ユラ

ねぎまる

第1話 いたずら王女


 隣国との戦が長きに渡る国、ソル。

 城を囲むように円を描く都を、さらに空へ届くほどの防壁が周囲の攻撃から守っていた。 


 防壁に、ほど近い地域に住むシエンは、門を守る兵士の注意にもいっさい耳を傾けず、門の外へ出向いた猛将:ゲンの帰りを待っていた。

 巨大な門が開かれ、馬に乗った幾人もの騎士が帰還する。中には怪我を負った者もおり、戦いの激しさを物語っていた。


 真っ直ぐ前を見つめ、馬を進めていた一人の男が、ふと列の外へ目を向ける。

 まだ10にも満たない茶色みがかった金髪の息子シエンが、自分を認めるなり飛び跳ね、いつものように帰還を歓迎している。その光景をみるたび、ゲンの胸は熱くなった。 息子に見えるように手を上げ、大きく左右に振る。


「父さんだ!おかえり-----!!」 

 騎士たちの列へ走り寄ろうとするシエンを、兵士の両腕が捕まえた。

「何度も言わせるな!突っ込んだら危ないだろ?!」

「え-----、一週間も会えなかったんだ。行かせろよケチっ」

「なんとでも言え」

 兵士は、騎士の列が見えなくなるまで離してくれなかった。

             ※

「え?王女様に会えるの?」

 その日の夜、父親と二人暮らしのシエンは、一週間ぶりの親子の食事を楽しんでいる。 

 ス−プを飲む手を止め、目の前でパンを頬張るゲンを見た。


「そうだ。お前と同い年だから、きっと気が合うぞ?」 

「まだ会ったこともないのに、わからないじゃん」

「勘だ」

「テキトーだな〜」

 二人は笑い合った。


 3日後、城に入るということで、ある程度の装飾品があしらわれた正装を着せられたシエンは、道中。裾を摘んで不服そうにしている。同じく正装姿のゲンは、大柄な体格ながらも見事に着こなしていた。


「窮屈だし、なんか変な格好」

「何回も着てれば慣れる」

 父親を見上げるシエンの顔が、端正な顔立ちに似合わず全顔のパ−ツが中心に寄っている。たまらずゲンは吹き出した。

            ※ 

 城の中庭に通されると、甘い花の香りに包まれる。手入れされた大人よりも背の高い植え込みは、まるで迷路のように広がり、至る所に色とりどりの可憐な花が咲いてる。

 まるで違う世界に迷い込んだような光景に、シエンは目を輝かせていた。


 ゲンから離れ、歩き出す。シエンは植え込みの影から、コチらに顔を覗かせる少女に気づいた。

 長い黒髪、黒い瞳の少女は清楚な雰囲気を漂わせながら、コロコロと笑う。薄いピンク色のドレスを揺らしながら走り出し、シエンの視界からその背中が小さくなる。誘われているような気がしたシエンは、少女の背中を追って走り出した。


「あいつ、どこ行った?」

 残されたゲンは、庭園内で息子を探し始める。迷路の構造にはなっているが、大体のルートは城を行き来する者なら把握できている。

 無邪気に笑う声を耳にし、ゲンはそっと植え込みの間から覗き込む。シエンと少女が遊んでいるのを見、小さく笑って城内の方へ向かった。


 クルクルと回る少女は、シエンの前で動きを止め、両手を後ろに組んで顔を覗き込んできた。

「私、ユラ。この国の王女よ」

「え、王女?もっと大人しいかと」


「ムッ。相手が自己紹介したら、自分も名乗る。これ基本」

「し、シエン」

「うん、よくできました」

 ニッコリとユラが笑う。そして口の端を持ち上げ、悪い顔になった。


「ねぇ。私のお父様と、あなたの父親を驚かせようよ」

「何?いきなり・・・」

「前から計画してたの。あなたも協力して」

「え〜」

 半ば、強引にユラに手を引かれ、二人はいたずらの打ち合わせを開始した。

            ※

「隣国との戦が長引き、資財の輸送が滞っている。このままでは、わが国は・・・」

「戦を早急に終わらせ・・・」

 ソルの国王:ガルウィンとゲンの声が近づいてくる。


 二人の姿を認めたユラは、柱に隠れながら歩いてくる大人を指差し、向かいの柱に同じく隠れるシエンにOKサインを送った。 

「仕方ないなぁ・・」

 ため息をついたシエンは、ユラと同時に柱の影から飛び出した。


 その後、驚いた二人の大人は、シエンとユラを叱るが。二人はこれを期にいたずらを一緒にやるようになり、しばらくの間ガルウィンとゲンはいたずらの餌食となる。

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