殺し屋さんたちと事故物件

彁はるこ

第1話 謎肉シチューのマンション

■マンション・リビング(夜)

 薄暗いお風呂場。大量のシチュー皿が置かれた流し。

 腕を組んだ四五六(シゴロク)ヒフミ(26歳)がテーブルを見つめている。


ヒフミ「まさか入居から一週間立て続けに怪奇現象がコンニチハしてくるとは」


 テーブルに湯気が立つシチューが置いてある。花柄のシチュー皿に、ゴロゴロの野菜と肉が入ってる。


――ピンポーン!

――ガチャッ

――ぱたぱたぱたっ


 玄関から足音が近付いてくる。

 黄昏崎(たそがれざき)(21歳)が偉そうにリビングに入ってくる。


黄昏崎「僕がきてやったぞ、殺し屋」

ヒフミ「ありがとう、食人鬼」

黄昏崎「それが噂の目を離した隙に現れる謎のシチュー? 殺し屋が隙を見せるなよ」


 我が物顔でテーブルの前に正座をする黄昏崎。


黄昏崎「で、食べていいの?」

ヒフミ「そのために呼んだんだ。確認よろしく」

黄昏崎「はいはい」


 手を合わせる黄昏崎。


黄昏崎「いただきます」


 黄昏崎はスプーンを手に取る。

 立ったままそれを観察するヒフミ。

 シチューの肉を口に入れる黄昏崎。


黄昏崎「うんうんうん? うん? うーん?」


 黄昏崎は考えるように咀嚼する。

――ゴクン。

 飲み込んだあと、もう一口肉を食べる。


黄昏崎「人間じゃないな」

ヒフミ「あれ、違うんだ。予想と外れたな」

黄昏崎「豚でもない。牛も、鳥も」


 羊、熊、兎などのジビエ肉も違うとイメージを浮かべる黄昏崎。


黄昏崎「一番似てるのは……死んだあと勿体なくて冷蔵庫に入れたけど、二週間くらい忘れてたカブトムシの幼虫だな」

ヒフミ「私は食べられそう?」

黄昏崎「んはははははっ! やめとけやめとけ! 腹壊すじゃすまねえよ」


 楽しそうにスプーンを振る黄昏崎。


黄昏崎「ごちそうさま」


 空のスープ皿に置かれたスプーン。

 手を合わせる黄昏崎。足を伸ばして、楽な姿勢になる。


黄昏崎「これだけ? 僕を呼んだんだから片付ける奴がいるんだろ?」


 なにかを期待するようにキッチンの大きな冷蔵庫に目を向ける黄昏崎。


ヒフミ「これだけだよ。今回は掃除屋に頼んだから」

黄昏崎「ええーっなにそれ! ちゃんとした肉食わせろよー!」


 黄昏崎は床に大の字になる。


ヒフミ「仕方がないだろ。そろそろ湯船に浸かりたかったんだよ。お代わり、いける?」

黄昏崎「いけるけど」

ヒフミ「よし」


 黄昏崎から空のスープ皿を受け取るヒフミ。

 ヒフミは風呂場のドアを開ける。


■風呂場

 ヒフミは浴槽の前でしゃがみ込む。

 背後から黄昏崎がやってきて、ヒフミの肩越しに浴槽を覗き込む。


黄昏崎「ゲッ」


 浴槽を覗き込んだ黄昏崎の顔が引き攣る。


黄昏崎「まじかよ」


 浴槽に、黄昏崎が食べたのと同じシチューが溜まっている。

 ヒフミは浴槽のシチューをすくった皿を黄昏崎に差し出す。


ヒフミ「チンする?」

黄昏崎「そういう問題じゃねえよ」

ヒフミ「タッパーに詰めていくつか持ち帰ってほしい。私が食べるのは無理そうなんだろ?」


 ヒフミは浴槽の謎肉を一瞥する。


ヒフミ「下手に捨ててなにかあったらいやだからね。心霊写真も、勝手に燃やすなって言うだろ?」

黄昏崎「それでも、保存の仕方ってもんがあるだろうが」


 げんなりと溜め息を吐く黄昏崎。

 むっと眉を顰めるヒフミ。


ヒフミ「冷蔵庫に入れろって? いやだよ。気持ち悪い」

黄昏崎「僕にくれる肉は入れてるくせに。お前の線引きどこだよ」

ヒフミ「私は知らないヒトの手料理は食べられないんだ」


 顔を背けるヒフミ。

 黄昏崎は肩を落とす。スープ皿を受け取る。


黄昏崎「しばらく泊まる」

ヒフミ「黄昏崎ならそう言ってくれると思った」

黄昏崎「ああーっ水太りするー」


 笑い合いながらリビングに戻る二人の背中。

――ズズッ

 黄昏崎がスープを啜る。


黄昏崎「……味、変わった」

ヒフミ「まじで?」

黄昏崎「早く引っ越せよ」

ヒフミ「仕事が終わったらね」

黄昏崎「あー、どうせお前が引っ越すのはまた事故物件か」


 ニヤリと笑うヒフミ。


ヒフミ「次の物件はもう決めてあるんだ」

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