第十六章――白紙に書いたもの

八枚の白紙のうち、二枚には何も書かれていなかった。


獣人族のバルガと、灰角族のセヴァルへ渡された紙だった。


盟約会議が再開したのは、前回の休会から三日後だった。


八つの席は、今度は定刻前に埋まっている。


バルガは二百八十一号杭から届いた報告を、革帯へ挟んでいた。


文字ではない。


撃たれた少年の母が切り取った、血の染みた包帯だった。


セヴァルの右角には、前より厚い金属の添え木が当てられている。


羽化議長の止まり木には、小さな郵袋が四つ掛けられていた。


大潮守の席では塩水が循環し、その脇に貨物船第十八号の航海記録が防水筒に入れて置かれている。


国家統監ハイン・ロートの前には、東部線から届いた軍の報告書と、アルヴェルンの工場へ到着した濾過槽の受領書が重ねられていた。


同じ国から来た二枚の紙だった。


一枚には銃声が記録され、もう一枚には海を汚さないための機械が記録されている。


新王は、二枚の白紙を見た。


「書けなかったのですか」


最初に尋ねた相手は、バルガだった。


「書くものが違った」


バルガは紙を卓上へ置いた。


「お前は、自分が差し出せるものを書けと言った」


「はい」


「俺たちが持っていると認められているものは、身体と刃だけだ。土地を書けば、差し出せるほど所有していると認めたことになる。刃を書けば、持たないことを条件に話を聞くと言われる。身体を書けば、いつもと同じだ」


セヴァルが続けた。


「灰角族は、何百年も身体を差し出した」


彼は袖を捲らなかった。


番号を見せなくても、意味は全員に伝わった。


「炉へ。結界へ。坑道へ。権利を認めさせるために、さらに何を差し出せと書けばいい」


新王は答えなかった。


前回、自分ではよい問いを出したつもりだった。


他者へ代価を求めず、自分が払うものを書かせる。


だが、払うものを持つ者と、すでに取り上げられている者を同じ紙の前へ座らせていた。


「私の問いが間違っていました」


新王は言った。


樹冠評議会の長老たちが並ぶ傍聴席で、衣擦れの音がした。


王が公の会議で、自分の誤りを認めた音だった。


「権利を認められるために、代価を払う必要はありません。差し出すものを書くべきなのは、他者へ約束を求め、その約束が破られたときに使える力を持つ者です」


ハインが目を細める。


「つまり、国家だけだと」


「少なくとも、軍、法、国境、工場を動かせる者です」


「国家でなくても、刃を振るう者はいる」


バルガの耳が動いた。


新王は、二百八十一号杭の報告書へ目を落とした。


「います。違うのは、その者を誰が止め、裁けるかです。国家には、全軍へ命令し、従わない兵士を拘束する仕組みがあります。ですがバルガには、すべての氏族へ同じ命令を強制する仕組みがありません」


