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 涼平が来なくなってから、一週間が経とうとしている。

 毎食、カップラーメンかコンビニ飯。何をするにもやる気が出なくて、絵の仕事も休みをもらっている。ゲームを一人でやる気にもなれない。

 

 「暇だ…あ、馨誘ってゲームしよ」


 プルルルル…プルルルル…


 ワンコール目、出ない。二コール目、出ない。三コール目にやっと連絡がつく。


 『はぁい…休日暇すぎて、まだベッドの馨ですよ…』


 昼寝でもしていたのだろう。電話越しの馨の声は眠そうだ。


 「暇ならちょうどいいや。ゲームしない?」


 『ゲーム!いいよー!』


 眠そうだった声がいきなり明るくなった。あまりの切り替えの速さに苦笑いしながらも、二人でできるゲームのURLを送る。


 馨は、普段からゲームをする人じゃない。なんなら画面酔いするから、と言って苦手なくらいだ。

 ただ、暇なことが馨にとってはなにより苦痛であることを、私は知っている。暇を持て余すくらいなら、苦手なものでもやるタイプなのだ。


  ゲームが始まった。キャラクター同士のお腹が紐でつながっている。二人で協力するタイプのゲーム。


 『あー!?落とさないでよ!仲間だよね!?』


 「ごめん、邪魔で」


 『…なんか怒ってる?」


 私の声に含まれる僅かな怒りを、馨は感じ取ったらしい。気にしていないふりをしても、やっぱり声には出るものらしい。


 「んー、涼平と喧嘩したからかな」


 『涼平、くん…』


 馨にならいいだろう。私は胸の中に溜まったものを、全部吐き出すことにした。


「『いただきます』って言わなかっただけで怒っててさ。なんか言い合いになっちゃって。こんな何もしなくなるまで面倒見ててくれたのはあっちなのにさ?それに察しろとか無理じゃね?ちゃんと言葉に出せっつーの。弟のくせに姉に口答えするとか、」


 『ねぇ、ずっと言おうか迷ってたんだけどさ』


 私の言葉を、馨が遮る。その声には、少し困惑と動揺が感じられた。


 『…涼音って、弟いたっけ?』


 「…は?」


 馨の発言に、コントローラーが、手の中から滑り落ちる。


 ガタンッ


 重厚な作りなので、結構大きな音が鳴った。


 『涼平くん?の話が出てきたのって、大学からだったなって思って。高校の頃はそんな話、一度もしてなかったじゃん。ずっと彼氏の話してるのかと思ってたんだけど、弟って…涼音って一人っ子だよね?』


 馨の言っていることが、何一つ理解できない。頭がぐちゃぐちゃになる。正常な判断ができない。


 「一人っ子…?私が…?」


 『もしかして、ネットの深いつながり…みたいな?ほら、ネットで彼氏彼女呼び合うみたいなあるよね。でも、あんまのめり込みすぎないようにね〜…涼音?え、大丈夫?何かあっ、』


 ブツッ


 通話を切る。馨の声が途中で途切れた。

 パソコンの電源を落とす暇もなく、私は立ち上がった。


 「…実家行かなきゃ」


 電気もつけっぱなしで、今の服に上着を着ただけの私は、財布だけを手に家を後にした。

 パソコンの画面には、『GAME OVER』の文字が浮かんでいた。







 電車に揺られること一時間。坂を走って上っていき、両親の住む家にたどり着いた。


 ピーンポーン…


 「はーい!」


 インターホンを押すと、母さんが出てくる。料理していたのか、家からは生姜焼きの美味しそうな匂いが漂ってきたが、今はそんなことを気にしている場合ではない。


 「あれ、涼音?帰ってきたの?」


 「はぁ…っ、はぁ…っ、りょうへ…」


 母さんの横をすり抜け、土足のまま家に入り込む。


 「ちょっと!?靴!!」


 部屋の扉を片っ端から開けていく。どこにも、涼平はいない。


 「どこ!?涼平!どこにいるの!?」


 トイレの便座の中まで覗き始めた私を見て、さすがに異変を感じたのか、母さんの手が私の腕を掴んだ。


 「涼音!落ち着きなさい!」


 「ね、ねぇ…涼平はどこ?帰ってるんだよね?コンビニ行ったの?会いたいの、教えて…」


 母さんの肩を掴みながら弱々しく尋ねる。涼平がいない。実家に帰っているのではなかったのか。


 「なに言ってるの!!涼平なんて名前の子、この家には来ていないし、見たこともない!それより、あなたフラフラしてる…やっぱりちゃんとご飯食べてないんでしょ?」


 私の肩やお腹を触りながら、体調を心配してくる母さん。母さんの声を聞きつけたのか、部屋で仕事をしていたらしい父さんも出てくる。


 「なんだ、どうした」


 「お父さん!この子が…」


 「涼平…涼平…」


 「涼音!!」


 後ろから聞こえる母さんの声は耳に入らない。弱々しい足取りで、私は自分の家へ帰る道を歩き始めた。

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