第七話

七日目

夜遅くなったのと、熊との格闘の疲れからイワレが目を覚ました時にはかなり明るくなっていた。

皆を起こし用意をしようと荷物を持とうとする…コメの袋が破れているのに気が付く。

狸か…ネズミ…小動物であるのは間違いない、食い荒らされている。辺りにコメが散乱している。

散らかったコメを皆で拾い集める…その間にイワレは急いで数える。

(どの程度残っている……どの程度持っていかれた……)

忙しく手を動かす、指を折る、指を開く、また指を折る……。

(1200……山の集落に残っている人は七十人予定では後二十日、1400……足りない……)

「イワレどうした」

「コメを持って行かれた……。」

力なくうなだれるイワレに声をかける。

「仕方ない。幸い魚と肉はある、まだコメもなくなったわけではない。先を急ごう、考えるのは後だ。」

諭されたイワレは歩きながら考えることにする。

歩き出すと考える暇などなくなる、指を動かして歩数を数えること自体が忙しくなるのだ。

両手を使って数え終わる。それを十回繰り返しイワレは言う。

「休もう。」

別の誰かが

「まだ歩けるぞ。」

「いや、休もう。次に休むとちょうど太陽が南に来る。そこからもう3回休むと日が沈む頃だろう。今休むとちょうどいい。」

なるほどそういうものかと納得して全員歩くのをやめる。

休んでる間もイワレは考える。コメのことだ。

(後三日、肉と魚、魚は減ったが肉が増えた。3日ならもつ…違う海までのコメだ。両手で数えられる数と少し、恐らく1200程度。ならば肉か…もう熊に会うのはごめんだ。小動物なら……幸い小動物を捕るのが上手いクメはいるが、ウサギや狸を追っている時間があるか……考えがまとまらない。)

やがて誰かが、

「行こう。」

考えがまとまらないままイワレは同意する。

「そうだな、行こう。」

また歩き始める。

日が沈み、火を焚いていた。

イワレは離れた場所に一人座り考えていた。

火で炙った肉を持ってタジカが横に座る。

「考え過ぎるな、なるようにしかならん。それにな、山の集落に着けばドングリがあるかも知れん、狸くらいは捕まえられるかも知れん。気に止むな。」

そう言って肉をイワレに差し出す。

肉を受け取り、

「タジカ、傷は大丈夫か?」

「心配するな、ほれこの通り。」

傷のある肩を回してみせる。

ピクッと眉が動くが笑顔を崩さずに、大きな声で会話を続ける。

「しかしイワレよ、あれはちと痛かったぞ。いくら血を止めるとはいえワシを焼かんでもいいじゃろ。」

「お、お前を焼いたのではない!傷口を焼いただけだ!」

必死に言い募るイワレに笑顔のまま。

「今でも痛いわ、熊に肉を抉られたよりも火傷の方が痛いくらいじゃわ。」

「あれはそうしないと……それに……」

イワレの言葉を手を上げて遮り、真顔になり落ち着いた声で。

「わかっとるわ、ワシの傷口を焼くときのお前さんの顔はワシより痛がっておったわ。あの痛みがあるからワシは今日も歩けておる。感謝しとるわい。」

そう言って深々と頭をさげ、人懐っこい笑顔を見せて。

「まぁ、肩は痛いんだがな。」

そう言って大きな声で笑いながら火の方へ歩いていった。


八日目

まだ着かない。沢の分岐を幾つか過ぎた。山の沢らしく川の流れは多少細くなって、集落が近いとはわかるが、見慣れた風景にはほど遠い。川の流れとその両脇の谷の落差が大きい。

(どこかで道を間違えたか…いや尾根を越えた覚えはない…山の集落の東に川はなかった、ならばこの沢を上れば集落があるはず…私が考えるよりも進みが遅いのか…)


十日目

二回目の休憩に近くなって一人が声を上げる。

「おお!この岩!見覚えがあるぞ!」

ウサギを追って来た事があるらしい。

「迷ってここまで来ただけだがな」

気恥ずかしそうに話している。

「近いとはいえな、あの時は帰るまでに三日も山を歩いたわ。」

恥ずかしさを隠すためか一際大きな声で笑いながら話す。

イワレは考えている。

(ならば三日、後三日の内には山の集落にたどり着ける、肉は塊があと二つ、ギリギリか。満足に食べれらていない…疲れがたまっている……)

イワレが皆に声をかける。

「皆、今日はここまでにしよう。山の集落までの目処も立ったし、今日はここで夜まで休んで明日からに備えよう。」

「それなら俺がウサギでも捕まえて来るとするか。」

クメが傍らに置いてあった弓を持って立ち上がる。

「なら俺も行こう。」

二人で山の中へ入って行く。

残った三人は岩に腰掛け火を起こし肉を炙りだす。

沢の近くで竹を石で叩いて切り出し、節毎に切り分ける。節に穴を空けて水を入れ、適当な木の枝を突っ込んで蓋にする。それを五個作った頃。

山に入って行った二人が、狸を二匹、ぶら下げて帰ってきた。

「どうだ!我等二人にかかればこんなもんよ!」

笑顔で悠然と歩いてくる。

狸を肉の塊に変えて棒に刺し、塩を振って火で炙り食った。食った余りの肉も一握りづつ塩を揉み込み軽く炙って棒に刺し持ち歩きしやすくしてから眠りについた。

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