第2話「残る心」

【1 翌朝・学校】


朝。教室。


美月が机に座る小夜子を覗き込む。


美月

「寝不足?」


小夜子

「……ちょっと」


美月

「目の下すごいよ」


小夜子

「そんなに?」


美月

「うん。幽霊見た人みたい」


小夜子、固まる。


美月

「何その顔」


小夜子

「何でもない」


そこへ蓮。


「小夜子」


小夜子

「鏡のこと?」


蓮の表情が止まる。


美月

「鏡?」


「……後で話す」


小夜子

「今話して」


「ここじゃ無理」


小夜子

「どうして?」


「分かるだろ」


小夜子

「分からないから聞いてる」


チャイム。


教師が入ってくる。


会話は途切れる。


小夜子は蓮を見る。


蓮は目を逸らす。



【2 昼休み・校舎裏】


人気のない場所。


小夜子と蓮。


小夜子

「説明して」


「何から」


小夜子

「全部」


「無理」


小夜子

「じゃあ一個ずつ。どうして鏡のこと知ってたの」


「俺の家にも記録がある」


小夜子

「何の?」


「残心鏡」


小夜子

「じゃあ七鏡のことも知ってる?」


蓮、表情が変わる。


小夜子

「知ってるんだ」


「誰に聞いた」


小夜子

「おばあちゃん。神格鑑定士って言われた」


「そう」


小夜子

「蓮は?」


「俺は違う」


小夜子

「でも関係あるんでしょ」


「ある」


小夜子

「何?」


「今は言えない」


小夜子

「またそれ?」


「今言えば、余計危なくなる。小夜子が」


小夜子

「勝手に決めないで。知らないままの方が危ないよ」


「お前、昔からそれだな」


小夜子

「何が」


「気になったら止まらない」


小夜子

「悪い?」


「悪くない。だから怖いんだよ」



【3 放課後・古民家カフェ】


古民家を改装した小さなカフェ。


明るい木の内装。


美月、小夜子、蓮。


店主が飲み物を置く。


外から子どもたちの声。


その中の一人が泣いている。


母親

「大丈夫だから」


子ども

「でも、また聞こえた」


美月

「何?」


店主

「ああ、祠の話かな」


小夜子

「祠?」


店主

「山の古い祠。最近、夜になると女の人の声が聞こえるって」


蓮、顔を上げる。


小夜子

「どんな声?」


店主

「『ごめんね』って」


小夜子、固まる。


小夜子

「……同じ」


「行くなよ」


小夜子

「まだ何も言ってない」


「顔に書いてある」


小夜子

「でも」


「でもじゃない」


美月

「何の話?」


小夜子

「ごめん」


小夜子、立ち上がる。


「小夜子!」


小夜子

「確かめるだけ。同じものなのか」



【4 夕暮れ・祠】


山道。


古い祠。


しめ縄。


小さな子どもの靴。


小夜子が近づく。


蓮も追ってくる。


「一人で来るな」


小夜子

「来ないって言ったのに」


「言ってない」


小夜子

「顔に書いてた」


「……真似するな」


祠の奥。


女のすすり泣き。


女の声

「まだ……」


小夜子、残心鏡を取り出す。


「やめろ」


小夜子

「見るだけ」


「それが一番危ない」


小夜子

「でも、泣いてる。怖がってるだけかもしれない」


「小夜子」


小夜子

「悪いものって決めつける方が怖い」


小夜子、鏡を向ける。


鏡面が光る。



【5 鏡の中】


雨。


古い時代。


女が祠の前に立っている。


腕には幼い子どもの着物。


「ごめんね……」


村人たち。


「川で流されたらしい」


「もう無理だ」


女は首を振る。


「まだ、謝ってない」


夜。


朝。


雨。


雪。


女は祠の前。


「ごめんね」


小夜子

「……子どもを」


「最後に怒ったままなの」


小夜子

「それが、ずっと残ってるの?」


「うん。あの子に、ちゃんと謝れなかった」


場面。


幼い子ども。


「川の向こうに行きたい」


「危ないから駄目!」


子ども、走っていく。


「最後に怒った。それが最後だった」


小夜子

「……」


「だから、ここを離れられない」


小夜子

「もう帰ってこないって分かってるんだよね」


女、泣く。


「分かってる。でも、あの子に謝れてないから」



【6 現実・祠】


小夜子、目を開ける。


女の影が祠の前。


「小夜子!」


小夜子

「大丈夫」


小夜子

「あなたは、誰かを連れていきたいんじゃない。最後に怒ったまま、謝れなかったことを後悔してる」


女の影が震える。


小夜子

「もう謝り続けなくていい。あなたの子は、あなたに怒られたから消えたんじゃない。最後の言葉だけが、二人の全部じゃない」


影から光。


「……そう」


祠の空気が変わる。


女の影が薄くなる。


「ありがとう」


消える。


「……鎮めた」


小夜子

「違う。話を聞いただけ」



【7 帰り道】


夕方。


小夜子と蓮。


小夜子

「神格鑑定士って、神様か悪いものか決める人じゃないんだね」


「本来は」


小夜子

「本来?」


「……何でもない」


小夜子

「またそれ」


「今日はやめとけ」


小夜子

「分かった」


「珍しい」


小夜子

「疲れた」


「先週、ここで食べたケーキ美味かったな」


小夜子

「……ケーキ?」


蓮、止まる。


小夜子

「先週?」


「美月と三人で」


小夜子

「先週、三人で来たっけ?」


蓮の表情。


小夜子

「……蓮?」


「何でもない。帰ろう」



【8 夜・小夜子の部屋】


机。


残心鏡。


小夜子が裏面を見る。


見たことのない文字。


少しずつ浮かび上がる。


《残る心を映す者》


《己を失う》


小夜子

「……己を?」


鏡の中。


一瞬、小夜子自身の顔がぼやける。


暗転。


第2話「残る心」終

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