「少年への発砲は、軍の命令ではない。兵士一人の判断だ」


ハインが言った。


「列車へ石を投げた者も、俺の命令でやったのではない」


バルガが返す。


「だが、お前には撃った兵士を拘束し、裁く軍法がある。俺には、すべての氏族の刃を止め、従わない者を裁く権限がない。できないことを、俺だけの約束にするな」


ハインの金属指が報告書の角を押さえた。


「撃った兵士は拘束した。軍法審理を行う」


「何の罪で」


「命令違反の可能性がある」


「子供を撃った罪ではなく?」


「攻撃を受けたと判断したことが合理的なら、発砲そのものは軍法に反しない」


バルガの牙が見えた。


「お前たちの法ではな」


「だから審理する。最初から無罪とも有罪とも決めない」


「審理が終わっても、子供の脚は元には戻らない」


「戻せるとは言っていない」


二人の声は低かった。


前回より、互いの言葉を聞いていた。


そのため、違いが前よりはっきりした。


第一調整官が発言を求めた。


「被弾者の状態を報告します。弾丸は大腿部を貫通。主要血管と骨への損傷なし。現地治療後、氏族側の療養地へ移送。歩行機能の回復見込みは八十七パーセントです」


バルガが第一調整官を見る。


「誰が調べた」


「昨日到着した第九検証官です。被弾者本人と母親の同意を取得しています」


「兵士の審理にも立つのか」


ハインが尋ねる。


「要請されれば、観察記録を提出します。判決は行いません」


「要請する」


ハインは即答した。


バルガは何も言わなかった。


納得したわけではない。


それでも、話を続ける余地は残った。


新王は、自分の前に置いた紙を開いた。


「では、私から始めます」


紙には、二行しかなかった。


――盟約王冠を、セレネア単独では使用しない。


――王冠に残る強制接続の方法と危険を、六国家および二当事者へ開示する。


法印卿が、傍聴席で立ち上がった。


「陛下」


制止する声だった。


新王は続けた。


「盟約王冠には、各国の主権印へ残る古い接続痕を、一時的に開く方法があります」


会議室の空気が変わった。


ハインが椅子から立つ。


カルドラン王の手が、空の酒筒ではなく背中の斧へ近づいた。


大潮守の頬に、強い紫が走る。


羽化議長と護衛が一斉に空中へ上がった。


第一調整官の胸部回路が、これまでで最も速く明滅した。


「効果を」


第一調整官が尋ねる。


「長くて数分。一つの命令を通せる可能性があります」


「拒否した主権印への損傷確率は」


「不明です。国内法と境界術式へ影響する可能性がある」


ハインの椅子が後ろへ倒れた。


「その道具を持ったまま、我々へ兵を下げろと言ったのか」


「はい」


「先に言うべきだった」


「そのとおりです」


新王は視線を逸らさなかった。


「十三日前に知りました。王、評議会、法印局の三つの印がなければ保管室を開けられないよう封じています」


カルドラン王が斧から手を離さないまま尋ねる。


「三つともセレネアの印ではないか」


「だから、八者の錠を加えます」


新王は卓上へ、小さな鉄製の錠を一つ置いた。


魔法具ではない。


カルドランの工房へ急ぎ作らせた、ただの錠だった。


「各者が一つずつ鍵を保管する。八つの錠のうち一つでも開かなければ、保管室へ入れない構造に改めます。鍵の複製と交換は、オルディアが記録する」


「獣人諸氏族の鍵は、現在の連絡役であるバルガが暫定的に保管します。正式な代表者が定まった場合は、オルディア立会いのもとで引き継ぎます」


「二人には主権印がない」


