ていうか、別に克服できなくていいし」
鮎沢:「えへへ」
永瀬:「なんで、照れる」
鮎沢:「うふふ」
永瀬:「あのさ、目撃談、聞きにきたんじゃなかったの」
鮎沢:「あ、そうだった。そういえば部長に質問メモ、渡されてたんだっけ。確か、ブレザーのポケットに、えっと、こっちか……あった。じゃあ、質問行くよ」
永瀬:「信頼されてるなあ」
鮎沢:「ええとねえ、まずわあ、幽霊に遭った場所は?」
永瀬:「図書館。外国文学の棚の前よ。これ、さっきも言ったよね」
鮎沢:「ふむふむ、で? それはいつ?」
永瀬:「五月十一日の夕方、六時半過ぎだったと思う。これも言ったじゃん」
鮎沢:「過ぎっていうのは? 三十何分ごろ?」
永瀬:「分かんないって。ずっと時計見てたわけじゃないし。でも、最終下校時間の予鈴が六時半でしょ。それが鳴ってすぐに帰り支度始めて、ちょっと気になることがあって本棚を調べに行って、そのときだから、そうね。三十五分ぐらいじゃない?」
鮎沢:「ほほお、なるほど。では、三十五分、何秒?」
永瀬:「知るか、ボケ」
鮎沢:「ああん、トモちゃん。怒んないでよお」
永瀬:「あのさ、早くしてくんない。私もこの後、部活行かなきゃなんだよ」
鮎沢:「そうだった、ごめん。トモちゃん、新聞部だっけ」
永瀬:「うん、そう。だから図書館の幽霊についてなんか分かったら情報よこしなさいよね」
鮎沢:「了解っす」
永瀬:「じゃ、話すよ。えっとね、そうそう、あの日はウチのクラスの図書委員が放課後の受付当番だったんだよね。当番って、けっこう暇でさあ。本借りてく生徒もそんなに多くないしさ。というか、ウチの図書館、立地自体が良くないと思わん? 今、ほとんど使われてない東校舎の裏手とか、下校途中にちょっと寄って本を借りて帰ろうなんて絶対思わないじゃん。だからほとんど誰も来なくて、めっちゃ暇なわけ。だから二時間ぐらい、カウンターに座ってぼおーッとしてるしかなくてさ。それでも相方が友達ならおしゃべりしてればいいからヨユーなんだが、クラスの図書委員って男女一人ずつだから当然男子とペアじゃん。まあ、男子でも気が合うっていうか、普通に話せる人ならいいんだけど、私の場合はオタクキャラの池田が相棒っていうところが地獄なんよ。いざカウンターにスタンバッて何気に横見たら池田、ハナから自前のアイドル雑誌をリュックから出して開いてるわけ。いや、もお、そんなん絶対ヒクでしょ、キモいし。でさ、でさ、聞いてよ、心春……」
鮎沢:「……あのお、トモちゃん。幽霊の話は?」
永瀬:「あ、ごめん、ごめん。そうだった。でさ、退屈な受付係が閉館の六時まで続いて、その後は返却図書を棚に戻したりとか、報告日誌付けたり、掃き掃除したり。そんで六時半に最終下校時間の予鈴が鳴ってようやくお役御免となるわけ。んで、帰り支度して、司書室に行って今泉先生に日誌を渡して、挨拶して帰ろうとしたら、なんか池田がさあ、先生にいきなり『昭和・平成・令和のアイドル大図鑑』とかいう本を学校図書館で購入してくださいなんて熱く直談判始めちゃってさ。私、付き合う義理もないじゃん。だから先に帰りますって先生に断って、司書室を出たの。いやあ、今、考えるとさっさと帰っちゃえば良かったんだよねえ。でもさなんか、そのとき、もしかすると返却図書の一冊を間違って別の棚に戻しちゃったかもって気になっちゃってさ。それで確認に行ったのよ」
鮎沢:「そこで『焚書の魔女』に遭遇した?」
永瀬:「ん、そ。照明はすでに消してたから暗かったんだけどさ。でも、今の季節の六時半って外はまだけっこう明るいんだよね。んで、あの日は晴れてたし、だからブラインド越しに夕焼けが差し込んでてさ。ホール全体がぼんやり朱色に染まっててなんか綺麗だなあなんて思いながら開架スペースに、あ、図書館で本棚が並んでるエリアのことを開架スペースっていうんだよ。心春、知ってた?」
鮎沢:「ううん、知らなかった」
永瀬:「だろお。私も図書委員になるまで知らなかったよ。まあ、知ってるからどうなんって話だが、新聞部やってるとそういう豆知識が意外と役に……」
鮎沢:「あの、私は別にいいんだけど、新聞部に行かなきゃだからあんまり時間ないってトモちゃん、さっき」
永瀬:「あ、そうだった。実は今日中にまとめなきゃなんない予定稿があるんだよね。生徒会が校則の取り締まりを強化するとか言っててさ。横暴にもほどが……」
鮎沢:「トモちゃん」
永瀬:「はッ、ごめん。いや、なんかさ、心春相手だと喋りやすいんだよねえ」
鮎沢:「そう言ってもらえるのは嬉しいけどさあ」
永瀬:「悪い、悪い。えっと、どこまで話したっけ」
鮎沢:「えっと、返却本を戻した棚を確認しにカイカスペース? に向かったところかな」
永瀬:「ああ、そうそう。んで、ちなみに私が間違って戻したかもって思った返却本っていうのがルネッサンス時代の芸術史に書かれた本でサブタイトルが確か『神の時代からなんちゃら』みたいな奴でさ。いったい誰が借りたんだろって感じの。美術部の人かな。ま、いっか、それは。で、それを芸術のコーナーに戻さなきゃいけないんだけど、歴史のとこに入れちゃったかもって心配になったんだよ。で、確認したら結局、大丈夫だったんだけどさ。そんで安心して帰ろうとしたらなんか焦げ臭い匂いがどこからともなくが漂ってきたんだよね」
鮎沢:「え、マジ」
永瀬:「マジよ、マジ。なんだろうこれって思うじゃん。火事だったらヤバいし」
鮎沢:「……うん」
永瀬:「んで、あたりを見回したんだけど煙とか見えなくてさ。でも焦げた臭いはどんどん濃くなってくるしさ。とりあえず司書室に行って今泉先生に報告しなきゃって思って駆け出そうとしたら、そんとき、左側の棚の向こうに誰かがいる気配を感じたんだよね」
鮎沢:「ひいッ」
永瀬:「あのなあ、心春。耳塞ぐのはまだ早いって。大事なのはこっからだから」
鮎沢:「やだやだ、もお、やだよお」
永瀬:「いや、あんた。心霊現象は克服したとか言ってなかったか、さっき」
鮎沢:「うん、克服したよ」
永瀬:「どこがだよ」
鮎沢:「……したもん。ぐずッ」
永瀬:「……ま、いいや。じゃあ、続き話すね」
鮎沢:「……うん、ぐずッ」
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