第2話 最強は、次の最強に負ける
最初に、動いたのは。
私では、なかった。
(当たり前だ。
私は。
動かない。
動かすのだ。
……まだ、誰も、動かせて、いないけど。
それは、これから)
沈黙を。
最初に、破ったのは。
痩せた、若い男だった。
◇
その男は。
へらへらと、笑いながら。
一歩、前に、出た。
「なあ、みんな。……こんな、殺し合いなんて。やめようぜ」
猫なで声。
「仲良く、しようや。な?」
……胡散臭い。
全員が。
そう、思ったのが。
空気で、わかった。
私の。
感情を、読む力を。
使うまでも、ない。
(でも、いちおう、読んだ。
男の、感情は。
笑顔の、裏で。
……嗤っていた。
ああ、こいつ。
何か、やる気だ)
◇
次の、瞬間。
男の、隣に。
もう一人。
同じ、顔の、男が。
立って、いた。
え。
と、思った、ときには。
その、隣にも。
反対側にも。
後ろにも。
……次々と。
同じ顔の、男が。
増えて、いく。
二人。
四人。
八人。
気がつけば。
白い、部屋は。
へらへら笑う、同じ顔で。
埋め尽くされて、いた。
「――分身、だ」
誰かが、呻いた。
「数を、増やす、能力か……!」
分身の、群れが。
じり、と。
私たちを。
取り囲む。
数十人。
いや。
まだ、増える。
……なるほど。
数の、暴力。
一人が、何十人にもなれば。
どんな、強者でも。
押し潰される。
これは。
……強い。
素直に。
そう、思った。
◇
(――ちょっと、待って)
私は。
群れの、中で。
冷静に。
考えた。
数十人の、分身。
確かに、脅威だ。
でも。
これ、全部。
「あの、一人」から。
生まれて、いる。
……もし。
本体を、叩けば?
分身は。
どう、なる?
でも。
その、仮説を。
試す、間も、なく。
――事態は。
動いた。
◇
分身の、群れを。
かき分けて。
一人の、大男が。
ずんずんと。
進み出た。
筋骨隆々。
身の丈、二メートル近い。
革鎧の、男だ。
男は。
手近な、分身を。
一人。
むんずと、掴んだ。
そして――
軽々と。
頭の上まで。
持ち上げた。
「ぬん!」
掛け声、一つ。
掴んだ、分身を。
他の、分身の、群れへ。
ぶん投げる。
ボウリングのように。
分身が、なぎ倒される。
……力持ち。
いや。
力持ち、なんて、ものじゃ、ない。
男は。
次々と。
分身を、掴んでは。
投げ。
掴んでは。
投げ。
まるで。
紙人形のように。
数十人の、群れを。
蹴散らして、いく。
「何でも、持ち上げる……!」誰かが、叫んだ。「怪力か!」
◇
……あれ?
私は。
首を、かしげた。
物理攻撃は。
一番、弱い。
……って。
さっき。
運営が。
言って、なかった?
なのに。
あの、怪力の男。
めちゃくちゃ。
強くない?
(――いや。
落ち着け。
落ち着くのよ、ミライ。
きっと。
これには。
深い、理由が、ある。
私に、わからないはずが、ない。
だって、私は。
天才、だもの)
……考えろ。
なぜ。
「物理最弱」の、はずの、世界で。
怪力が。
通用して、いる?
……あ。
そうか。
相手が。
「分身」だからだ。
分身は。
数は、多いけど。
一人ひとりは。
ただの、コピー。
特別な、防御力も、ない。
だから。
怪力の。
単純な、力で。
蹴散らせる。
……つまり。
「物理が、最弱」というのは。
物理が。
常に、負ける、という意味じゃ、ない。
相手に、よっては。
物理でも。
勝てる。
要は。
――相性。
なるほど。
なるほど、ね。
(ふう。
わかってしまった。
さすが、私。
天才の、名は、伊達じゃ、ない)
◇
怪力の、男は。
ついに。
群れの、奥。
逃げ惑う。
ただ一人の――
本体を。
見つけ出した。
「――ひっ」
へらへら笑いは。
もう。
消えていた。
本体の、男は。
腰を、抜かして。
尻餅を、ついている。
分身を、いくら、増やしても。
本体の、彼、自身は。
ただの。
非力な。
一人の、男。
「や、やめ……!」
言い終わる、前に。
