第4話 アラサー男、勇者、魔王さま……(1)

 ……ん? えっ? あれあれ?


 帰宅途中の山道は、夜の闇が濃くて静かだった。


 街中の灯りが遠ざかるにつれ、スバル360のエンジン音だけがコトコトと響く。


 湿った夜風……。


 木々のざわめき……。


 ヘッドライトが照らす細い一本道……。


 その静けさの中で──突然、俺の世界がひっくり返った。


「……ん? えっ? あれあれ?」


 フロントガラスの向こうに、光があった。


 いや──


 光というより、眩しすぎる球体だ。


 そう対向車のライトなんかじゃない。


 もっと強烈で、もっと異様で、もっと……生き物みたいに脈動している。


「何だ、この光は!?」


 俺は思わず叫んだ。


 光の球体は、まるで空間そのものを押し広げるように、沸くように現れた。


 そう、湧き水みたいに──空気の中から、突然、ぽこっと生まれた。


「うゎ、ああああああっ! な、なんだぁあああっ! いきなり──俺の目の前に光の球体が沸いたぁああああああっ! あああ、このままだと、光の球体ぶっかる──!」


 俺は絶叫しながら急ブレーキを踏んだ。


 スバル360が悲鳴を上げる。


《キィイイイイイイ──ッ!》


 タイヤが山道のアスファルトを削り、車体が横滑りしながら光の球体へと迫る。


「やばいやばいやばいっ! 止まれ止まれ止まれぇえええっ!」


 しかし──


 車は止まらなかった。


 いや、正確には、光の球体の方が近づいてきた。


 まるで俺の車を飲み込むつもりで、ゆっくり、確実に、目の前へ迫ってくる。


「……嘘だろ……?」


 光の球体の中心が、割れた。


『ぱきん』と、ガラスが割れるような音がした。


 そこから──


 黒い影が飛び出した。


 人影だ──


 剣を構えた男? 女?


 西洋風の兜をかぶって顔が隠れているから性別がわからない!


 そしてその後ろから、巨大な角を持つ何かが追いかけてきた。


「……は?」


 俺の脳が理解を拒否した。


 勇者のような者が!

 魔王のような化け物が!


 光の球体から飛び出してきて──


 俺のスバル360の前に着地した。


「えっ? あれあれ? ちょっと待て……」


 勇者らしき者が俺を見た。


 魔王らしき化け物も俺を見た。


 そして二人は、同時に叫んだ。


「「……誰だお前ぇえええええええっ!!!」」


 二人揃って女性の声……。


 俺は女性二人に叫び返した。


「いやいやいやいや! こっちが聞きたいわぁああああああっ!!」


 山道の静寂は、一瞬で地獄の戦場に変わった。



 ◇◇◇


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