第2話 最強は、次の最強に負ける



最初に、動いたのは。


私では、なかった。


(当たり前だ。


私は。


動かない。


動かすのだ。


……まだ、誰も、動かせて、いないけど。


それは、これから)



沈黙を。


最初に、破ったのは。


痩せた、若い男だった。





その男は。


へらへらと、笑いながら。


一歩、前に、出た。


「なあ、みんな。……こんな、殺し合いなんて。やめようぜ」


猫なで声。


「仲良く、しようや。な?」


……胡散臭い。


全員が。


そう、思ったのが。


空気で、わかった。


私の。


感情を、読む力を。


使うまでも、ない。


(でも、いちおう、読んだ。


男の、感情は。


笑顔の、裏で。


……嗤っていた。


ああ、こいつ。


何か、やる気だ)





次の、瞬間。



男の、隣に。


もう一人。


同じ、顔の、男が。


立って、いた。



え。


と、思った、ときには。


その、隣にも。


反対側にも。


後ろにも。


……次々と。


同じ顔の、男が。


増えて、いく。


二人。


四人。


八人。


気がつけば。


白い、部屋は。


へらへら笑う、同じ顔で。


埋め尽くされて、いた。



「――分身、だ」


誰かが、呻いた。


「数を、増やす、能力か……!」



分身の、群れが。


じり、と。


私たちを。


取り囲む。


数十人。


いや。


まだ、増える。


……なるほど。


数の、暴力。


一人が、何十人にもなれば。


どんな、強者でも。


押し潰される。


これは。


……強い。


素直に。


そう、思った。





(――ちょっと、待って)



私は。


群れの、中で。


冷静に。


考えた。


数十人の、分身。


確かに、脅威だ。


でも。


これ、全部。


「あの、一人」から。


生まれて、いる。


……もし。


本体を、叩けば?


分身は。


どう、なる?



でも。


その、仮説を。


試す、間も、なく。



――事態は。


動いた。





分身の、群れを。


かき分けて。


一人の、大男が。


ずんずんと。


進み出た。



筋骨隆々。


身の丈、二メートル近い。


革鎧の、男だ。


男は。


手近な、分身を。


一人。


むんずと、掴んだ。


そして――


軽々と。


頭の上まで。


持ち上げた。



「ぬん!」



掛け声、一つ。


掴んだ、分身を。


他の、分身の、群れへ。


ぶん投げる。


ボウリングのように。


分身が、なぎ倒される。


……力持ち。


いや。


力持ち、なんて、ものじゃ、ない。


男は。


次々と。


分身を、掴んでは。


投げ。


掴んでは。


投げ。


まるで。


紙人形のように。


数十人の、群れを。


蹴散らして、いく。



「何でも、持ち上げる……!」誰かが、叫んだ。「怪力か!」





……あれ?



私は。


首を、かしげた。


物理攻撃は。


一番、弱い。


……って。


さっき。


運営が。


言って、なかった?


なのに。


あの、怪力の男。


めちゃくちゃ。


強くない?



(――いや。


落ち着け。


落ち着くのよ、ミライ。


きっと。


これには。


深い、理由が、ある。


私に、わからないはずが、ない。


だって、私は。


天才、だもの)



……考えろ。


なぜ。


「物理最弱」の、はずの、世界で。


怪力が。


通用して、いる?



……あ。


そうか。



相手が。


「分身」だからだ。


分身は。


数は、多いけど。


一人ひとりは。


ただの、コピー。


特別な、防御力も、ない。


だから。


怪力の。


単純な、力で。


蹴散らせる。


……つまり。


「物理が、最弱」というのは。


物理が。


常に、負ける、という意味じゃ、ない。


相手に、よっては。


物理でも。


勝てる。


要は。


――相性。


なるほど。


なるほど、ね。


(ふう。


わかってしまった。


さすが、私。


天才の、名は、伊達じゃ、ない)





怪力の、男は。


ついに。


群れの、奥。


逃げ惑う。


ただ一人の――


本体を。


見つけ出した。



「――ひっ」



へらへら笑いは。


もう。


消えていた。


本体の、男は。


腰を、抜かして。


尻餅を、ついている。


分身を、いくら、増やしても。


本体の、彼、自身は。


ただの。


非力な。


一人の、男。



「や、やめ……!」



言い終わる、前に。


怪力の、手が。


本体の、頭を。


鷲掴みに、した。


……ごき、と。


嫌な、音。


そして。


男を。


白い、床に。


叩きつける。


――どさ。



その、瞬間。


部屋を、埋めていた。


数十人の。


分身が。


すう、と。


まるで。


最初から、いなかったかのように。


かき消えた。



……やっぱり。


本体を、叩けば。


分身は、消える。


私の。


読み、通り。


(……ほら、ね。


私の、言った、通りに、なった。


誰にも。


言って、ないけど。


心の中で、言った、通りに)





