ディスクレイマーの最終弁論
紡白了
序
雪国で消えた高校生、と題した特番が流れている。ソファで寝そべりそれを見る俺の足元に、母が立った。
ちょうど今ごろだった。去年の二月、二つ隣の県で一人の高校生が消えた。
災害級の大雪により交通網は悉くストップし、帰宅困難者が車で夜明かしすることになった。死者も出た。過疎地は陸の孤島となり、食料品が店頭から消え、二日後、除雪のため自衛隊が派遣された。
そんな中での失踪に、彼もまた、その雪による被害者ではないかという憶測が飛んだ。
『屋根雪の下に、ということも……』
『しかし、――』
母は、つまんないわ、とテレビを消し、リビングを出ていった。
暗くなったテレビ画面に、灰色の自分の顔が映る。
――ソラ、おいで。
覚えているはずもないのに、脳が勝手に幼い頃の自分の声を作り出し、セピア色の記憶を再現させた。
もし彼が屋根雪の下に埋もれてしまったのなら、きっと体は耐えられないだろう。一週間ほどで発見されればまだ良いが、下手すれば春先まで、ということも十分ありうる……。
けれど雪が溶けても、彼の消息は分からなかった。
彼は今も、一人だろうか。
「あんた宛になんか届いてる」
寝転がる俺の額に、母はころころに膨れ上がった茶封筒を置いた。
差し出し人は……。
俺は飛び起きて、それを抱えて自分の部屋へ駆け上がり、震える手で開いた。
――
その文字が目に入った瞬間、裏返しに伏せた。読みたい。読みたくない。確かに手紙でも書いたらどうだと言ったことはあった。けれどこんな形で欲しいわけではなかった。
何十枚に及ぶ手書きの便箋は一度広げてしまえば封筒にはもう入らない。
視界に、手書きの文字が嫌でも目に入る。
『もっとすんなり――君を殺せたはずだった』
目が勝手に文字を拾う。
『思い出してみるとあの話は、――色々と抜けが――不十分なところが――。今回それを自分なりに――書いてみた』
便箋をめくると、次の用紙には一行目に【パラダイス・ロスト】と書かれていた。
――
俺は、寝転がり、心臓が速く動き出すのを感じながら、右あがりに傾くその決してうまくはない手書きの文字を、指で撫でた。
違う。こんな無味な紙ではだめだ。
あの日触れたあの肌は――、もっと冷えて、吸い付くように湿っていた。
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