第2話 返事

翌日の午前。


レンは昨夜のことをほとんど忘れていた。

大学へ行き、講義を受け、昼休みにコンビニのおにぎりを食べた。


いつも通りだった。


スマートフォンが震えた。


ミオからだった。


『昨日、大丈夫だった?』

『何が?』

『ノイズ』

『ああ。ヘッドセットのやつ?』

『うん』

『もう大丈夫』

『本当に?』

『本当に』

『ならいいけど』


その日の帰り道、レンは新しいヘッドセットを買った。


音声テストも、ゲームも、ボイスチャットも問題ない。


「今日はノイズ大丈夫?」

「大丈夫」


ミオが笑った。


二時間、何も起きなかった。


午前二時を過ぎた頃。


「じゃ、今日は落ちるわ」

「おつかれ」

「また明日」


レンが退出ボタンを押す。

画面からメンバーの名前が一つずつ消えていく。


最後に「ミオ」が消えた。


静かになった。


レンはヘッドセットを外した。


「ジッ……」


聞こえた。


ヘッドセットは机の上に置いてある。

なのに、音は耳のすぐ横にあった。


気のせいだと思ってベッドに入った。


三分ほど経った。


「ジジ……」


今度ははっきり聞こえた。


レンは飛び起きた。


部屋を見回す。

誰もいない。


スマートフォンを見る。午前三時十七分。


そのとき、机の上のパソコンが勝手に点いた。


通知はない。

なぜかメモ帳が開いていた。


白い画面の中央で、カーソルだけが点滅している。


チカ。

チカ。

チカ。


そして。


「れ」

「ん」

「さ」

「ん」


『れんさん』


レンはキーボードに触れていない。


急いで画面を閉じ、電源を切り、コンセントを抜いた。


完全に暗くなった。


しばらくして。


カタ。


カタ。

カタ。

カタ。


電源は抜いてある。


もう一度パソコンの前に移動した。


キーボードを見る。


静かだった。


画面には、もちろん何も映っていない。

そのはずだった。


やがて真っ暗な画面の奥に、白い一行が浮かび上がった。


『返事してください』


気がつくと、カーテンの隙間から朝の光が入っていた。

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