静寂。



白い、床に。


転がる。


分身使いの、男は。


もう。


動かない。


……ゲームが、始まって。


最初の。


脱落者。


数の、力を、誇った、男は。


純粋な、力の前に。


呆気なく、敗れた。



そして。


部屋の、中央には。


一人。


怪力の、大男が。


肩で、息を、しながら。


立って、いる。


返り血一つ、浴びず。


ただ。


圧倒的な。


存在感で。



「……つえぇ」


誰かが。


呆然と、呟いた。


「あいつが。……一番、強いんじゃ、ないか」



……そう、かも、しれない。


私も。


内心。


少し。


警戒を、上げた。


あの、怪力。


味方に、つければ。


心強い。


敵に、回せば。


厄介。


……どうやって、私の、駒に、しようかしら。


(ちなみに、この時点で。


相手を、駒に、する、あても。


手段も。


私には。


一切、なかった。


ただ。


「駒にする」と。


思うのが。


気持ち、よかった、だけだ)





――だが。



「一番、強い」は。


長く。


続かなかった。



怪力の、男が。


ふと。


顔を、上げた、その、瞬間。



しゅっ、と。


空気が。


鳴いた。



何が、起きたのか。


私には。


見えなかった。


ただ。


怪力の、男の。


分厚い、胸元に。


一本。


赤い、線が。


走った。


……次の、瞬間。


その、線が。


ぱっくりと。


開いて。



「――が」



男は。


血を、吹いて。


膝から。


崩れ落ちた。


あれほどの、巨体が。


まるで。


見えない、刃で。


切り裂かれた、かのように。



……見えない、刃?



いや。


違う。


私は。


目を、凝らした。


怪力の、男と。


少し、離れた、場所に。


立って、いる。


ひょろりとした。


女が、一人。


彼女が。


すっと。


手を、薙いだ。


その、動きに、合わせて。


また。


しゅっ、と。


空気が、鳴った。





「――かまいたち」



私は。


思わず。


呟いた。



風の、刃。


空気を、圧縮して。


見えない、刃にして。


飛ばす。


遠、間合いから。


触れずに。


切り裂く。


……怪力の、男は。


強かった。


でも。


その、力を。


振るうには。


相手に。


触れなければ、ならない。


掴んで。


投げて。


叩きつける。


そのために。


近づく、必要が、ある。


――でも。


かまいたちの、女は。


近づかせ、ない。


触れる、前に。


遠くから。


切る。


どんなに、力が、強くても。


掴む、前に、切り刻まれたら。


意味が、ない。



……ああ。


これも。


相性、だ。



「数」は。


「力」に、負けた。


そして。


「力」は。


「技」に、負ける。


間合いを。


制する者が。


力任せの、者を。


制する。


……なるほど。


なるほど。


見えて、きた。


この、ゲームの。


底が。


(見えて、きた、というより。


目の前で。


順番に。


死んで、いくのを。


眺めて、いるだけ、なんだけど。


まあ。


見えて、きたことに。


変わりは、ない)





怪力の、男が、倒れ。


部屋の、空気が。


また。


変わった。



かまいたちの、女。


遠間から、切り裂く、その、力は。


明らかに。


頭一つ、抜けている。


誰も。


うかつに。


近づけない。


近づけば。


触れる前に。


切られる。



女は。


ゆっくりと。


部屋を、見回した。


品定めするように。


次は。


誰を、切ろうか、と。


……その、視線が。


一瞬。


私の、方を。


かすめた。



――ぞくり。



心臓が。


跳ねた。


(……え。


待って。


私?


私を、切る、気?


いや。


やめて。


私は。


支配する、側で。


切られる、側じゃ……!)



冷や汗が。


背中を。


伝った。


私の。


立派な。


頭脳も。


遠くから、飛んでくる、風の刃の、前では。


何の、役にも。


立たない。


考える、より、早く。


首が。


飛ぶ。


……ここに、来て。


初めて。


私は。


自分が。


「殺され得る」という、事実を。


生々しく。


感じた。





だが。



かまいたちの、女の、視線は。


私を。


通り過ぎた。



……たぶん。


私が。


あまりにも。


「弱そう」だったから、だ。


武器も、なし。


鎧も、なし。


どう見ても。


脅威じゃ、ない。


後回しで、いい。


そう。


判断された。


……。


……失礼ね。


(と、思いつつ。


心の底では。


ほっと、していた。


弱そうに、見えるのも。


悪く、ない。


……いえ。


これは。


私の、高度な、戦略。


あえて。


弱者を、演じて。


油断を。


誘っているの。


そう。


そういうことに。


しておく)





