綾瀬先輩のリアルな匂わせ

 文化祭が差し迫った十月上旬。生徒会室は各クラスの生徒会実行委員や有志の生徒たちでごった返して、目がくらむような激務の日々が続いていた。

 そんな騒々しい空間の真ん中で、生徒会の歪さを詳らかにする事件が起きた。

「藍さ、一人で仕事抱え込み過ぎじゃない?俺もそれ手伝うから、この後一緒にマックでやろ」

 無我夢中でPCとにらめっこしている綾瀬先輩に対し、なれなれしく下の名前で声をかけたのは副生徒会長だった。

 夢川との破局が公のものとなった副生徒会長は、これまで以上に綾瀬先輩へのアピールを強めている。

 舐め回すような下衆に満ちた視線で、彼女の豊かな胸や腰回りを品定めする様は、醜いとしか形容できない。

 僕が眉をひそめていると、綾瀬先輩がゆっくりと顔を上げた。

「気持ち悪いからやめて。それ、セクハラだよ?」

「ノリ悪いなぁ。俺たち長い付き合いだろ...?内部進学組だから大学でも一緒になるんだし、仲良くしよ〜。ってかそういう硬派なところもマジえろ可愛くて好き。今はフリーだから今日一緒に作業しような。お前らはもう帰っていいよ?」

 副会長は僕と夢川を小馬鹿にするように一瞥し、薄ら笑みを浮かべた。

「せっかくの青春、後輩相手にしてるだけじゃ勿体ないって。お前だって変な噂立ってるの知ってるだろ?...永野、本当に勘違いしちゃってストーカーかするぞ?」

 部屋中の実行委員や生徒たちが息を呑んで、僕たちを鑑賞しているのがひしひしと伝わってくる。珍獣にでもなった気分だ。

 僕の中で消化しきれない吐き気と怒りが臨界点に達したその時。

「だってホントに付き合ってるんだもん。......今、めちゃくちゃラブラブでお互いの家に通い詰めてるくらい進んでるの、悪い?」

「は?え...?き、聞いてねえよ!!!」

 突如として、ここにいる全員の視線が僕に集まる。喜怒哀楽すべてが敷き詰められはそれは、人間の業を凝縮していた。

「副生徒会長。文化祭のパンフレット、一週間放置した挙句、拓人くんに全部丸投げしてたよね。...私が知らないとでも思った?」

「ちが!それは...」

「自分の仕事すら全うできず、生徒会に夢川さんとのいざこざを持ち込む男子なんか嫌に決まってるじゃん。てか拓斗くんに謝ってよ。虫唾が走るんだけど」

 凛とした声が、静まり返った生徒会室に響き渡る。

 完膚なきまでの正論を前に、副生徒会長は顔を真っ赤にして、ぶるぶると震えることしかできないようだった。

 圧倒的事実による公開処刑。群衆は容赦なく彼を突き刺す。

「うわぁ、ださ」

「普通にきもくね」

「おい!早く来いよ今めちゃおもろいことになってて」

 騒然とする生徒会室の中、綾瀬先輩は優しく僕の手を取り、微笑んだ。

「...残りの仕事は拓斗くんのお家でしよっか」

 甘く囁くような声。副会長と愛川はビクッと身体を震わせ、僕たちを睨んでくる。けれど、もう関係ない。どうでも良いのだ。

 僕たちは振り返るころなく、手と手を絡め合いながら生徒会室を後にした。

 幸せの絶頂にいた僕は、怪訝な目で見つめる冬野の視線にきづかなかったのだった。


 長期連載の基準となるので、ぜひ星よろしくお願いします🥺


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