先ず、…いいですねえ、すごく好みです。
この空白の使い方、芯から来る恐怖感。
9話まで読了です。
これは、好きなタイプの作品でした。
主人公が市役所職員として働き始めるところから物語が始まるのですが、とにかく「普通」の描写が細かい。
辞令交付、研修、住民票、窓口業務、庁内チャット、引き継ぎ……。
一見すると、ひたすら真面目な公務員のお仕事小説です。
ところが、その「普通」の中に、少しずつ妙なものが混ざってくる。
前任者が突然辞めている。 引き継ぎ書には不自然な空白がある。 机の引き出しには意味深な付箋が残されている。
そして、タイトルにもなっている「海内県」。
この違和感の積み重ね方が、とても面白いです。
個人的に好きなのは、作者が「これは怪異です」と大きく説明してしまわないところ。
主人公自身も、最初は目の前にある出来事を「まあ、こういうことなのだろう」と現実的に解釈しようとする。
だから読者も主人公と一緒になって、「……いや、待て。これ、何かおかしくないか?」となっていく。
この感覚がたまりません。
しかも、市役所という極めて現実的な舞台と、「存在しないはずの県」という非現実的な要素の組み合わせが絶妙。
派手な恐怖ではなく、日常のすぐ隣にあるものがほんの少しだけズレている怖さがあります。
序章まで読んだ段階では、まだ全貌は見えません。
だからこそ、この先に何が待っているのかが気になる。
「普通の仕事小説」だと思って読み始めた人ほど、いつの間にか抜け出せなくなっているタイプの作品だと思います。
こういう、じわじわと違和感を積み重ねて読者を引き込む作品が好きな方には、ぜひおすすめしたいです。