かまいたちの、女が。


次の、標的を。


定めようと、した。


その、とき、だった。



「――止まれ」



低い。


短い。


一言。



部屋の、隅から。


声が、した。


痩せた。


神経質そうな。


中年の、男。


彼が。


かまいたちの、女に。


向かって。


静かに。


言い放った。



「動くな。手を、下ろせ」



すると。



……かまいたちの、女の。


動きが。


止まった。



薙ごうと、上げた、手が。


途中で。


ぴたりと。


止まって。


それから。


ゆっくりと。


下りて、いく。


女、自身の。


意思とは。


無関係に。


まるで。


見えない、糸で。


操られる。


人形のように。



「な……っ」



女の、顔に。


初めて。


焦りが。


走った。


動け、と。


念じているのに。


身体が。


言うことを。


聞かない。





「――命令」



私は。


また。


呟いて、いた。



命令する。


声に、出した、指示に。


相手を。


従わせる、能力。


かまいたちは。


遠くから、切り裂く。


誰にも。


近づかせ、ない。


最強に。


見えた。


……でも。


その、切り裂く「手」を。


「動くな」の、一言で。


封じられたら?


刃を。


飛ばす、ことすら。


できない。


――技は。


支配に、負ける。


どんなに。


鋭い、技も。


その、身体を。


乗っ取られたら。


振るえない。



……階段だ。



私は。


悟った。


数は、力に、負け。


力は、技に、負け。


技は、支配に、負ける。


一つ、上が、いれば。


その、下は。


ひっくり返る。


強さの、序列なんて。


見た目じゃ。


決まらない。


誰が。


誰に、勝つか。


それは。


――相性で。


決まる。





「動くな」の、命令に。


縛られた。


かまいたちの、女に。


命令の、男は。


ゆっくりと。


歩み寄った。


そして。


感情の、ない、声で。


告げた。



「――そのまま。じっと、していろ」



女は。


動けない。


抵抗も。


できない。


……そして。


命令の、男は。


分身使いの、男の、亡骸のそばに、転がっていた。


何か、硬いものを。


拾い上げた。



私は。


目を。


逸らした。


その、あとに。


起きたことは。


見なくても。


わかる。


……かまいたちの、女も。


脱落した。





三人。



ゲームが、始まって。


まだ。


いくばくも、経っていない。


なのに。


もう。


三人が。


白い、床に。


転がって、いる。


分身使い。


怪力。


かまいたち。


……次々と。


「最強」が。


現れては。


「次の、最強」に。


潰されて、いく。



そして、今。


部屋の、中央に、立つのは。


命令の、男。


声、一つで。


相手を、操る、能力者。


……確かに。


強い。


近づく、必要も、ない。


触れる、必要も、ない。


ただ。


命じるだけ。


――でも。



私は。


静かに。


その、男を。


見つめた。



(……あなたも。


きっと。


最強じゃ、ないわ)



なぜなら。


この、階段には。


まだ。


続きが、あるからだ。


支配に、勝つ、ものが。


きっと。


この中に、いる。


……そして。


それを。


見極めて。


利用するのが。


私の。


仕事。


(仕事、と言っても。


まだ。


何も。


して、いないけど。


これから。


これから、よ)





白い、部屋に。


残った、九人が。


命令の、男を。


遠巻きに。


見て、いる。


誰も。


動かない。


……いや。


動けない。


うかつに。


声の、届く、範囲に、入れば。


「動くな」の、一言で。


終わり、だから。



張り詰めた。


沈黙。



その、中で。


私だけが。


……ひそかに。


微笑んで、いた。



だって。


私には。


もう。


見えて、いたから。


この、膠着を。


破る、方法が。


命令の、男を。


引きずり下ろす。


その、一手が。


……ふふ。


見て、いなさい。


ここから。


盤面を、動かすのは。


この、私よ。



(――もっとも。


その「一手」に。


まさか。


とんでもない、協力者が。


関わって、くることを。


このときの、私は。


まだ。


知らなかったのだけど)



(第2話 了)



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 【 湊ミライの ゲーム攻略メモ 】

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・クリア条件=①最後まで生き残る ②役割を達成する。

・重要ルール:物理攻撃が最も弱い。

・私の能力:他人の感情の揺れがわかるだけ。攻撃不可。

・私の役割:……なんか地味。よく読んでない。

〔今回 判明〕

・強さの序列は"相性"で決まる(=階段)。

  数 < 力 < 技 < 支配 …と、上が下をひっくり返す。

  分身→怪力→かまいたち→命令、の順で脱落。

・「一番強い」は次の最強にすぐ負ける=過信は禁物。

・かまいたちに一瞬狙われかけた。私も"切られ得る"。

 →弱そうに見えるのは、むしろ盾(と思うことにした)。

・命令の男も最強ではない。支配に勝つ者が必ずいる。

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