高校三年生の夏、堤奏多はAIに「この現実から逃げたい」と入力する。進路調査用のAIにとっては想定外のはずの質問…しかし、AIは奏多に「現実逃避行プラン」を提案してきた。その回答に驚きつつも、奏多は、AIに提案されたとおりの逃避行に出発する。
機械に支配された世界で、ある人間がその支配から逃げようとする。しかし、その逃避のパターンも行き先も機械に読まれていて、追い詰められる。圧倒的に不利ななか、どうやって人間は機械の支配から逃げ切ることができるのか…?
…というのは、20世紀のSFから繰り返されてきた構図なのだけど、21世紀も「四半世紀」が経った現在、機械(AI)が私たちのごく身近に存在し、「提案」として私たちを支配してくるというのは、もはや驚きでも何でもない現実になっている。そこには、前世紀SFが描いた「機械に支配される世界」の圧倒的な緊張感はない。
その「逃避」すら日常の延長上にあるような世界で、少年たちはどうやって「自分の将来」を自分のものとして手に入れるのか?
この物語を読んで、何年か前、「将来の職業を決めるのは早ければ早いほうがいい。だから私はこれから小学校にキャリア教育に行くんだ」と意気揚々と話しておられるオジサンに出会って、暗然とした気もちになったことを思い出しました。
私はと言えば、大学に進学するときですら「人に聞かれたらこう答える」という以上の将来設計なんか持っていませんでした。また、実際に、大学に入学したときとはまったく違う進路を選んで、いまここにいます。私の友人たちも、まあ、似たようなものでした。
「早すぎるんだよ、僕たちに進路希望調査なんて」と実際に言い切れる高校三年生がどれくらいいるかわからないけど、「未定」という将来だってじゅうぶんに将来の選択なんだ、重要な選択肢なんだ、ということをあらためて強く感じた物語でした。
ところで、物語の重要アイテム(?)として登場する「かしわご飯」…私は関西出身なのでなんとなくわかるのですが、それは何なのかをAIに訊いてみました。すると、AIは、それが何かを解説してくれるとともに、「この店のかしわ飯が有名で、全国に知られています」と提案してくれました!
さすがAI…すごいっ!