第7話
CM撮影も無事に終わり、綾瀬さん達のお見送り(帰り際に綾瀬さんは何故かとても不満そうな顔をしていた)をした後、皆通常業務に戻った。 当然俺も。
俺は少し残業をしてから退社をし、アパートへと帰宅。 6畳の和室1部屋とキッチン トイレと風呂場 そして玄関 この間取りが俺の部屋の間取りだ。
一人暮らしには十分な広さじゃない? いや、狭いって? 放っとけや。 都会は家賃が高いんだよ!
部屋着に着替えて、ビール片手にスマホをポチポチ。 調べものをする。
何を調べてるのかって? それは⋯⋯
検索∶綾瀬葵 プロフィール
名前∶綾瀬葵
年齢∶21歳
生年月日∶2004年 7月7日
血液型∶A型
身長∶158cm
体重∶秘密
⋯⋯綾瀬さん21歳やったんやな。 大人っぽかったから俺と同い年位かと思ってたわ。 確かに身長は低いわな。俺が170cmで、俺の胸辺りに頭来てたから。 体重は⋯⋯女子の秘密やろうな。分かる。
てか、なんで俺がこんな夜中に超有名女優のプロフィールを検索しとるのかというと——理由は二つある。
一つ目は、まあ……これだけ強烈に関わってしまった以上、最低限の予備知識くらいは持っておかんとマズい気がしたから。
そして二つ目は、退社間際に相馬から「お前、綾瀬さんの代表作も知らねぇで撮影立ち会ってたのか!? ファンに殺されるぞ!?」と本気で怒られたからだ。 知らんもんは知らんのよ。
「ふ〜ん……映画にドラマにCM多数ねぇ。マジで雲の上の人やん……」
画面をスクロールしながらビールをぐびりと煽る。
知れば知るほど、あんな大スターが昼間に会議室で俺に抱きついて「王子様〜♡」なんて言っていた現実が恐ろしくなってくる。 やっぱり夢か何かだったんじゃないか?
「……まあええわ。お腹減ったしご飯にしよ」
スマホを畳の上に放り投げ、俺はキッチンへと向かう。
外食やコンビニ弁当ばかりだと財布にも健康にも優しくない。 だから俺は基本的に自炊派だ。
今夜のメニューは、冷蔵庫の残り物で作る簡単な豚キムチ炒めと、豆腐とお麩の味噌汁。
フライパンから香ばしい醤油とキムチの香りが立ち上り、一気に食欲が刺激される。手早く皿に盛り付け、お盆に乗せて和室のローテーブルへと運んだ。
「よし、出来上がり。いただきます——」
箸を取り、さあ食べようと手を合わせた、手に力を込めたまさにその時だった。
” ピコン♪ ”
静かな部屋に、滅多に鳴ることのない俺のスマホから軽快な通知音が響いた。
(……ん? 相馬からか?)
首をかしげながらスマホを手に取り、画面をロック解除せずに覗き込む。
そこに表示されていた送り主の名前を見た瞬間、俺の動きがピタッと止まった。
【葵:圭さん! お仕事お疲れ様です♡ 今何されていますか?(うさぎがハートを抱きしめるスタンプ)】
「…………」
俺は静かにスマホを裏返し、テーブルの上に伏せて置いた。
(見なかった。俺は何も見なかった。……よし、ご飯食べよ)
完全に未読スルーを決め込み、箸を伸ばそうとした——次の瞬間。
” ブーッ! ブーッ! ブーッ! ”
「うおっ!?」
テーブルの上で、スマホが狂ったような激しい振動と共に画面を光らせた。
【葵】からのLINE通話着信。
(追撃が早すぎるやろ!! LINE送ってから10秒も経っとらんぞ!?)
未読スルーすら許さない怒涛のプレッシャーに、俺は冷や汗を流しながら、恐怖で震える指で通話ボタンをスワイプするのだった。
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