法印卿が言った。


「鍵を持つのに主権印は要りません」


「盟約王冠は、六国家が次代の王を選ぶための――」


「その王が、国を持たぬ者にも命令するからです」


セヴァルが初めて紙から顔を上げた。


「なぜ壊さない」


彼が尋ねる。


「私一人に、壊す権利がないからです」


「使わない権利はあるのか」


「ありません。だから鍵を渡します」


ハインは倒れた椅子を起こさなかった。


立ったまま、新王を見る。


「なぜ今、話した」


「あなた方が兵を下げたあとで知られれば、二度と何を言っても信じられない」


「今なら信じると?」


「信じるかどうかを、私が決めることではありません」


新王は紙へ、自分の主権印を押した。


紫の光が二行を走る。


王冠を使わないという約束を、王冠ではなくセレネアの印で結んだ。


「保管室の改修を、八者の立会いで行います」


第一調整官が答える。


「受諾可能です。ただし、王冠の機能検証は行いません。検証のための起動が、使用に該当する可能性があります」


「それでよい」


カルドラン王が、ようやく斧から手を離した。


「わしの鍵は、最も重く作れ」


「重さで安全性は変わりません」


「持っていると分かる」


第一調整官は一秒置いた。


「要望として記録します」


空気が少しだけ戻った。


笑う者はいなかった。


次に紙を開いたのはハインだった。


「アルヴェルンが差し出すものは三つだ」


彼は読み上げた。


「東部線第二測区の複線化工事を十日間停止する。獣人諸氏族が作業列車の後退に必要な区間を空けた時点で、作業列車をひとつ前の交換駅まで後退させる」


バルガが口を開く。


「先に下げろ」


「線路上に人がいれば、列車は下がれない」


「前へ延ばすときは、俺たちがいても構わず線路を敷いただろう」


「その工事を命じた者と、今ここで列車を動かす者は同じではない」


ハインは、次の行へ移った。


「軍需施設二か所へ、オルディアの検証官を受け入れる。灰角族の就労登録、食糧票、居住票の記録を開示する」


セヴァルの黒い角に、油灯が映った。


「二か所を誰が選ぶ」


「一つは政府。一つは、あなたが示した施設からオルディアが選ぶ」


「事前に片づける時間を与えるのか」


「検証官の到着時刻は通知しない」


「拒んだ工場は」


「操業許可を停止する」


「三つ目は」


大潮守が尋ねる。


「河川工場二か所の排水口を開示する。届いた濾過槽の設置記録を共有する」


「二か所だけですか」


「最初は二か所だ。すべてを同時に調べる検証官も、工場を止めずに改修する技師も足りない」


「海は二か所の排水だけを受け取るわけではありません」


「分かっている。だが、昨日一隻を通したことまで無かったことにはしない」


ハインは、防水筒へ目を向けた。


「濾過槽は今朝、第一河川工場へ届いた。第五検証官も入った。そちらが先に一隻通した。だから、こちらも先に一工場を開けた」


ハインは、三つの条件を記した文書へアルヴェルンの主権印を押した。


出口のない輪に、小さな切れ目ができていた。


誰か一人が、すべてを差し出したわけではない。


一隻と、一工場。


相手が約束を破っても、国全体を失わない大きさだった。


それでも、何も始めないための条件ではなく、次を始めるための実績になった。


大潮守が紙を開く。


「ネレイアは、食糧、医薬品、汚染低減設備を積む船を、一日一隻、新航路へ通します。固定標が置かれるまでは巡潮隊が誘導する。検査記録は、出港国と到着国の双方へ渡します」


