第12話 もう一人の男


同じ頃――


マークとは別の場所で、ビビットもまた目を覚ましていた。


「……ここは」


見上げると、鬱蒼とした森が広がっていた。頭上を覆う木々の隙間から、わずかな光が差し込んでいる。


「マーク……マーク、どこだ!」


叫んでも、返事はない。


「くそ、離れ離れになったのか……」


ビビットは体を起こし、あたりを見回した。合流するにはどちらへ向かえばいいのか、見当もつかない。


「とりあえず……歩くしかねえか」


森の中を、当てもなく進み始めた。


***


しばらく歩くと、前方の茂みが不自然に揺れた。


「――ん?」


足を止める。


ガサガサッ――


音が近づいてくる。ビビットは身構えた。


茂みから現れたのは――大きな鉄球を引きずった、黒いマスクの男だった。


「……誰だ、お前」


ビビットが声をかけた瞬間、男が動いた。


「ビビッ!?」


鉄球が、唸りを上げてビビットに迫る。


咄嗟に横に跳んで避けた。地面が鉄球の衝撃でえぐれる。


「危ねえだろ! いきなり何しやがる!」


答えは、返ってこなかった。男は無言のまま、再び鉄球を振り回してくる。


「くっ……! 話が通じねえのか!」


ビビットは電撃を纏い、迎え撃つ姿勢を取った。


***


鉄球と電撃が、幾度もぶつかり合った。


黒マスクの男の動きは荒々しいが、力任せではない。的確にビビットの隙を突いてくる。


「速いな、こいつ……!」


ビビットは防戦を強いられながらも、少しずつ相手の動きを見極めていった。


――重心が、鉄球の振りに引っ張られる。


――そこに隙がある。


「そこだ!!」


鉄球を振り切った直後の一瞬を突き、ビビットは強烈な電撃を叩き込んだ。


バチィィィンッ!!


黒いマスクが、砕け散った。


「……!」


現れたのは、目つきの鋭い一人の男だった。歳の頃は分からないが、荒々しい生気を纏っている。


***


「……お前、何者だよ」


ビビットが問うと、男はニヤリと口の端を歪めた。


「俺か? 俺は――」


一拍置いて、男は言った。


「ファントマだ」


「な……!」


ビビットの体が、思わず強張った。


「お前がファントマ……この世界を、幻術で支配してる……」


「そうだ。文句あるか」


男――と名乗ったその男は、挑発するように鉄球を肩に担いだ。


ビビットは拳……ならぬ、体中に電気を漲らせた。


「上等だ。俺は、マークを元の世界に帰すために……お前を倒す!」


「ほう。威勢がいいな」


男の目が、僅かに笑った。


***


しかし、決着はあっけなくついた。


ビビットが電撃で黒マスクを打ち破ったことで油断していたのか、あるいは最初からこれが狙いだったのか。


男が、死角に隠していた鉄球の中から――


無数の針を放った。


「な――」


「悪いな。ここまでだ」


避けきれなかった針が、ビビットの体に突き刺さる。


「ぐああっ……!」


痺れるような痛みとともに、視界が急速に暗くなっていく。


崩れ落ちる意識の中、ビビットは思った。


――こいつ、本当にファントマなのか?


――なんか、様子が……


その疑問を最後まで考える前に、意識は闇に沈んだ。


***


「……重いな、これ」


男は、倒れたビビットを軽々と担ぎ上げた。


「悪く思うなよ。俺だって、好きでこんなことしてるわけじゃねえ」


独り言のように呟くその声には、名乗った名前とは似つかわしくない――どこか苦々しい響きがあった。


男は、ビビットを担いだまま、森の奥へと歩き始めた。


その先には――洞窟の入り口が、ぽっかりと口を開けていた。

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