暗い場所、世知辛い世間のような荒波の中でじっと耐え忍ぶ、強く、美しい生命。
それを、貝を媒体に光と色で表現した、素晴らしい詩だと感じました。途中途中と触れますが、生命力を感じると同時にどこか温かさも感じる、深みのある詩だとも感じました。
突然ですが。貝、綺麗ですよね。
殻には螺旋があって、それに並行して、あるいは垂直にして凹凸構造がある。個体ごとにちょっと違って、ぼんやり眺めるだけでも十分に楽しい。
そしてレビュー者のようか野暮な人は、あの螺鈿模様は対数螺旋らしい、ふむふむ、どんな性質があるのだろうか……と論文を検索し野暮に野暮を重ねます。重ねない?
とにかく。詩を作る人は違います。野暮を重ねません。
感性で、世界を捉えます。
いや、そうじゃないひとがここに(レビュー者)がいるのですが、本作の作者様は感性で捉えています。
すでに何作か拝読させていただいておりますが、本作の作者様の感性の鋭さは確かなもので、その感性の高さにいつも感服しています。たった数行、短い言葉なのに情景が浮かび、惹きつけられるです。そしてたいてい、温かな気持ちにさせてくれる。
本作ではその素晴らしい感性で、貝をモチーフに生命を詩っています。
とくに貝の内側を見ているのではないかと感じました。"闇のなかに眠る かすかな揺らめき"、という開始一文で、読み手を暗い海の中に横たわる貝へ、その殻の中に宿る命へ着目させているように感じたのです。
ちなみに、レビュー者はこの横たわる貝を、夜光貝で想像しました。
サブタイトルの『身籠る貝殻』の下の巻貝の絵と、『螺鈿細工』、というタイトルから、古くから螺鈿細工に用いられている夜光貝という巻貝を題材にしているのではないかと思ったためです。何よりあれは殻が美しい。
話を戻します。
本作の途中で、虹の層について触れている箇所があります。レビュー者はとくにそこに惹き込まれました。だってほら。すごく色が綺麗じゃないですか?
美しい殻の内側には本体、生命が隠れているのですが、殻の内側には虹色であることがあります。すべての貝ではありませんが、夜光貝は虹色。そしておそらく、この部分を見ているのではないかと推測しています。
Wikipediaさんいわくこの虹の層は真珠層と言い、貝の中にいる本体が分泌して蓄積してできたものらしいのですが――この蓄積を、積み重ねと読み、それまでの貝の生きた時間を表現している。虹色の移ろいを描写することで時間の移ろいを感じさせてくれる。生命が確かに生きているのだと、感じさせてくれる。
たった数行、しかも一行一行が短い詩で深みのある時間を感じさせてくれるのですから、作者様、おそるべし。
さらにその虹の層に触れるさい、色が深く、濃くなっていくことで、生命のそばへ近寄っているような気がしました。ひっそりと、でも確かに強く生きている命。詩のラストまでいくと、貝を詩っているようで、人間を詩っているように感じてきます。そして観察しているというよりは、優しく見守っているという感じがする。
確かにここで生きている誰かを優しい眼差しで見守り、その目で見たものを穏やかな心で教えてくれている。そんな気がしてきます。
深読みしすぎ?
深読みしすぎかもしれません。が、この作者様の詩にはそんな温かさを感じさせるところがあるのです。
お勧めです。