第3話 上書き
【前回の続き 学校 中庭】
翔大「その……、付き合ってください!」
優雨に告白する翔大。それに戸惑う優雨。
優雨「えっと……?」
翔大「小倉さんの、優しいところに惹かれたってうか、その……だんだん気になって」
優雨「あ、ありがとう……」
翔大「ちゃんと気持ち伝えたくて。……ってごめん、急に言われてもだよね?」
翔大は優雨の顔をうかがう。
翔大「返事、いつでもいいから……!」
優雨「え、あ、ちょっと……」
翔大はそう言うと逃げるように早足でその場を立ち去ってしまう。
優雨モノローグ:回答待ち……?
優雨(しかも、まだ連絡先を交換していないから、告白の返事を会わずに終わらせることは難しい)
優雨(前は、すんなり受け取った気がする……)
優雨モノローグ:純粋に翔大の気持ちが嬉しかったから。けれど、今回は違う——。
優雨は振られたときのことを思い出す。
翔大『ごめん……。別れて欲しい』
優雨(結局付き合ったのは2か月ぐらいだっな……)
優雨モノローグ:難しいのは、今のところ断る理由が「この先振られるから」しか見つからないことだ。
優雨モノローグ:だけど、そんなこと向こうは勿論知らない。
優雨「どうしよう……」
優雨は頭を抱えて悩む。
【連休 自宅】
優雨モノローグ:告白の返事待ちで、そのままゴールデンウイークに入った。
優雨の母「優雨~、連休中暇でしょ~」
優雨「ん~?」
ソファーでスマホ(配信ドラマ)を観ている優雨。
優雨の母「これ、行かない?」
手渡されたのは水族館のチケット。
優雨「チケット?」
優雨の母「そ、知り合いからもらったんだけどね、私仕事だし、せっかくだからあげる」
優雨「いいの?」
優雨の母「いいよ、誰か誘っておいで」
優雨「誘う……?」
チケットはよく見ると2枚が重なっていた。
優雨(そういえば——)
優雨(初めてデートしたのもこの水族館だったっけ?)
優雨モノローグ:前回はデート先を悩んでいた時に、もらったような気がする……。
優雨(でも、今回、翔大は誘えない)
優雨「莉子を誘ってみようかな……」
優雨(ついでに、翔大の返事のことも相談してみよう)
優雨はスマホで莉子にメッセージを送る。
【2日後 自宅】
優雨モノローグ:2日後——。莉子と水族館に行くことになった。
優雨モノローグ:誘った日、翔大のことも少し、話した。
優雨(告白を断ろうかと思ってるって言ったら「断るなんてもったないない」って言われたけど——)
優雨は振られたときのことを思い出す。
翔大『ごめん……。別れて欲しい』
優雨(どうせ、振られるくらいなら、最初から付き合わない方がいいよね……)
ちょうど服を着るところで、バイブ音が鳴った。
莉子からメッセージが届いていた。
莉子〈ごめん、熱出ちゃって、行けそうにない🙏〉
優雨〈え、大丈夫?〉
莉子〈しんどい……。病院も開いてない。ツライ〉
優雨〈大変だ。ゆっくり休んでね。お大事に!〉
莉子〈本当にごめん!!また、誘って〉
優雨「ふぅー……」
メッセージを返し、優雨はため息をつく。
優雨(どうしようかな……)
優雨はチラリと鏡を見る。
着替えもメイクも済んでおり、あとは髪の毛をセットするだけだった。
優雨(準備までしちゃったし……、行くか!)
優雨(チケットの有効期限は今月中。とりあえず、今日は学割で行こう……)
【水族館】
連休中のためか、水族館は混んでいる。
優雨「わぁー……」
優雨はトンネルのようになっている大きな水槽の下を潜り抜ける。
イワシ、カメ、エイ、ジンベイザメ、カニ。
優雨はそれぞれの水槽の前で写真を撮りながらゆっくり進む。
カップル・彼女「見てみて、かわいい〜」
カップル・彼氏「ほんとだ〜」
少し先を行くカップルを見て、優雨は翔大とのデートを思い出す。
【回想 1周目 デート】
優雨『クマノミだ〜、かわいい〜!!』
翔大『ヒトデ、でっか!』
優雨『イルカショー、見ようよ!』
【水族館】
優雨「……」
カップルの後ろ姿を見て、落ち込む優雨。
優雨(来ない方が良かったかも……)
館内アナウンス「館内の皆様、まもなくアクアエリアでエリアショーが始まります——」
水槽を見ていた優雨。アナウンスが耳に入る。
優雨(時間あるし、行こうかな……)
優雨はショーのエリアまで行こうとする。
しかし、ちょうど走ってきた子供にぶつかる。子供は尻餅をつく。
優雨「え、ごめん、大丈夫?」
翔大「こら!危ないって言ったのに!!」
子供の後ろから聞こえてきた声に、優雨は聞き覚えを感じる。
声の主は翔大だった。
優雨・翔大「え」「あ」
優雨(なんで……?)
