割れるような頭痛、ラッシュ時の不快な歪み、そして「ホームと電車の隙間」への落下——。
圧倒的な筆致で描かれる冒頭から、目を覚ましたのは、コンクリートと巨大な棚が立ち並ぶ「拾得物保管室」でした。
そこに保管されているのは、壊れた眼鏡や財布といった「物」だけではありません。
誰かが落とした「思い出」や「誓い」、そして「記憶を失った人間」。
本作の最大の魅力は、「落とし物」という身近なモチーフから広がる、濃密で美しい独自の世界観だと思います。
打ち捨てられた想いが異形へと変貌した「間物(まもの)」との緊迫感あふれる戦闘。
さらには、現実と並行世界が混ざり合うシステム。
そこに漂うのは、どこか懐かしくも恐ろしい独特のノスタルジーです。
そして主人公に名付けられた「マシロ」という新しい名前——。
記憶を失った彼が、「室長」や「柳川さん」とともに働く中で、どんな真実に辿り着くのか。
静かな疾走感と切なさが同居する、極上のダークファンタジーミステリーです。
記憶を失い、「拾得物」として保管された主人公・マシロ。
彼を拾ったのは、拾得物保管室の室長だった。
奇妙な「間」を巡りながら、自分の持ち物や記憶、そして人との縁を少しずつ拾い直していくマシロ。
一方で、何でも知っていそうな室長にもまた、帰れない理由がある。
誰かを探すこと。
誰かに探してもらうこと。
縁を繋ぐこと。
そして、ときには縁を切ること。
「落としもの」という日常的なモチーフを使いながら、喪失や執着、居場所を描いていく世界観が秀逸。
怪異ものとして先が気になるのはもちろん、話が進むほど、マシロと室長――二人の「帰る場所」がどうなるのかが気になってきます。
『落としものは帰れない』というタイトルを、読み進めるほど何度も振り返りたくなる物語です。
あと、コーギー好きの人にも刺さると思います。
コーギーのリク先輩の描写に、ぜひ癒されてください。