とても静かな物語なのに、読み終わったあとに残るものが大きい作品でした。
特に好きだったのが、台詞の選び方です。
大切なことを直接言わせるのではなく、「高くなったね、ココア。」とか「百円、まだ返してもらってない。」みたいな、何気ない言葉で気持ちを伝えているのがこの作品の空気感を象徴してます。
その一言の裏にある感情を、読み手が想像できる間にしてくれています。
雨や海、コインランドリー、ココア、花、そして「名前」といったモチーフも印象に残りました。最初は何気なく出てきたものが、物語が進むにつれて少しずつ意味や、感情を持ってくる感じも心地よい。
物語の全ての答えを出してしまうのではなく、分からないことは分からないまま、敢えて残されている。
そのおかげで、登場人物の感情も綺麗に整理されすぎず、どこか現実味のある記憶みたいに感じられました。
悲しい話ではあるのですが、読み終わったときに残るのは悲しさだけではありません。
忘れることでも、傷が完全に癒えることでもなく、抱えたまま少しずつ前へ進んでいく。
その描き方が、この作品の優しさなのかなと思います。
何気ない会話や風景が少しずつ積み重なって、最後にはその一つ一つがじわっと効いてくる。
文章も読みやすく、正直、個人的に文句のつけようがありませんでした。
静かな余韻の残る良い作品でした。