怪力の、手が。
本体の、頭を。
鷲掴みに、した。
……ごき、と。
嫌な、音。
そして。
男を。
白い、床に。
叩きつける。
――どさ。
その、瞬間。
部屋を、埋めていた。
数十人の。
分身が。
すう、と。
まるで。
最初から、いなかったかのように。
かき消えた。
……やっぱり。
本体を、叩けば。
分身は、消える。
私の。
読み、通り。
(……ほら、ね。
私の、言った、通りに、なった。
誰にも。
言って、ないけど。
心の中で、言った、通りに)
◇
静寂。
白い、床に。
転がる。
分身使いの、男は。
もう。
動かない。
……ゲームが、始まって。
最初の。
脱落者。
数の、力を、誇った、男は。
純粋な、力の前に。
呆気なく、敗れた。
そして。
部屋の、中央には。
一人。
怪力の、大男が。
肩で、息を、しながら。
立って、いる。
返り血一つ、浴びず。
ただ。
圧倒的な。
存在感で。
「……つえぇ」
誰かが。
呆然と、呟いた。
「あいつが。……一番、強いんじゃ、ないか」
……そう、かも、しれない。
私も。
内心。
少し。
警戒を、上げた。
あの、怪力。
味方に、つければ。
心強い。
敵に、回せば。
厄介。
……どうやって、私の、駒に、しようかしら。
(ちなみに、この時点で。
相手を、駒に、する、あても。
手段も。
私には。
一切、なかった。
ただ。
「駒にする」と。
思うのが。
気持ち、よかった、だけだ)
◇
――だが。
「一番、強い」は。
長く。
続かなかった。
怪力の、男が。
ふと。
顔を、上げた、その、瞬間。
しゅっ、と。
空気が。
鳴いた。
何が、起きたのか。
私には。
見えなかった。
ただ。
怪力の、男の。
分厚い、胸元に。
一本。
赤い、線が。
走った。
……次の、瞬間。
その、線が。
ぱっくりと。
開いて。
「――が」
男は。
血を、吹いて。
膝から。
崩れ落ちた。
あれほどの、巨体が。
まるで。
見えない、刃で。
切り裂かれた、かのように。
……見えない、刃?
いや。
違う。
私は。
目を、凝らした。
怪力の、男と。
少し、離れた、場所に。
立って、いる。
ひょろりとした。
女が、一人。
彼女が。
すっと。
手を、薙いだ。
その、動きに、合わせて。
また。
しゅっ、と。
空気が、鳴った。
◇
「――かまいたち」
私は。
思わず。
呟いた。
風の、刃。
空気を、圧縮して。
見えない、刃にして。
飛ばす。
遠、間合いから。
触れずに。
切り裂く。
……怪力の、男は。
強かった。
でも。
その、力を。
振るうには。
相手に。
触れなければ、ならない。
掴んで。
投げて。
叩きつける。
そのために。
近づく、必要が、ある。
――でも。
かまいたちの、女は。
近づかせ、ない。
触れる、前に。
遠くから。
切る。
どんなに、力が、強くても。
掴む、前に、切り刻まれたら。
意味が、ない。
……ああ。
これも。
相性、だ。
「数」は。
「力」に、負けた。
そして。
「力」は。
「技」に、負ける。
間合いを。
制する者が。
力任せの、者を。
制する。
……なるほど。
なるほど。
見えて、きた。
この、ゲームの。
底が。
(見えて、きた、というより。
目の前で。
順番に。
死んで、いくのを。
眺めて、いるだけ、なんだけど。
まあ。
見えて、きたことに。
変わりは、ない)
◇
怪力の、男が、倒れ。
部屋の、空気が。
また。
変わった。
かまいたちの、女。
遠間から、切り裂く、その、力は。
明らかに。
頭一つ、抜けている。
誰も。
うかつに。
近づけない。
近づけば。
触れる前に。
切られる。
女は。
ゆっくりと。
部屋を、見回した。
品定めするように。
次は。
誰を、切ろうか、と。
……その、視線が。
一瞬。
私の、方を。
かすめた。
――ぞくり。
心臓が。
跳ねた。
(……え。
待って。
私?
私を、切る、気?
いや。
やめて。
私は。
支配する、側で。
切られる、側じゃ……!)