戸惑う2人。
子ども「イルカショー、始まっちゃう……」
戸惑う二人を気にせずに子供は翔太を見て呟く。
翔大「
朝陽「……ごめんなさい」
朝陽と言われた子供は優雨に向かって謝る。
翔大「小倉さん、ごめん」
優雨「ううん……」
翔大「怪我ない?」
優雨「大丈夫」
優雨(気まずい……!)
朝陽「お姉ちゃん、翔くんのお友達なの?」
ふいに朝陽に尋ねられ、少し戸惑いながら答える。
優雨「え?あぁ、うん……」
翔大「ほら朝陽、行くよ」
翔大は朝陽と呼ばれた子供の手をとり、去ろうとする。
朝陽「え〜、お姉ちゃんも一緒に見ようよ〜」
朝陽は優雨の腕を掴む。
翔大「ほら、迷惑だから」
朝陽「だって、一人ぼっちだよ?」
朝陽が優雨を指さす。
翔大「そんなことないよ。小倉さんも誰かと来てるんでしょ?」
優雨「……あ、いや、その」
翔大の質問に優雨は気まずそうに答える。
翔大「え……?」
優雨の意外な返答に翔大は不思議に思う。
館内アナウンス「いよいよイルカショーがスタートします!!」
翔大「なんで……?」
優雨「友達誘ったんだけど、具合悪くなっちゃって」
朝陽「ねぇ、イルカショー……」
袖を引っ張りながら朝陽が翔大を見る。
優雨「朝陽くん、だっけ?一緒に見よっか!」
優雨は朝陽に向かって言う。
朝陽「やったー!」
朝陽はジャンプしながら喜ぶ。
優雨(かわいい……)
それをみてほほえましく思う優雨。
翔大「小倉さん——」
優雨「気にしないで。天野くんも行こう」
優雨は朝陽の隣を歩きながらショーの会場へ向かう。
翔大「……」
それを戸惑った様子で見つめる翔大。
優雨(大丈夫、これはデートにカウントしない、うん……!)
朝陽と手をつなぎながら思う優雨。
【水族館 イルカショー】
会場のイスに座り、横にいる翔大に優雨は既に知っているはずの質問をする。
優雨「朝陽くんは、弟?」
知ってる。翔大は一人っ子だ。
翔大「ううん、
優雨「あれ、おじいちゃんとかおばあちゃんとかは?」
翔大「遠いんだよね。新潟と福岡なんだ」
優雨「あー……」
翔大「朝陽さ、ずっと楽しみにしてたんだって。約束してたから、我慢させるの可哀想って」
優雨「そっか……」
イルカがジャンプするたびに目を輝かせる朝陽。
【水族館 館内】
その後、優雨たちはペンギンのコーナー、アザラシ、サメを観て回る。
少し外のベンチでジュースを買って休憩する。
優雨「しっかし」
優雨「広いな〜」
優雨は膝に館内マップを広げている。
翔大「結構見たよね」
その隣で館内マップを見ながら翔大が言う。
優雨(まだ観てないエリアもあるけど、流石に疲れたな……)
翔大「ショップ寄っていい?お土産買いたい」
優雨「そうだね」
二人のやりとりを見てニヤニヤする朝陽。
朝陽「なんか、翔くんとおねえちゃん、カップルみたいだね」
思わず翔大は飲んでいたジュースを吹き出し、せき込む。
気まずくなる優雨。
翔大「朝陽、お土産見に行こう」
ジュースを早々と飲み終え、翔大は朝陽を連れてショップへ向かう。
優雨もあとからショップに行く。
【水族館 お土産ショップ】
優雨は入口近くのマスコットキーホルダーに目がいく。
【回想 1周目デート】
優雨『え~、かわいい~』
カワウソのマスコットキーホルダーを見て優雨が言う。
翔大『かわいいね。……あれ、これ顔微妙に違う』
優雨『うわ~、悩むなぁ……』
キーホルダーは2種類で、ひとつは普通の顔、一つはウインク顔。
優雨の横でほほ笑む翔大。
前の記憶を思い出す優雨。
【水族館 お土産ショップ】
朝陽「翔くん、これ、買って〜」
朝陽がイルカとアザラシ、亀のぬいぐるみを抱えている。
翔大「どれか1個ね」
呆れた顔で翔大が言う。
朝陽「やだー!」
優雨「ふふ」
二人のやりとりを見て優雨は笑う。
翔大「笑い事じゃないって……」
朝陽「やだ、やだ、やだー!」
翔大「ダーメ」
ほぼ泣き顔の朝陽。
ふぅ、とため息をついてから、膝をついて目線を合わせた状態で、翔大は朝陽に言う。
翔大「朝陽、本当はパパとママと一緒に行きたかったんだよね」
翔大がそう言うと、朝陽は無言で翔大に抱きついた。
そして泣き出した。翔大はそんな朝陽の背中をさする。
【お土産屋購入後 館内のカフェ】
