第23話 二十一歳

 高校を卒業した。


 十九歳になった。


 二十歳になった。


 成人式を迎えた。


 そして、また春が来た。


 ナオトたちは、二十一歳になろうとしていた。


 それぞれの時間は、それぞれの場所で進んでいた。


 由依は、地元の大学へ編入することになった。


 父親は、最後まで反対していた。


 地元へ戻る理由が、大学だけではないことを知っていたからだ。


 それでも由依は、母親に話した。


 ナオトのこと。


 自分がずっと抱えていた気持ち。


 そして、幼い頃に起きた犬の事件のこと。


 母親は、黙って聞いていた。


 全部を聞き終えると、しばらく何も言わなかった。


 ただ、由依の顔を見た。


「、、由依」


「うん」


「あなたは、その人といる時が一番自然なのね」


 由依は答えなかった。


 答えなくても、母親には分かった。


 だったら。


 由依の側には、ナオトのような人間がいた方が幸せなのかもしれない。


 そう思った。


 母親は、由依の味方になった。


 父親には反対されながらも、地元の大学への編入を支えてくれた。


 ただ。


 ナオト自身を、両手を挙げて迎え入れたわけではなかった。


 ナオトのこれまでの経歴を知れば、当然だった。


 高校を辞めたこと。


 ボクシングに打ち込んだこと。


 そして、


 そのボクシングを、完全に諦めたこと。


 ナオト自身も、それを分かっていた。


 だから、もう決めていた。


 ボクシングの代わりになるものを探すのではない。


 新しい目標を作る。


 一つ。


 由依と一緒になること。


 もう一つ。


 由依に見合う人間になること。


 それだけだった。


 一方、美咲は建築専門学校を卒業した。


 そして、また遠い街へ行った。


 建築事務所に就職した。


 中学、高校、そして専門学校。


 長く続いた彼氏との関係も、まだ続いていた。


 ただ、これからは遠距離だった。


 会える時間は減った。


 電話をする時間が増えた。


 それでも二人は、別れなかった。


 萌は、大学三年生になった。


 夜の街でのアルバイトも、すっかり板についていた。


 夜になれば、街の明かりの中をヒラヒラと歩く。


 昼間の大学生とは、少し違う顔を持っていた。


 みんな、大人になっていた。


 少しずつ。


 少しずつ。


 昔の自分たちから離れていった。


 そしてナオトも。


 大人になろうとしていた。


 ふと、昔のことを思い出す。


 沙耶に言った言葉。


 五年後。


 プロポーズして、迎えに行く。


 あの頃のナオトは、本気だった。


 五年後には、自分はもっと強くなっていると思っていた。


 ボクシングでも。


 人間としても。


 けれど。


 五年後の自分は、リングにはいなかった。


 そして、迎えに行こうとしている相手も違っていた。


 由依だった。


 奇しくも。


 あの日から五年。


 ナオトは今度こそ、誰かを迎えに行くために生きようとしていた。


 ただ、今度は違う。


 約束だけではない。


 自分が、由依に見合う人間になる。


 そのために。


 これからの人生を作っていく。


 春が来る。


 二十一歳になる。


 ナオトは、静かに前を向いた。


 由依大学三年生、由依は元々もってる柔らかい雰囲気で老若男女好かれる。


 しかし、一緒に居るナオトは絶えず眉間にしわを寄せ、取っ付きにくい雰囲気。


 殺気すら放ってるナオトだが、由依と居ると顔がほころぶ。


 デートでの食事、弾む会話。


 由依はナオトに聴く。


「そんなにいつも怒ってる顔して、誰と闘ってるの??」


 突拍子の無い質問に冗談で返すナオト。


「俺は見えない敵と闘ってるんだよ(笑)」


「・・・なにそれ?お化けとか??」


 質問が斜め過ぎて言葉を返せないナオト。


 でも、そんな由依の放つ雰囲気が最高に好きだった。


 由依が言う。


「ナオトは笑ってる方がかっこいいよ、笑って笑って」


 ナオトも聞き返す。


「由依はいつもニコニコしてるけど、怒らないよね?」


「そんな事無いけど、、私、親にも怒られたこと無いし、てか、人に怒られた事無いんだ」


「ほぇー、そりゃ凄いな、俺なんか怒られない日なんか無い位だったよ」


 そんな微笑ましい時間が過ぎた。


 そして、梅雨に間もなく入るそんな時期。


 ピンポーン。


 ナオトのアパートに由依が連絡も無しに現れる。


「うん!?、ど、どうしたの??」


 高揚した顔で由依が。


「家を出てきちゃった!一緒に暮らしたい!」


 大きいバッグひとつで、家を出てきてしまったのであった。


 



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