心臓を抉られて死んだはずなのに、目覚めた慎には自分の名前すら残っていない。最初から不穏です。しかも目の前の幼い少女に血を吸われても、怖がりながら仕組みを考え始めるのが妙に慎らしいです。魔術が常識だと聞かされても、前提を組み替えて受け入れてしまう冷静さには、頼もしさより先に少しぞっとしました。そんな慎に「悪友だった」と笑って近づく啓吾がいてくれたのは救いです。記憶がなくても、友達は残ってるんですね。
記憶を失った少年が魔術の存在すら知らないところから始まりますが、怖いのは記憶だけでなく常識まで書き換えられていること。さらに、周囲の人物も秘密を抱えており、誰の言葉を信じればいいのかわからず、少しずつ世界の輪郭が崩れていく。主人公が取り戻すのは記憶だけなのか、それとも本当の自分そのものなのか。戻った瞬間、何が反転するのか楽しみな作品です。【レビューコンテスト応募】