第19話 戦国魔法使い
目を覚ますと、身体が重かった。
背中が痛い。
昨夜はそのまま毛布にくるまって眠ったらしい。
洞窟の中は静かだった。
しばらく天井を眺めてから、身体を起こす。
ふと、自分の身体から汗と土の匂いがすることに気付いた。
せっかく水を自由に出せるようになったのだから、試してみることにした。
新しくできた方の通路へ向かう。
少し進んだところで、水球を出した。
両手で抱えるほどの水が、目の前に浮かぶ。
「……これなら風呂代わりになるかな」
水球を少しずつ動かし、身体へ水をかける。
「ひいぃぃぃ」
冷てえ!
なんとか少しでも暖かい水が出せないか、必死にイメージしてみる。
ガタガタ震えながら試行錯誤していくと、前から出せる暖かい炎を混ぜ込むようにすることで、何とか耐えられる温度まで暖かくすることに成功する。
たまに背中に突撃してくる水色玉に、ピィピィ言いながらも、とりあえずの気持ち悪さは洗い流すことができた。
これだけでも、水の力を覚えた意味は十分にある。
ふみを風呂に入れる未来は遠そうだ、と思いながら祠へ戻る。
買い物をした時に見つけた下着を追加購入する。
さすがにこれは現代のものを使わせてもらおう。
思った以上に気分が変わった。
身体が軽くなったような気がする。
それから、昨日持ってきたビニール袋を取り出した。
このまま村へ持っていくのはまずい。
どこかで処分しておいた方がいい。
空気が心配なので、一度外に出て燃やせないか試してみることにする。
暖かい火を出す。
いつものように、小さな火が灯った。
ほんのりと暖かい。
火傷をするような熱さではない。
ビニールへ近付けてみる。
しばらく当ててみても、何の変化もない。
「……燃えないか」
火を消す。
しばらくビニールを眺める。
もう少し強い火を出せないだろうか。
頭の中で、激しく燃え上がる炎を思い浮かべる。
薪が一瞬で燃え上がるような、キャンプファイヤーのような、大きく熱い炎。
そして、何となく口に出した。
「ファイヤ」
ごうっ。
目の前に、いきなり大きな炎が現れた。
「あちぃっ!」
思わず後ずさる。
炎は朝露に濡れる森を照らし、今までの暖かい火とは比べものにならない熱気が顔まで届いてくる。
慌てて意識を弱めると、炎も小さくなっていった。
やがて完全に消える。
しばらく、何も言えなかった。
「……なんでだよ」
魔法使いかよ。
世界観がとっ散らかって脳が理解を拒否する。
いや、魔法が使えるのはありがたい。
むしろ嬉しい。
男の子の夢だしな。
ただ、妖術とか陰陽術とか、仙術とか忍術じゃないのかと。
昨日から吸収しているのはなんだ。
魔力かこれ。
洞窟で魔力を吸収して、抜けると戦国時代なのか?
本当は日本じゃなかったりするのか?
全くわからん。
わからんが今更ではある。
昨日からわからないことばかりだ。
「ウォーターボール」
スパーンッ!
軽快な音を立てて、完全に炭になったビニール袋の残骸が吹き飛ばされる。
地面の抉れ具合から、ショットガンくらいの威力はありそうだ。
欲しかったのは水源であってショットガンじゃねえよ、などと考えながら洞窟に戻る。
「ま、そりゃそうか」
確認の為、奥まで歩いて元々入り口だったところまで来てみた。
当然帰り道はない。
ちなみに5分ほどの道のりではあったが、途中に新たな分岐は生まれていなかった。
今のところは水と火でなんとかする必要がある、ということだろう。
ここまで来たのは、帰り道の確認のためだけではない。
今の自分に何ができるのか。
それを確認しなければならない。
少しの期待と、少しの焦燥感の入り混じる不思議な感覚の中、自分の確認作業を開始する。
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