第十六話「【魔法少女ミスティ】」
その子が私たちの前に現れたのは、私と“
「僕は【魔法少女ミスティ】、妖精王の導きにより魔法少女となりました。どうぞよろしく」
澄ました顔で慇懃に挨拶をするその子の傍にいる
「ロサロサ
「ええ、本日より貴女方のチームに彼女が合流いたします。
妖精王は世界樹から出て、しかしその体にはまだ呪いのかけらが残されていた。だから完全解呪までは元の世界に帰れなくて……でも中にいた時よりは色々できることが増えたとかいう妖精王によって“狭間”はかなり様変わりしていた。
まず、天井も床もないような謎空間はだだっ広い部屋として作り替えられて、机とか椅子とか、棚とか、そういう物が設置され、わかりやすくいえば
劇的ビフォーアフター過ぎる……というのは置いておいて、
片手で掴むにはやや大きめ、両手には少し余る。そんなサイズ感の、ピンク色でハート型のそれは、どうやら妖精王が世界樹の中で経験したあれそれから着想を得て作られたんだという。
怪異の発生位置や、それぞれの魔法少女の場所をそこそこの精度で教えてくれたり、妖精王と通信ができたり、
監査役であるロサロサさんの登場も、私たちに関係のある変化の一つだ。
解呪のための研究に時間を使いたいとかで、狭間に不思議パワーで穴を開けて、それを妖精界とのゲートにしちゃったみたい。そーいうことしてるから世界樹に封印されるようなことになったんじゃないの? と思わなくもない。いや妖精王がなんで封印されてたかとか知らんけど。
そんなゲートからやって来たのがロサロサさんだ。古株の信頼できる妖精だとかで、魔法少女の監査役として任命されたのだとか。まあ監査っていうと言葉が硬いけど、やってくれてることといえば私たちの魔法少女活動のサポートだ。
そんなロサロサさんが、新しい魔法少女を連れて来た。チームメイト。また三人での活動かあ。
「よろしく、あたし【あろま】よ」
「【リリィ=クラウン】。よろよろ〜」
꒰ა❤︎໒꒱
【魔法少女ミスティ】は、なんというか妙な子だった。
「あろまさん、二時の方向に怪異の触手です」
「おわっ! ありがとミスティ!」
まず怪異討伐の時冷静過ぎる。
なって早々こんな順応してるもん? ……いや私はあんま他人の事言えないか。
ミスティの言葉に従って、和美ちゃんが後ろから迫る触手をひらりと躱す。
「リリィ先輩、」
「へいへーい」
目の前では大きな植物みたいな怪異が触手、いや蔓を振り回していて……ぶつかると危なーい!
「そんじゃあちょちょいっとな」
くるくると
「【ペタペタペタ。私に見えず、君にも見えず。それでも触れるコレなぁに? ──
空中に足場を作って怪異の上を取れるようにする。
……もちろん私がじゃなくて、
「いっくわよぉ! 【響け! 轟け! あたしの春嵐! ──
和美ちゃんが扇子を振るうたびに生まれた冷たい空気と暖かい空気が激しくぶつかり合ってたちまち嵐を呼ぶ。
局所的かつ急激な天候変化に巻き込まれた怪異さんは、哀れ散り散りになって消えていったのでした。いえーい。
怪異のいた跡にはキラキラの石ころが落ちている。回収せねばですなぁ。
ひょいひょいっと石の方に向かうと、やや不機嫌そうな顔のミスティに声をかけられた。
「……リリィ先輩、あそこはご自身でもいけましたよね。無理にあろまさんに上を取らせる必要は──」
「それ何?」
「は?」
戦闘後第一声が文句かーい、という気持ちもあるんだけど、それよりも気になる。
「なんで先輩?」
和美ちゃんのことは
「……。それ今重要ですか? 戦闘後の反省より?」
ミスティは露骨に眉をしかめてるけど、めちゃくちゃ重要でない? だって初対面の後輩魔法少女がこっちの呼び方変えてきてるんだよ……?
まあいいか。
「反省ねぇ。だって和美ちゃんの方が効率良さそうだったんだもん。せっかく一緒に戦ってるんだしさぁ」
先に答えとくか、と思って言った言葉は、よりミスティの眉間のシワを深くする結果になった。何でぇ?!
「和美ちゃん……まさかお二人とも、本名を教え合っているんですか? 正気ですか?」
「そこ?!」
ミスティはメガネをガチャガチャさせながら、さも理解できません、という表情だ。
「魔法少女はもっと神秘的な正義の味方であるべきです。変身前の名前を教え合って、あまつさえ変身後に呼び合うなんて、」
こ、こだわりが妙に強いタイプ……!