「軍艦は」


ハインが尋ねる。


「通しません」


「武装した商船は」


「小銃と、海賊対策の小口径砲までは封印して通す。封印を破れば、その船の通行許可を失わせます」


「国全体ではなく、船だけを」


「一人の船長が破った約束で、国中の薬を止めないためです」


二百八十一号杭で、一人の兵士が引いた引き金を、一国全体の命令にしない。


同じ考え方だった。


カルドラン王の紙には、文字ではなく細い金属板が貼られていた。


「紙は坑道で燃える」


誰も尋ねていない説明をしてから、王は読み上げた。


「北鉱脈の新規採掘を十日間止める。すでに掘り出した鉱石は坑外へ出さぬ。排水、支柱交換、換気は続ける。止めれば坑道そのものが潰れるからだ」


新王が頷く。


「セレネアも、新規採掘を停止します」


「兵は」


「第一昇降口より内側へ、武装した兵を入れない。外周の駐屯は維持する」


「山を返すとは書かんのだな」


「十日で帰属を決めるとは書けません」


「なら、その十日のうちに調べる。坑道、契約板、墓、休眠核。地表の地図だけで山を切るな」


「オルディアの検証官を立ち会わせます」


「ドワーフの坑夫もだ」


「セレネアの法印官も」


二人は互いの条件を削らなかった。


条件をすべて残したまま、誰が同じ坑道へ入るかだけを決めた。


羽化議長は、自分の身体より大きな紙を護衛二人に開かせた。


「ネフティアは、国境沿いの武装飛行隊を後方へ下げます」


羽化議長が言った。


「先行措置の期間中、武装した飛行体は国境線へ近づけません。配置と機数はオルディアに確認させます」


紙には、後方へ下げる飛行隊の配置と機数が記されていた。


武装飛行隊を失うわけではない。


だが、国境から下げれば、出撃から越境までに時間が生まれる。


国境へ近づく飛行体を、攻撃準備と誤認する危険も減る。


配置と機数を第三者が確かめれば、奇襲できる位置へ戻していないことも記録に残る。


「各地への命令は、どう確認する」


ハインが尋ねた。


「各国が既存の通信網から送ります。同じ文面をオルディアにも同時に送ってください。発信時刻と内容を記録します」


軍の後退には九時間から二十七時間。


航路標には十三日。


排水改善には四十二日。


すでに始まっているものもある。


これから動かすものもある。


完了する時期を揃えることはできない。


「途中で命令を変えた場合は」


「変更した文面も同じように記録します。いつ、誰が、何を変えたかを残します」


同じ日に終えることはできない。


だが、誰がいつ何を命じたかは、同じ記録の上に置くことができる。


「オルディアは何を差し出す」


カルドラン王が尋ねた。


「検証官十九名。地上用身体十二体。海中用身体三体。坑道用身体四体。記録の複製と公開に必要な通信容量の十一パーセントです」


「ずいぶん細かいな」


「保有量に限界があるためです」


第一調整官は続けた。


「検証結果がオルディアに不利である場合も削除しません。各当事者は、我々の記録へ異議を付記できます。ただし本文は変更できません」


「おぬしらが間違えた場合は」


「訂正履歴を残して訂正します」


「最初から正しかった顔はしないと」


「顔面構造は変化しません。記録上は行いません」


カルドラン王のひげが、わずかに揺れた。


今度こそ、笑ったらしかった。


最後に残ったのは、バルガとセヴァルの白紙だった。


「この二枚へ、義務を書き加えるつもりはありません」


新王が言った。


バルガは血の染みた包帯を見た。


「俺が約束できるのは、俺がすることだけだ」


「それを記録します」


「作業列車が交換駅まで下がれば、二百八十一号杭へ戻る。氏族へ、既設線の貨物列車を通すよう話す。鋼条を積んだ列車と兵員列車は通さない」


「全氏族が従う保証は」


ハインが尋ねた。


「ない」


「では、協定にならない」


「お前の兵士も、命令より先に撃った」


ハインは反論しようとして、やめた。


軍隊にも命令へ従わない一人がいる。


氏族にも、話し合いへ従わない一人がいる。


違いは、軍隊にはその一人を裁く法があり、氏族にはその一人を止める関係があることだった。


どちらが確実かは、事が起きるまで分からない。


「あなたの署名は、諸氏族の保証ではなく、あなた自身の行動を示すものとして扱います」


第一調整官が提案した。


「実行できなかった場合は、理由と、どの氏族が反対したかを記録する。反対したことだけを、協定全体の破棄とはみなさない」


ハインは長く考えた。


「後退中の列車が攻撃を受けた場合、我々は撤退を中止する」


「列車が後退をやめて工事を再開した場合、俺も氏族へ線路を開けるよう求めない」


「記録しろ」


ネイセルは、両方の条件を書いた。


セヴァルは白紙へ触れたまま、しばらく動かなかった。


「俺は、街道を開けてもらうために何も差し出さない」


「はい」


新王が答える。


「炉を出る自由のためにもだ」


「はい」


「だが、検証官へ場所を示す。番号を焼いた施設。食糧票と居住票を取り上げた役所。そこへ行く道は案内する」


「危険は」


第一調整官が尋ねた。


「ある。俺を知っている者もいる」


「護衛を付けます」


「兵士はいらない。記録する者だけでいい」


それは国家へ払う代価ではなかった。


まだ炉にいる者を見つけるために、セヴァル自身が引き受ける危険だった。


八枚の紙は、一つの文書へまとめられた。


表題は、暫定和平ではない。


十日間先行措置。


和平を結ぶ前に、約束が実行できるか確かめるための文書だった。


第一条。


東部線第二測区の複線化工事を十日間停止する。バルガは獣人諸氏族へ、作業列車の後退に必要な区間を空けるよう求める。アルヴェルンは作業列車を一つ前の交換駅へ後退させる。後退後、バルガは既設線を食糧、医薬品、生活用燃料の輸送へ開くよう諸氏族へ求める。


