まず、この作品の特徴は『分厚い風景表現がない』ことである。一般的な小説では、コートや選手、大弾幕の表現を細かく書き、周りの熱気や強豪校特有の圧迫感というものを際立たせる。
しかし、この作品は、そういったスポーツの熱よりも、その熱に焼かれている『人物(主人公)』に焦点を当てている。表現するものを人物に集中させている為、彼の感情そのものに触れる構造となっている。加えて、周りへの羨望や自身への不甲斐なさや劣等感といった感情が各話でヒシヒシと、隠すことなく書かれている。勝利という嬉々とした出来事にも彼自身は完全には喜べないという、学生の時期ならではのネガティブな感情や自己認識が色濃く、懐かしさすら感じる。それでも尚、彼は卓球という自分そのものとも言える存在に縋り、歯を食いしばって励む様子も、この作品では描かれている。
羨望、嫉妬、劣等感、希望、勝機、友情、それら全てを飲み込み、隠すことなく描いている作品は中々ないだろう。この作品に出会えたことを、僕は幸運だと思っている。これは、僕がかつて学生の頃に感じた劣等感や緊張などを全て網羅している。故に、共感できる作品であった。この作品の面白さを完全に書けていないことが、心惜しい程である。
深く読み込んだりはできていないものの、率直に感じたことは『最高』の一言である。