「あはは、そーね! 魔法少女っぽくはないか。あたしたち変身後も付き合いがあるからさ、ついついそのまま呼んじゃうのよ。クセっていうか」
慄いている私をよそに、足場から降りて地面に着地した和美ちゃんが笑いながらぱたぱたと近寄ってきた。
和美ちゃんの返答にミスティはまだ眉をひそめてはいたけど、ひとまず納得してくれたみたいだった。
──そんなこんなで始まった三人チームは、デコボコなりによくやっていたんじゃないだろうか。
ミスティは、魔法少女にこだわりがあるだけあって、戦わせてもちゃんと強かった。
「【これは怒りである。其方は悪である。ゆえにこれは其方を貫くものである──
ミスティが背丈くらい大きな
「やるじゃんミスティ」
「当然です。怪異は悪ですから」
まあ偶に会話のキャッチボールはできてない気がしたけど。
三人での戦い方も、そこそこ安定していた気がする。
「【──回せ、回せ、回して投げて、もひとつ回せ。失敗もご愛嬌、我が技とくとご覧あれ──
私が怪異の位置や自分達の位置を入れ替えながら撹乱して、
「【
「【
和美ちゃんかミスティか、タイミングの良い方がトドメを刺す。
偶に自分で討伐することもあるけど、やっぱり戦闘ってそんなに得意じゃない。テキトーに処理するくらいならできるんだけどなあ。
私と和美ちゃんがあんまし得意じゃない、人から生まれる系の怪異への対処も、ミスティは上手かった。
というかこれに関しては私たちが苦手過ぎた可能性はあるけどね。
なんせ元来テキトーな私と、思いの外穏やかな方ではあったとはいえカッとなりやすい和美ちゃんだ。対人は向いてなさ過ぎるコンビ。
一方のミスティは怪異に憑かれた人にとんでもなく優しくて、謎にキラキラしたエフェクトが見えるくらいで……ともかくめちゃくちゃ頼りになった。
ただ、一度だけミスティが妙な魔法を使っていたところを見かけたことはあった。
「【これは嘆きである。其方は愚かである。ゆえにこれは其方を救う一筋の光たらん──
怪異はその後弱体したからすぐ討伐されて、私たちは石を回収して、今回も早く討伐できてよかったねと笑いあった。
……だから魔法を使った時のミスティの表情が何となく険しく見えたのは、気のせいのはず、だよね。
変身を解いた後は付き合いの悪いミスティだったけど、変身中はそれなりにノリも悪くない方だった。
「ねえミスティ」
「……」
「え、無視?? なに??」
「……ごにょごにょ」
「あれっ、
「なんで和美ちゃんに言うの??」
「あはは、“ミスティって呼んでる間は返事しません”だって!」
「は????」
いやこれノリの問題かな? 単にすごいメンドーな人ってだけなのでは。
「……ミシィ、これでいいの」
「はい、なんでしょうリリィ先輩」
話そうとしてた内容忘れるから変な前振りやり取りはやめてくれぇ!
私たちは色んな話をした。
かつてはする必要を感じていなかった、色んな話。
家のこととか、学校でのこと、自分の魔法についてどう思うか、どの怪異が強かったか、怪異って結構見た目可愛いよねとか、なんで魔法少女になったのかとか。
魔法少女に関係ない話にミシィが乗ってくることはほとんどなかったけど、逆に魔法少女の話になるとめちゃくちゃ食いつきが良かった。和美ちゃんや、かつての
ここまでみんな魔法少女のことが好きだと、私自身も興味が出てくる。そもそも和美ちゃんとアニメ一緒に見てはいたしね。
みんなで相談しながら変身バンクの演出を考えたりしたこともあった。
どの順番で変身していくのがいいか。光は、音は、決めポーズやセリフは?
見せ合いっこをしたこともあったけど、これが案外面白い。個性が出るよね、こういうの。
和美ちゃんのは魔法少女にハマってる割にはなんか戦隊モノみたいなテンションだったし、ミシィのは本人曰く“きらきらしてて強くって可愛くてかっこいい、だいたいそんな感じです”とのことだった。ほん、本当かぁ? それ両立できるやつなのかにゃ?! と思うし、私から見たらミシィの変身バンクは淡々としてて堅苦しく見えた。強そうな感じに寄り過ぎてませんこと?
三人で過ごすのは悪くなかった。
私はミシィに「もっと魔法少女らしく!」って怒られることもあったし、和美ちゃんとの呼び方の違いとか、気になるようなどーでも良いような、そんなことがなかったわけじゃないけど、それでも、確かに楽しかったんだと思う。
だから多分、私たちはそれなりに仲が良かったんだろう。
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