第二条。


ネレイアは条件を満たす民間船を一日一隻誘導し、アルヴェルンは河川工場二か所の排水口と濾過設備を検証へ開く。


第三条。


北鉱脈の新規採掘を停止する。安全維持に必要な作業は、カルドラン、セレネア、オルディアの共同記録下で行う。第一昇降口より内側へ、武装者を入れない。


第四条。


セレネアは王領の街道と関門について、灰角族であることのみを理由とする通行拒否を即日停止する。アルヴェルンは軍需施設二か所を検証へ開き、当該施設における灰角族の就労登録、食糧票、居住票の記録を開示する。


第五条。


六国家は、ピクシーの卵・幼体・蛹ならびに潜在人格核を、新たに軍事資源として取得、売買、加工、戦闘投入しない。すでに各国施設にいる者は、緊急の生命保護を除き、本人の意思確認手続きを別に定めるまで軍事施設間で移送しない。


ネフティアは国境沿いの武装飛行隊を後方へ下げ、先行措置の期間中、武装した飛行体を国境線へ近づけない。配置と機数はオルディアが確認する。


第六条。


盟約王冠の保管室へ八つの錠を追加する。機能の起動、移送、修復、破壊は、八者へ事前に通知し、異議が解消されるまで行わない。


第七条。


以上の措置が十日間維持された場合、セレネアとアルヴェルンの停戦をさらに三十日延長し、百八十日間の暫定和平について再度審議する。


完全な文書ではなかった。


獣人諸氏族すべてを拘束できない。


灰角族すべての居住権を保証できない。


海を一日に一隻しか開けない。


工場も二つしか調べない。


北鉱脈の帰属は決めない。


すでに兵器として扱われた幼体と人格核を、すぐには解放できない。


王冠を壊すことも、次の盟約王を選ぶことも先送りした。


それでも、何をしないかだけでなく、誰がいつ最初に動くかが書かれていた。


最初に印を押したのは、ネレイアだった。


一隻目をすでに通したためである。


次にアルヴェルン。


オルディア。


ネフティア。


カルドラン。


最後にセレネア。


六つの主権印の光は、盟約王冠を通らなかった。


それぞれ別の色のまま、同じ文書へ並んだ。


バルガは、主権印の列の下へ自分の名を書いた。


家名も、国名も付けない。


その横へ、決定権なし、条件を持ち帰る者と記された。


セヴァルも名を書いた。


番号を書く欄はなかった。


「これで、二人の署名にどれほどの力がある」


ハインが第一調整官へ尋ねた。


「六国家の主権印と同じ強制力はありません」


第一調整官が答える。


「ただし、第四条はセヴァルの同意なく変更できず、獣人諸氏族に関係する第一条は、変更前にバルガを通じて諸氏族へ提示し、氏族側から正式な回答を得なければならないと六国家が自ら約束しています。二人の署名が国家を縛るのではありません。六国家の印が、二人の立場を無視しないよう六国家自身を縛ります」


ハインは文書を見た。


「遠回りだな」


大潮守が応じた。


「新航路も、直線より一・四倍の距離があります。それでも、卵を踏まない」


会議室脇の通信室で、各国の通信員が電信機へ向かった。


命令の文面は、既存の通信網から各地へ送られた。


アルヴェルン東部線へ。


北鉱脈へ。


ネレイアの航路と、アルヴェルンの河川工場へ。


セレネアの関門と、アルヴェルンの軍需施設へ。


オルディアの検証隊と、盟約王冠の保管室へ。


同じ文面が、八つの通信路へ分かれていった。


命令は、今度こそ銃声より先に届かなければならない。


停戦の残りは、十六日。


先行措置の期限は、十日。


まだ、次の盟約王候補の名は一つも挙がっていない。


八者がこの日決めたのは、誰が世界へ命令するかではなかった。


誰か一人の命令がなくても、各国が出した命令を同じ記録の上へ置けるかどうかだった。


円卓の中央には、亀裂の入った王冠ではなく、六つの印と二つの名が残された。


どの印も、他の色へ塗り替えられてはいなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る