冷や汗が。
背中を。
伝った。
私の。
立派な。
頭脳も。
遠くから、飛んでくる、風の刃の、前では。
何の、役にも。
立たない。
考える、より、早く。
首が。
飛ぶ。
……ここに、来て。
初めて。
私は。
自分が。
「殺され得る」という、事実を。
生々しく。
感じた。
◇
だが。
かまいたちの、女の、視線は。
私を。
通り過ぎた。
……たぶん。
私が。
あまりにも。
「弱そう」だったから、だ。
武器も、なし。
鎧も、なし。
どう見ても。
脅威じゃ、ない。
後回しで、いい。
そう。
判断された。
……。
……失礼ね。
(と、思いつつ。
心の底では。
ほっと、していた。
弱そうに、見えるのも。
悪く、ない。
……いえ。
これは。
私の、高度な、戦略。
あえて。
弱者を、演じて。
油断を。
誘っているの。
そう。
そういうことに。
しておく)
◇
かまいたちの、女が。
次の、標的を。
定めようと、した。
その、とき、だった。
「――止まれ」
低い。
短い。
一言。
部屋の、隅から。
声が、した。
痩せた。
神経質そうな。
中年の、男。
彼が。
かまいたちの、女に。
向かって。
静かに。
言い放った。
「動くな。手を、下ろせ」
すると。
……かまいたちの、女の。
動きが。
止まった。
薙ごうと、上げた、手が。
途中で。
ぴたりと。
止まって。
それから。
ゆっくりと。
下りて、いく。
女、自身の。
意思とは。
無関係に。
まるで。
見えない、糸で。
操られる。
人形のように。
「な……っ」
女の、顔に。
初めて。
焦りが。
走った。
動け、と。
念じているのに。
身体が。
言うことを。
聞かない。
◇
「――命令」
私は。
また。
呟いて、いた。
命令する。
声に、出した、指示に。
相手を。
従わせる、能力。
かまいたちは。
遠くから、切り裂く。
誰にも。
近づかせ、ない。
最強に。
見えた。
……でも。
その、切り裂く「手」を。
「動くな」の、一言で。
封じられたら?
刃を。
飛ばす、ことすら。
できない。
――技は。
支配に、負ける。
どんなに。
鋭い、技も。
その、身体を。
乗っ取られたら。
振るえない。
……階段だ。
私は。
悟った。
数は、力に、負け。
力は、技に、負け。
技は、支配に、負ける。
一つ、上が、いれば。
その、下は。
ひっくり返る。
強さの、序列なんて。
見た目じゃ。
決まらない。
誰が。
誰に、勝つか。
それは。
――相性で。
決まる。
◇
「動くな」の、命令に。
縛られた。
かまいたちの、女に。
命令の、男は。
ゆっくりと。
歩み寄った。
そして。
感情の、ない、声で。
告げた。
「――そのまま。じっと、していろ」
女は。
動けない。
抵抗も。
できない。
……そして。
命令の、男は。
分身使いの、男の、亡骸のそばに、転がっていた。
何か、硬いものを。
拾い上げた。
私は。
目を。
逸らした。
その、あとに。
起きたことは。
見なくても。
わかる。
……かまいたちの、女も。
脱落した。
◇
三人。
ゲームが、始まって。
まだ。
いくばくも、経っていない。
なのに。
もう。
三人が。
白い、床に。
転がって、いる。
分身使い。
怪力。
かまいたち。
……次々と。
「最強」が。
現れては。
「次の、最強」に。
潰されて、いく。
そして、今。
部屋の、中央に、立つのは。
命令の、男。
声、一つで。
相手を、操る、能力者。
……確かに。
強い。
近づく、必要も、ない。
触れる、必要も、ない。
ただ。
命じるだけ。
――でも。
私は。
静かに。
その、男を。
見つめた。
(……あなたも。
きっと。
最強じゃ、ないわ)
なぜなら。
この、階段には。
まだ。
続きが、あるからだ。
支配に、勝つ、ものが。
きっと。
この中に、いる。
……そして。
それを。
見極めて。
利用するのが。
私の。
仕事。
(仕事、と言っても。
まだ。
何も。
して、いないけど。
これから。
これから、よ)
◇
白い、部屋に。
残った、九人が。
命令の、男を。
遠巻きに。
見て、いる。
誰も。
動かない。
……いや。
動けない。
うかつに。
声の、届く、範囲に、入れば。
「動くな」の、一言で。
終わり、だから。
張り詰めた。
沈黙。
その、中で。
私だけが。
……ひそかに。
微笑んで、いた。
だって。
私には。
もう。
見えて、いたから。
この、膠着を。
破る、方法が。
命令の、男を。
引きずり下ろす。
その、一手が。
……ふふ。
見て、いなさい。
ここから。
盤面を、動かすのは。
この、私よ。
(――もっとも。
その「一手」に。
まさか。
とんでもない、協力者が。
関わって、くることを。
このときの、私は。
まだ。
知らなかったのだけど)
(第2話 了)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【 湊ミライの ゲーム攻略メモ 】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
・クリア条件=①最後まで生き残る ②役割を達成する。
・重要ルール:物理攻撃が最も弱い。
・私の能力:他人の感情の揺れがわかるだけ。攻撃不可。
・私の役割:……なんか地味。よく読んでない。
〔今回 判明〕
・強さの序列は"相性"で決まる(=階段)。
数 < 力 < 技 < 支配 …と、上が下をひっくり返す。
分身→怪力→かまいたち→命令、の順で脱落。
・「一番強い」は次の最強にすぐ負ける=過信は禁物。
・かまいたちに一瞬狙われかけた。私も"切られ得る"。
→弱そうに見えるのは、むしろ盾(と思うことにした)。
・命令の男も最強ではない。支配に勝つ者が必ずいる。
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