最初の記憶複製体

「……母さん?」

航は目の前の女性を見つめた。

女性は、航の母親と同じ顔をしている。

けれど、その瞳には人間らしい温かさがない。

「違う……」

航が首を振る。

「母さんは、20年前に亡くなった」

「ええ」

女性は微笑んだ。

「だから私は、あなたのお母さんではない!」

胸元の文字――

X-00

が白く輝く。

「私は、あなたのお母さんが残した最後の記憶から作られた存在!」

湊が一歩前へ出る。

「じゃあ、あなたが黒幕なのか?」

「いいえ!」

女性は首を横に振った。

「私は黒幕ではない!」

「では何者なんだ?」

零司が尋ねる。

女性は赤い鈴を見せた。

「私は――案内人」

「案内人?」

「X計画が最終地点へ到達するための存在よ!」

最終地点まで18時間

スペーシアXは夜の山道を走り続けている。

しかし、外の景色は普通ではなかった。

窓の外に、

東京。

日光。

20年前の浅草。

そして未来の東京。

様々な時代の風景が次々に現れている。

「時間そのものが混ざってる……」

美月が呟く。

X-00は答える。

「記憶核が完全に起動したからよ!」

「この列車は今、時間と時間の間を走っている!」

湊はモニターを見る。

残り17時間59分。

「18時間以内に日光へ着かなければ?」

「すべての記憶が一つになる!」

「それって……」

「誰が誰だったのか」

「どの出来事が本当に起きたのか!」

「過去と未来の区別さえなくなる!」

ひかりが震える。

「そんなことになったら……」

「世界中の人の人生が、書き換わる」

湊は拳を握った。

「絶対に止める!」

航の母

突然、X-00が航を見る。

「航」

「……何?」

「あなたには、まだ返していない記憶がある!」

「僕に?」

X-00が赤い鈴を鳴らす。

カラン……

航の目の前に、映像が現れた。

そこには――

幼い航。

そして、航の父。

さらに、その隣には――

航の母。

「母さん……」

映像の中の母親は、幼い航を抱きしめていた。

『航』

『あなたは、誰かの記憶になる必要はないの』

『あなた自身の人生を生きて』

航の目から涙が落ちる。

しかし、映像の中の父親が現れる。

『記憶は永遠だ』

『人間より、記憶のほうが優れている』

母親が首を横に振る。

『違う』

『人間は忘れるからこそ、新しい思い出を作れるのよ』

映像が止まった。

航は呆然としている。

「……父さんと母さんは、考え方が違ったんだ」

X-00が頷く。

「そして、その争いがX計画を生んだ」

湊が尋ねる。

「じゃあ、航さんのお父さんは――」

「最後まで、記憶を永遠にすることに執着した」

「だから、今の事件が起きた」

赤い鈴の秘密

ひかりが赤い鈴を見る。

「でも、この鈴は何なの?」

X-00は静かに答えた。

「赤い鈴は――」

「『選択』の鈴。」

「選択?」

「白い鈴は記憶を守る!」

「黒い鈴は記憶を消す!」

「そして赤い鈴は――」

X-00は湊に鈴を差し出した。

「どちらを選ぶか決める」

湊は鈴を受け取った。

「俺が?」

「そう!」

「なぜ俺なんだ?」

X-00は微笑む。

「あなたの父親が、最後に決めたから!」

「父さんが?」

「ええ!」

「20年前――」

「恒一はこう言った!」

X-00が、父の声を再生する。

『もし未来の湊がこの鈴を持っていたら――』

『彼なら、きっと両方を救える』

湊は驚いた。

「両方……」

未来の湊が笑う。

「父さんらしいな!」

「過去も未来も、どちらも捨てない!」

そのとき――

ゴゴゴゴゴ……!

列車が激しく揺れた。

X-00の表情が変わる。

「……来た」

「何が?」

「最後の敵よ!」

車内モニターが真っ黒になる。

そして――

一文字だけ表示された。

『零』

白いコートの男が、最後尾に現れた。

「ここまで来たか!」

航が立ち上がる。

「朝倉零……!」

零は笑う。

「そうだ!」

「私が、すべての始まりだ!」

湊が赤い鈴を握る。

「終わらせる!」

零は首を横に振った。

「まだ終わらない!」

「なぜなら――」

零が指を鳴らす。

すると、車内の乗客たちが一斉に立ち上がった。

全員の胸元に――

黒い鈴。

「この列車には、私の記憶が保存された人間が――」

零が笑う。

「何百人もいるからだ!」

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