26.みんなで『いただきます』


「じゃあ、押すぞ?」


 ロイの言葉に、周りの子どもたちが頷く。

 それを確認したロイは、カチッとボタンを押した。


 ガーーーーッ!


 大きな音を立て、ミキサーの刃が回転する。


「おお~~!」

「すごい、あっという間にナポルが消えちゃったよ!」


 周りの子どもたちからは驚きの声が上がった。

 そして——。


「そろそろ良さそうね」


 リコの声に、ロイがボタンから手を離す。

 ミキサーが止まった。

 

 ミキサーの容器をメイが受け取り、中に入ったピンク色の液体をコップに注いだ。


「おお~!」

「本当にジュースになってる!」

 

 また歓声が湧いた。 


「院長、どうぞ」

「え、私?」


 メイから一番に差し出され、戸惑う私。

 すると周りのみんなも同意するように、頷いた。


「いんちょー、はやく飲んで」

「感想聞かせて!」


 みんながにこにこと私を見つめる。

 そこに、かつてのように私を怯えた目で見る子はいなかった。


「うん、わかった」


 私はナポルジュースを口に入れた。


「……っ!」


 思わず目を見開く。

 ごくごくと飲んで、コップを置いた。


「どうだった?」

「おいしい?」


 黙っている私に、子どもたちが聞いた。


「すっっっごく、美味しい!」


 私の感想に、また歓声が上がる。


「ぼくも早く飲みたい!」

「ぷきゅ~!」——『るーものむー』


 騒ぐ子どもたちとルーに、リコがよく通る声で言う。


「みんなの分、ちゃんとあるからね!」



 ——そして。

 みんなの目の前には、おやつとナポルジュースが置かれた。

 おやつはもちろん、ジルティアーナ様からいただいたクッキーとチョコレートだ。

 みんな目をきらきらさせて、美しいお菓子を見ている。

 横にいたメイとロイが、「今日はみんなで食べれるね」と小声で話しているのが聞こえた。


 パンパンッ!


 リコが手を二回叩いた。

 おしゃべりに花を咲かせていた子どもたちが、静かになる。

 

「みんな、お菓子とジュースありますか?」


 リコの問いかけに、みんなが嬉しそうに返事をする。


「はーい!」

「あります!」

「ぷぷぅ!」——『あるー』


 私はリコに促され、立ち上がる。


「では、みんなで——いただきます」


 ……あれ?


 しんとする食堂。

 みんながぽかんと私を見ていた。


「あの……院長」


 メイがそっと手をあげた。


「なに?」

「あの……『いただきます』ってなんですか?」

「……」


 日本人の感覚で、「いただきます」って言っちゃったけど、こちらでは食事の挨拶なんてないんだった!


「えっと……いただきますっていうのは……」


 なんだっけ?

 たしか、感謝するって意味だった気がするけど——。

 そう考えていると、リコが言った。


「もしかして、クッキーと一緒に教えてもらったのですか?」

「ん?」


 意味が分からず、聞き返す。


「『いただきます』って、何年か前からクリスディアの街で流行ってるそうですよ」


 ——え??

 

 驚いて、何も返せずにいた。

 するとマチも、リコに同意するように頷いた。


「私も聞いたことがあります。何でも、動植物の命への感謝と、料理を作ってくれた人などへの感謝の意味もあるとか。素敵ですよね」


 ——それって……私が知っている『いただきます』と同じだ。


 それを聞いた子どもたちが、「へー、そうなんだ」「私たちも言ってみよ!」などと言い出した。


 そして、みんなで——。


「いただきます!」


 みんなの元気な声が揃った。

 

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