第12話 入れ違い
一方、アランは夕飯も特に食べずに教会まで車で一人で帰ってきた。クリスとは町に着いた所で別れてきた。そこから元来た通りに真っ直ぐ帰ってきたのだ。
「ああ、帰ってきたんだ」
アランが教会の玄関を通ると、意外そうにジャンに声を掛けられた。
「大雨の時に村長のとこに避難してるって聞いたんだよ。そのまま泊まるのかと思ってた」
アランは目を瞬かせた。
「帰ってきたよ。初めてお邪魔したところだし。僕なんかがいきなり泊まっていったら図々しいだろ?」
「そうかな?」
ジャンは軽く首を傾げた。
「フィンに会わなかった?ちょうど帰ったとこだったんだ」
「フィンが来てたの?」
アランはその名前を聞いて少し身構えた。だが彼は見かけなかった。
「その様子だと、入れ違っちゃったんだね」
ジャンは残念、という様な顔をするとそのまま食器を厨房の方へ運んでいった。既に夜ご飯を済ませたところなのだろう。
「…………」
アランは無言で去っていく彼の背中を見つめた。
ジャンはまだ自分達が仲違いしている事を恐らく知らない。仲違いと言うか、少し気まずいくらいかもしれないが。
──会いたかったような、そうじゃないような。
だがこのままでは辛い。彼に良く思われていない事は悲しい。
そうして呆然としていると、アランの前を明るいブラウンの髪の子どもが通りがかった。いつも通り、忙しなくほっつき歩いている者の一人。それを見て、アランはある事を思い出した。
「そうだ……日記!」
朝から忙しくて忘れていた。今日はまだマリアに日記を渡していなかったではないか。こうしている内にも彼女は寮の方へ帰ってしまっているかもしれない。
アランは急いで広間の方へ行き、マリアの姿を探した……が、食後動き回っている彼らの存在もあり、簡単には見つからなかった。そうしている内に食器を片付けているエリーの姿を先に見つけた。
「エリー」
「あら、お帰りなさい!今日はもう帰って来ないかと」
「ジャンにもそう言われたよ」
アランは笑ってそう返した。エリーは鼻筋がすっと通った色白の美人だった。アランは少し緊張しながら聞いた。
「マリアを見なかった?」
「マリア?マリアなら……」
聞かれてエリーは広間を軽く見回した。だが同様に見当たらなかったのか、すぐにこう答えた。
「もしかしたら……もう寮の方で寝てしまったかも。今日はかなり疲れていたみたいだから」
「そうですか……」
アランは少し珍しいと思った。マリアのくたびれている姿をあまり想像出来ない。よほど今日は疲れたらしい。
「何か伝言でも?」
エリーはアランが困ると思ったのか、親切にそう聞いてきた。
「ああ、その……大した事じゃないんですけど、これ」
アランは荷物から黄色い可愛らしいノートを差し出した。やはり自分には似合ってなくて、少し恥ずかしくなった。
「マリアと交換日記をしてるんです。今子ども達の間で流行ってるらしくて」
「まぁ、大人の貴方とやるなんておませさんね」
エリーは少し吹き出したように笑った。単純に微笑ましく感じたのだろう。
「良かったら私が渡しておいてあげましょうか?夜の見回りで彼女の部屋の前まで行きますから」
「本当ですか?」
アランがそう言うと、エリーは了承し、そのまま日記を受け取った。これで子どもとの約束を忘れないで済む。アランは安心した。
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