第十一球 俺、抑え込む

 俺は自信を持ってコートに立った。


 そのはずだった。


「…………」


 コートの向こうを見る。


 人、人、人。


 相手の学校の応援団が、ずらりと並んでいた。


 数十人はいる。


 足が、止まった。


 俺のベンチには誰もいない。


 みんな、別のコートで試合をしている。

 

 俺の応援は、誰もいない。

 みんな試合に出ているから。


 だから審判も向こうから出してもらうしかない。


 この場に、俺の味方はいない。


 江藤正治。

 それが俺の相手だ。



 ——————



 試合が始まる。


 相手の声援がうるさい。

 邪魔だ。

 なんも集中できないじゃないか。


 何のために戦う?

 みんなに認めてもらうため。


 この勝負に勝ったら、市内上位8位。


 そんな絶好の機会、簡単に逃したくない。


 応援の人数が何だ。

 そんなの知らない。


 俺はただ勝って——『卓球』で認めてもらうんだ。


 俺はサーブに回転をかけなかった。

 その代わりスピードを速く、鋭く。


 その一撃は、相手のコートに掠り、脇を通り抜けた。


 歓声が上がるたび、俺は一球を返した。

 一点取られても、一点取り返す。


 応援なんて、もう聞こえなかった。

 見えるのは、相手のラケットと、白いボールだけだった。


 気づけば、試合は終わっていた。


 俺は、ブロックで完封した。



 ——————



「よお祐希。勝ったか??勝ったよな??次は俺とだな」


「相馬?次の相手相馬なの?」


「そのとぉーーり!!ベスト4決定戦の相手は、俺だ!」


「一番楽そうな相手で助かったよ」


「何じゃそりゃ。バカにしてんの?」


「……なぁ、次勝ったら賞状確定だよな?」


「あぁそうだな」


「じゃあさ、相馬が勝ったら賞状見せてくれよ」


「そんなことでいいのか?もちろんいいぜ!」


「決まり。じゃあやろうぜ」



 ——————



 相馬の嫌なところは、戦い方がいい意味で気持ち悪いところだ。


 正統派の戦い方じゃない。

 誰も真似できない独自の戦法。


 だから、対処がかなり難しい。


 本気で打ち合ってわかる。

 こいつは……やっぱり強い。


 俺が攻撃できないとわかってて、わざとボールを高く上げてくる。


 なんとか弱い強打で返しても、また高く上げられる。


 ジリ貧だ……。


 こっちがちょっと弱いツッツキでもしたら、すぐドライブをかけられる。


 しかも回転が強すぎる……!


 どれだけブロックしても、相馬のドライブは止まらない。


 俺の卓球は、相手の強打を利用して戦う卓球だ。


 でも相馬は、その強打すら俺に利用させてくれない。


 ……俺の卓球じゃ、勝てない。



 ——————



 表彰台に上がった相馬。


 満面の笑みで、約束通り賞状を見せてくる。


「ほら、これ!」


「……うん」


 俺は笑って、賞状を受け取った。


 その紙を見つめる。


 俺も、欲しかった。


 それだけだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る