会計が終わり、ぬいぐるみを抱えて、アイスクリームを食べる朝陽。同テーブルには翔大と優雨。
翔大「帰りは迎えに来てくれるって。連絡来た」
スマホを見た後に伝える翔大。
翔大「朝陽、パパが迎えに来てくれるって」
朝陽「うん……」
泣きはらした顔で小さく頷く、朝陽。
優雨「朝陽くん」
優雨「これ、あげる」
優雨は母からもらったチケットを朝陽に渡す。
目を丸くして優雨を見る朝陽。
翔大「え?」
横の翔大も驚く。
優雨「お母さんからチケット貰ってたの。それでお友達と来るはずだったんだよね。でも結局今日は使わなかったから、あげる」
翔大「朝陽、お礼は?」
朝陽の耳元でコソッと翔大が言う。
朝陽「ありがとう……!」
優雨「どういたしまして」
優雨「今度パパとママと来たときは、朝陽くんが道案内してね」
朝陽「うん!」
【水族館 屋外駐車場】
30分後ほどして朝陽の父親が迎えにくる。
朝陽の父「翔大をありがとうな!」
車の運転席から翔太に礼を言う朝陽の父。
朝陽の父「朝陽~、翔大君にわがまま言ったんだって?」
後部座席にいる朝陽に聞く朝陽の父。
朝陽「言ってないよ!」
朝陽はわがままがバレて、少し怒りながら答える。
朝陽の父「ほんと~?」
そのやりとりを聞いて苦笑いする翔大。
朝陽の父「翔大、乗るか?」
翔大「あ、小倉さんも良かったら……」
翔大は後ろにいる優雨に声をかける。
優雨「えっ?」
優雨のことを知らず、驚く朝陽父。
朝陽の父「あ、ごめん、彼女……?」
翔大「違う、同級生。たまたま会って、一緒に回ることになって……」
優雨「あ、大丈夫です。電車で帰るので……」
優雨がすかさずそう言う。
朝陽の父「あの子、送ってやりな」
朝陽の父は翔大だけにに聞こえる声量で伝える。
朝陽の父「ありがとな~」
車の窓が上がり、発車する。見送る翔大と優雨。
優雨「……良かったの?」
車が去ったあとで翔大に聞く優雨。
翔大「うん」
館内に戻りながら優雨に声をかける。
翔大「送るよ」
優雨「……いいよ」
翔大「帰る方向、どうせおんなじだしさ」
優雨「まぁ、じゃあ……」
優雨(一緒に帰るくらいはいいか……)
翔大「あ、ちょっと待って」
歩き出した優雨を呼び止めて、翔大は優雨にキーホルダーを渡す。
翔大「これ、良かったら……」
それは気になっていたキーホルダーだった。
優雨「これ……」
優雨は過去を思い出す。
【回想 1周目デート】
優雨『先にお菓子でも見てるね』
しかし、戻るとキーホルダーは既にない。
落ち込む優雨。
水族館を出たあたりで翔大は優雨にキーホルダーを渡す。
翔大『これ、あげる』
【水族館 館内】
優雨「なんで……?」
翔大「なんか欲しそうな顔してたから」
優雨(バレてた……?)
優雨は気まずそうな顔をする。
優雨「……ありがとう」
翔大「いえいえ」
翔大「今日、付き合わせちゃったから、お礼に」
優雨「そんな……。私も楽しかったよ」
翔大「それなら良かった」
ほほ笑む翔大。
【帰り道 電車】
電車は海の近くを走る。
優雨モノローグ:前はデートとして、水族館に来た。今は友達、同級生としている。
優雨モノローグ:また前回とは違う一日として、今日が上書きされていく。
翔大「そうだ、チケットもありがとう。……でも、ほんとうに良かったの?」
優雨「うん、いいの。また、水族館での思い出作ってほしいなって」
優雨モノローグ:今度は本当に行きたい人と、朝陽君のパパとママと行ってほしい。思い出を上書きして——。
優雨「上書き……」
翔大「……ん?」
優雨がポツリと言った言葉に翔大は聞き返す。
優雨モノローグ:2回目の春。2回目の出会い。2回目の人生。
翔大『ごめん、別れてほしい』
翔大『好きな人が出来た』
優雨モノローグ:もっと、良い方向に上書きできるかもしれない。
優雨モノローグ:あの未来よりもっと良いものにきっと変えられるかもしれない。
優雨「あの日の返事のことだけど——」
優雨「天野くんと付き合ってみようと思う」
翔大「……えっ」
唐突に告白の返事をされ、驚く翔大。
優雨モノローグ:別れなくてもいい未来に期待してみよう。上書き出来るのなら——。
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