息を飲むほど美しく、孤高に育っていくヴァレンティン。
自らを削って毒と棘を纏うに至った彼の過去と孤独には、胸を締め付けられるような痛みを覚えます。
そんな彼にただ一人、影として従う専属護剣士ジークフリート。
沈黙を貫く彼の心の内にただひたすら揺るぎない愛を感じます。
主従ではありますが、唯一人の人間として扱い合う二人。
尊い事この上ない。
筆者様は言葉の重みと沈黙の表現が秀逸で、読者を鉄と血の匂い立つ汚泥へと突き落としたかと思えば、今度は豪奢な夜会を包む濃厚な芳香で満たしてくる。どこまでも耽美で濃密な文章が、五感に訴えかけてきます。
硬く鋭く、研ぎ澄まされているのに歪で美しく、燃えたぎるほどに焦れったい。
珠玉のBLです。
ナツガタリ応援になります!
元々作者様の作風が好きでして、下町とゲスモブ(貴族含む)を書かせたら天下一品だと思っているのですが、こちらの作品もため息が止まらないほど存分過ぎるほど魅せてくれました。
この作品は別作家様のアンソロジーで参加されている短編でして、それをナツガタリに合わせて大幅リメイク。
どちらも堪能できるファンにとってご褒美しかありません。
主人公は毒の宝石と呼ばれるヴァレンティン。
宝石とは美しいものでしかないのに何故彼は毒を纏うのか。そして毒を好んで纏うことで他を一切寄せ付けない一級品の仕上がりへと昇り詰めていく。
この毒の宝石が仕上がるまでのヴァレンティンの過去深堀りを見ていて胸が痛くなります。
そして泥の中から拾った青年ジークフリート。
ヴァレンティンはジークに初めて自分を人間として見てもらえたことで興味を持ちます。
対するジークの感情。守りたいものほど傷つけてしまうという文章の選び方が知性にあふれているのです。(彼がとある二言ですべてをしまい込んだ部分に触れるとそういうことかと納得しかありません)
作中で出てくる二言は同じ意味ではなく、場面と時間を重ねるたびに意味が変わっていきます。
服従、拒絶、自制、謝罪、命を賭けた愛。
主従BLのように見えて、二人はお互いを対等な人間として見ているので最後の甘ったるい不器用ヴァレンティンのシーンにハートやられました。
この人が最後ここまでデレるのか…!!(衝撃)
多弁に話すヴァレンティンの放つ言葉の毒にある裏側と、寡黙になったジークフリートの沈黙を貫く意味合いを過去編部分で丁寧に解きほぐしてくださっております。
過去編を読むとそうきたか!と現代部分に戻りたくなり…。
最初から「商品」と「道具」として取り扱われていた二人がこの絶望的に違う身分差を乗り越えて「人間」として扱われる自分を取り戻していく様がストーリーの進行と共に見えてくるので隅々までかみしめて堪能できます。
十年分の情熱が噴き出すまでに至るパワーワードの数々。
毒、棘、宝石、泥、駄犬、狼、檻、鞘とこの言葉たちがシーンごとによって違う意味合いを持ってくる手腕が見事です。
そして貴族社会、豪華な夜会、香水に咽る空気、下町の泥と血の匂い(ここが一番好き)五感に触れてくる濃密な文章が大変好みです。
毎度作者様の筆力に圧倒されておりますが、今回のお耽美BLも隅々まで堪能させていただきました。
何よりも私はジーク推しです。
最後の最後までありきたりな言葉を吐かないのに、関係性の変化が存分に伝わります。
磨き抜かれた描写とこの美しいアルテンシャインの世界へいらっしゃいませ。
息を飲むほど緻密な絵画。
編まれた言葉の美しさと、計算され尽くされた熱に踊らされるうちに読了していました。
まさにふたりが抱く恋のように、
硬く鋭く、研ぎ澄まされているのに歪でそして美しい。そんな芸術品を眺めるようでした。
確かに熱はある。それも燃えたぎるほどに焦れったく。
しかしそれをありのまま剥き出しに見せるのではなく、美しく飾り立て「触れられるものな触れてみろ」と挑発するほどの圧倒的な迫力を持って突きつけられる。
作者さまの作品を拝読するごとに思い知らされるのです。
文章とは、これほどまで自在に形も温度も感触も変えられるものなのかと。
今回は特に、孤高の芸術のように研がれた棘が、毒をまとってそこにあるようでした。
冒頭の微笑ましいやりとりから引き込まれ、読み進めるほどに凄惨な過去と互いの矜恃。
そして人生をかけて価値を確かめるような互いへの想いは、何人にも不可侵であり、紛れもなくふたりぼっちの愛のカタチ。
ラストシーンの触れ合いが、ふたりが出した「距離」の答えであるのだと思えばこそ、今回も「やられたなあ」と幸福な溜息をつくのでした。
BLだって芸術だ。
生々しい人間の欲を描き出す物語だ。
作者さまが文章に仕込む甘い毒に、今回も存分に酔わされたのでした。